III 都市鉄道整備の効果
1 効果とは
そこで、都市鉄道整備の効果を見てみましょう。効果とは何かというと、これもいろいろな整理の仕方がありますが、どういう主体にどういう効果が発生するかという見方をするのが非常に重要でありまして、最近、それをあちこちでうるさく言うようになりました。
まず効果を受益する第一の主体は、鉄道利用者です。内容的には、旅行時間の短縮、旅行費用の節約、車内混雑の緩和、乗換負担の軽減、幹線交通へのアクセス性の向上と、いろんな形で鉄道利用者は便益をうけるわけであります。
次に道路利用者も便益をうけるわけでございまして、特に地方都市での鉄道整備、サービスの向上の目的というのは自動車交通からの転換というのを大きな目標としております。現実にどこまで出来ているかというのは議論の余地がありますが、道路利用者が鉄道に転換するということはかなりあるわけです。それによりまして道路の混雑が緩和したり、転換しなかった車のドライバーの旅行時間が短縮する、それから費用の節約になる。定時性の確保が向上するという効果があるわけです。
それから鉄道の事業者でありますが、収入が増加するわけです、ライバルは減少するということになります。それから、大体、効率的なものが出来ますから費用が削減するということです。
住民生活につきましては、駅周辺に商業、サービス施設が集積するという効果がありますし、バリアフリー化、各種生活機会の拡大ですね、あちこち出て行けるということです。
地域経済については、沿線の商業、サービス施設の商圏が拡大するとか、新しく立地するとか、雇用が創られる、土地利用の高度化が図られるというメリットがあります。
地域社会については、拠点都市、主要施設へのアクセス性向上、住宅立地と人口の増加、市街地整備の促進、都市構造の再編、税収が増える、地域の魅力が向上する、これらをひっくるめた上で地価が上昇するということです。悪い意味じゃなくて、良い意味で地価が上昇するということです。
環境については、NOx、SPM、騒音、振動の減少が図られる、CO2が削減する等の効果がありますし、安全については道路交通事故の削減という効果があります。
2 整備効果分析
全国の数ヶ所の都市圏で整備効果分析で費用対効果分析をやってみました。その一つの例として福岡をあげてみました。千鳥、筑前前原、博多南地区を分析いたしました。
千鳥駅周辺ですが、通勤者の新たなベッドタウンの確保ということで、これはJRなんですが、近場にいいニュータウンができて町が発展したということです。
図11
市街地整備の促進:ニュータウン
図12
商業サービス施設の立地
筑前前原では、道路混雑、環境悪化への対応ということをみてみました。1983年、地下鉄開業、筑肥線の電化、相互直通運転、天神まで所要時間30分になったということで、自動車の分担率が大幅に減ったということです。そして鉄道がかなり増えて、自動車交通の削減にかなり貢献しているということでございます。
博多南地区は市街地整備ということで、駅にあわせて駅前広場を整備して、地域の交流拠点として人の交流が生まれたということでございます。また商業サービス施設もかなり立地したということでございます。
まとめてみますと、いろんな主体に、多様な大きな効果を生むのですが、都市開発と連携した整備をすると、その効果はより大きなものになるということです。
IV 21世紀の都市鉄道のあり方
1 21世紀の都市のキーワード
21世紀の都市鉄道を考える時のキーワードはどんなものなのか。
経済・社会を考える時は、人口減少、少子高齢化、産業構造の変化、国際化、価値観の多様化、都市の競争、環境に対する意識向上等があります。
空間構造では、環境との共生、地域の自立、リダンダンシー(代替輸送手段、経路)、都市観光の魅力、コンパクトな空間、柔軟な都市構造等ですね。
制度では、規制緩和、財政制約、地方分権、情報公開、説明責任、民営化があります。
それから、産業構造の変化にも大きな問題があります。特に先程お話した臨海部のところが、非常に大きな構造変化を起こして空洞化しているということです。それをどういうふうに埋めていくかというのが、都市の再生や地域再生への大きな課題です。それに対して、鉄道・軌道がどういう貢献ができるのかということであります。
そこで私達は知らず知らずのうちに生活の質に対する欲求の増加といいますか、随分長い間、量を充足すればいいんじゃないかというようにしてきたわけですけれども、ここ10年間位の間に、やっぱり質の問題は非常に大切であるという認識に変化してきたのです。豊かさ、ゆとり、環境問題とか、そういったことが非常に重要視されてきて、そういう中で鉄道に対する課題は何だろうか。
日本の場合は、地下鉄と新交通だけという具合に決めうちして作ってきたこともあります。あるいはある自治体がこういうシステムを導入する時に、あまりいろんなものを比較しないで、市長さんが「地下鉄」と言ったから地下鉄になった。あるいは「モノレール」と言ったからモノレールになった。そのようなことが多いわけでありまして、もうちょっと、特性をつぶさに比較して選択することが必要です。
今までは需要や輸送力、速度位の指標で選択してきたわけですけれども、これからはもう少しきめ細かにですね、利用者の属性とか、そこからくるニーズはどんなものかをきちんと分析し、まちづくりとの調和、都市再生への貢献、景観魅力の向上も考慮してですね、環境改善への貢献、あるいは費用対効果も、幅広い議論をしていって、そういった中で、どのシステムが一番いいかということを選ぶ。そうすれば、「でかいモノを作った、客が乗らなくて赤字じゃないか」という批判をされることがなくなるんじゃないかと思います。これからはこういう視点が重要じゃないかと思います。
2 21世紀の都市鉄道の課題と役割
最後に21世紀の都市鉄道の課題と役割ということでございます。
まず、混雑の問題、これはずっと引き続いてやってるテーマでありますが、まだ完全ではありません。昔は東京での乗車率が180%とかが当面の目標でしたが、それを上回る線区がたくさんあったわけです。
ところが首都圏の鉄道網をみてみると、混雑状況がバラバラになっています。理由はJRの路線が取り残されてるということです。JRは速いものですから、利用する人が多くて、その結果、混んでるということなんですが、混雑が2極化しております。あるいは分散化しています。その残されたものについて、何とかしていかなきゃいけないということではないかと。車両も混んでる、線路も混んでる、ターミナルも混んでる。まあ人口が減ってるから、いずれなくなるよという人もいるんですが、そういったものではないだろうと思います。
21世紀の鉄軌道を考えると、新たな事業手法をちゃんと作った方がいいなということで、私共も今、勉強会をやってますけれど、なかなか、どういう切り口でやったらいいのか、わからないんですけれど、連続整備事業と周辺再開発事業等、都市開発事業と鉄道事業を一体的にやった方がいいということも検討しています。そのためには何が問題かということを議論しなきゃいけない。
国、自治体、民間の役割の明確化ということでこれも地方分権の一連の流れの中で、どういうふうに整理するかということが問題だと思います。
事業方式。上下分離方式といわれていますが、これの制度設計を今検討しています。
それから政策評価に関係するんですけれど、はっきりした数値を決めて、それに対して政策をやっていくというような姿勢が必要なんじゃないかと思います。
今までいろいろなことをお話しましたけれど、そういったサービスを持続できる・向上できる経営というのが、非常に大事でして、鉄道の経営というのは大都市、中小都市含めて、大きな問題になっていますけれど、そのために何ができるかということも、これからも知恵を絞らなくてはいけないことだと思います。
ご清聴ありがとうございました。
《自由討議》
伊東講師による基調報告の後、参加者を交えて討議が行われました。ここでは、その一部を紹介します。
・財務評価も大切です。だから福岡の場合も、経済評価と財務評価を結びつけながら費用対効果、そういった部分を研究していただければと思います。
・今、非常に高齢化、少子化が進んでいますし、鉄軌道を生かしていくためにはどうすればいいのか悩んでいる最中です。
・新交通はどこも経営難にあるように思われます。そこのところでもっと工夫がいるというか、法的な役割の部分と、開発負担、受益者負担の兼ね合いをどういうふうに考えたらいいのかが難しいと思います。
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