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(2)近傍物標による反射の影響
 前節の結果より、理想的な自由空間においてアンテナ間距離が十分設けられる等、条件が良い場合は、本ビーコンシステムで必要となる-66dBのアイソレーション量が確保できる可能性があることがわかった。しかしながら、ブイ搭載型ビーコン等では近傍を大型船舶が通過する可能性があり、また陸上設置型でも近くに構造物が存在する可能性があるなど、実際の運用環境は必ずしも理想的ではない。従って、これらの近傍物標がどの程度、送受信の回り込み量に影響を与えるか検討した。
 実験は、図5-5に示すように金属平板をアンテナ近傍に設置して、アンテナ間の伝送量をネットワークアナライザで測定するようにした。設置する金属板は、送受アンテナが元々持っているアイソレーション量との識別が可能となる反射量が得られるように、十分な大きさを持たせるようにし、具体的には80cm角の平板とした。参考のため、この平板のRCS(Radar Cross Section)σ[m2]を計算すると、次式となる。
 
σ=4πA22≒5000[m2] (5-1)
但し、A: 金属平板の面積[m2
 
図5-5 近傍物標の影響の評価実験概要
 
 新マイクロ波標識がシステムとして成立する-66dB以下の結合量を得るために、どの程度アンテナから近接物標を遠ざければよいか把握する必要がある。このため、簡単な理論モデルによって検討を行った。
 送受信アンテナの前方に物標が置かれた場合、送信した電力がこの物標で反射されて受信されるレベルは、図5-6に示すように2つのモデルで考えることができる。一つは、同図(a)に示すようなレーダー方程式に従うような考え方である。この考え方によれば、距離Rに存在する物標からの反射波の強度Prは、
 
Pr ∝ 1/R4 (5-2)
 
となり、距離の4乗に従って弱くなる。一方、同図(b)に示すように、反射体が十分大きく、送信アンテナに対して受信アンテナを鏡像と考えれば、アンテナと反射体の距離の2倍を伝搬距離として自由空間における伝搬式に従う考え方となり、
 
Pr ∝ 1/R2 (5-3)
 
のように、距離の2乗に従って弱くなる。このような2つの考え方の妥当性と、実際に新マイクロ波標識の設置を行う際の問題点を把握するため、アンテナ近傍に物標が存在する場合の結合量を測定した。金属平板とアンテナの距離Rに対する結合度変化の測定結果を計算による値と併せて図5-7に示す。なお、同図中Iマークで示される実測値のデータ幅は、測定データのばらつきを示すものではなく、アンテナの水平面内平坦度に起因する方向性に対する変動要素を表現したものである。実測に関しては、暗室の広さ、装置の制約等によりRを40〜160cmの範囲で変化させてデータを取得したが、この範囲内では金属平板が結合量に与える影響は大きく、新マイクロ波標識が最低限必要とする-66dBの結合量を下回ることはなかった。一方、計算値については、いずれの考え方に従うにせよ-66dB以下の結合量を得るためには、大きな反射体との距離は概ね20m以上を必要とする結果が得られた。また、アンテナの極近傍に反射体がある場合の実測結果は、(b)の自由空間伝搬式に従う計算結果に比較的近い値となることがわかった。
 以上の結果より、アンテナ間の結合量は、理想的な環境下においてはシステムが必要とする-66dB以下を満足できる可能性もあるが、新マイクロ波標識の設置にあたっては近傍反射物に十分注意が必要なことが明らかになった。
 
 なお、前節のアンテナ間アイソレーションも含め、回路的な工夫や信号処理によって送受アンテナ間の回り込みを低減ないしはキャンセルする方法も、FM-CWレーダー等に応用する技術としていくつか提案されている。しかしながら、これらの方式によっても実現し得るアイソレーション量は60dB程度である。従って、新マイクロ波標識で必要とされるような極めて高いアイソレーションを実現するには、これらの方法もそのままでは適用できず、さらなる工夫が必要である。
 
図5-6 近傍物体からの反射に関する理論モデル
(a)レーダー方程式に従う考え方
 
(b)伝搬の式に従う考え方
 
図5-7 近傍物標の距離によるアンテナ間結合量の変化







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