これまで述べた帯域制限の検討は、理論的な理想フィルタによる特性を基に行ってきた。しかしながら、現実のシステムではアナログ回路もしくはデジタル処理で実現可能なフィルタを使用してシステムを構成する必要がある。そこで、各種フィルタの特性が応答波形にどのような影響を与えるか検討した。
代表的なフィルタの特性を図3-52に示す。同図(a)はこれまでの検討に使用した遮断周波数fc=0.8MHz理想フィルタの特性であり、現実には存在しない。(b)は、遮断周波数0.8MHzの8次バタワースフィルタの特性であり、理想フィルタに近い非常に急峻な特性が得られるが、位相変化により波形歪みが発生することが知られている。(c)は、遮断周波数1.25MHzのベッセルフィルタの特性であり、急峻な遮断特性は得難いが位相直線性があるため波形が歪みにくい性質がある。なお、ベッセル特性のフィルタは遮断特性がなだらかなため、必要帯域での減衰が発生しないように遮断周波数を他のフィルタと比較して高く設定している。
これらのフィルタを帯域制限に使用した場合の符号波形への影響を図3-53に示す。バタワースフィルタを使用した場合(c)は、位相変化が影響し、符号波形に歪みが発生していることがわかる。また、ベッセルフィルタを使用した場合(d)は、波形の歪みは極めて小さいが、他のフィルタ特性に比較して周波数特性がなだらかなために、厳密には短点前後の無信号期間の明瞭度が悪くなる傾向がある。
この他、チェビシェフ、逆チェビシェフ、連立チェビシェフ等のフィルタも急峻な遮断特性が得られるものとして知られているが、これらはいずれも波形歪みが大きいため、今回の検討からは除外した。
以上の帯域制限に関する検討結果をまとめると、次のような点が明らかになった。
(1)フィルタリングによる帯域制限で、単位遅延時間>レーダー分解能の場合に生じる応答波形の異常(櫛形波形)を抑圧し、なめらかな応答波形を出力できる。
(2)フィルタリングによる帯域制限で、離調時に発生する応答波形の異常(櫛形波形)を抑圧し、なめらかな応答波形を出力できる。また、レーダー波が狭帯域でかつ離調がある場合に発生する異常応答波形も抑圧できる。
(3)フィルタ特性は、応答符号波形に与える影響に留意して決定される必要がある。バタワースフィルタは応答波形形状に歪みが生じ、ベッセルフィルタは波形の無信号期間の落ち込みが悪くなる。従って、レーダー側での表示との兼ね合いも考慮し、これらのフィルタ特性を設定する必要がある。
(4)フィルタは、概ね以下のような遮断周波数が適当である。
理想フィルタ:0.80MHz(±0.80MHz=1.6MHz帯域)
バタワースフィルタ:0.80MHz(±0.80MHz=1.6MHz帯域)
ベッセルフィルタ:1.25MHz(±1.25MHz=2.5MHz帯域)
図3-52 各種のフィルタ特性
(a)理想フィルタ(遮断周波数0.80MHz)
(b)8次バタワースフィルタ(遮断周波数0.80MHz)
(c)8次ベッセルフィルタ(遮断周波数1.25MHz)
図3-53 各種のフィルタによる波形変化
(a)もとの波形(符号「K」)
(b)理想フィルタ(遮断周波数0.80MHz)通過後
(c)8次バタワースフィルタ(遮断周波数0.80MHz)通過後
(d)8次ベッセルフィルタ(遮断周波数1.25MHz)通過後
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