4.生物生産の有効利用方針と調査研究提案
今回の視察では、沖ノ鳥島の礁池内(東小島)と沖合による海水中生物の分布数を調べ、沖ノ鳥島の生物生産性のポテンシャルを概査した。その結果、絶海の孤島で人間の影響が無く、生物生産の基となる栄養塩類が乏しい海域であるにもかかわらず、日本沿岸各地に匹敵する生物生産ポテンシャルを持っている可能性が示唆された。この結果は、今後の調査・研究で、実際の生物生産力や栄養塩濃度の測定を行って確認して行く必要があることは言うまでもないが、今後の有効利用を検討する上で重要なキーポイントになると考える。
以下には、考えられる有効利用項目を示す。
(1)深層水を活用した高生物生産場の造成
生物生産に重要な栄養塩類は、現在は低濃度であるが、急峻な沖ノ鳥島では周辺の深海から容易に入手可能である。その高栄養塩類を利用してポテンシャルとしては充分な現況の分布生物の生産性を活用することで、次のことが可能になる。
●サンゴ礁内に深層水を導入することで、サンゴや有孔虫の生産力を高め、サンゴ由来岩礁・陸地や有孔虫由来の砂・陸地を造成する。→領土形成
●サンゴ礁外の周辺海域に深層水を放流することで、プランクトンの生産力を高め、漁場価値を向上させると共に、大気中のCO2吸収源とする。
→経済活動促進
(2)熱帯域海洋生態系研究ステーション
沖ノ鳥島は、人間社会の影響を受けない熱帯域における絶海の孤島である。
そして、生物生産のポテンシャルが充分なサンゴ礁・環礁が形成されている。
このような環境は、世界的にも貴重な研究資源である。そこで、沖ノ鳥島を上記(1)深層水を活用した高生物生産場の造成」に係わらず、サンゴ礁および熱帯海洋域生態系を対象とする基礎メカニズムと利用推進研究ステーションとすることは、我が国および世界の海洋資源利用推進にとって極めて意義あることであると考える。
以上の沖ノ鳥島有効利用項目を実現させるためには、現存するプラットホームを整備することが急務と考える。プラットホームが少なくとも「熱帯域海洋生態系研究ステーション」の核となる機能を持つようになれば、多くの研究が可能になり、生態系を活用する有効利用に関する研究を飛躍的に進めることができるであろう。プラットホームの整備は、灯台設置による安全航行や経済域拡大と共に、最初に必要なインフラ整備であると考える。
プラットホーム整備前には、調査船による基礎研究が重要であり、現状(来年度以降)としては次の研究を進めるべきであると考える。
(1)サンゴ礁内および沖合域の生物生産力および栄養塩類濃度の測定
(2)周辺深層水の生物生産力および栄養塩類濃度の測定
以上の我々が考える沖ノ鳥島有効利用案をまとめると次のフローになる。参考にして頂ければ幸いである。
海洋生態系を活用する沖ノ鳥島有効利用案
引用文献
1)(社)日本造船研究協会(2004): RR-E101 バラスト水管理条約に関する調査研究(平成15年度報告書)、日本財団助成
2)M. Magi, B. E. Casareto et. al (2004): Evaluation The
Effectiveness of Artificial Marine Structures as Upwelling-Generators to Enhance Ocean CO2 Sinks, 7th
International Conference on Greenhouse Gas Control Technologies, www. 6H6T7. Co., Vancouver BC, Canada
3)Casareto, B. E. (2004): Organic Matter Behavior During
Mesocosm incubstion of undisturbed Mesoplelasgic waters, Abstract Book ASLO/TOS Ocean Research 2004 Conference,
Honolulu, Hawaii.
4)B. E. Casareto, Y. Suzuki et. al (2000): Particulate
organic carbon budget and flux in a fringing coral reef at Miyako Island, Okinawa, Japan in July 1996,
Proceedings 9th International Coral Reef Symposium, Bali, Indonesia, 2000.
|