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2003/03/01 産経新聞朝刊
カジノ構想の功罪 厳格なる施行で教育効果も
大阪商業大学学長 谷岡一郎
 
 カジノ論議が盛んである。不況脱出の切り札にしようという動きがある一方で、犯罪の温床になる、ギャンブル依存症をつくるなどのマイナス面を指摘する声もある。日本にカジノは根付くのか、その功罪について考えてみる。
◇娯楽の選択肢
 米国において、さまざまな街や州でカジノが合法化されたのは、「経済的」なプラスを求めてのことであった。実際、カジノをスタートしたほぼすべての地域において、税収、雇用(失業率の減少)、民間投資の活発化といった経済効果があり、それは現在も進行中である。
 観光産業およびレジャー関連産業は、この不況の世の中でも伸びが期待される数少ない産業のひとつである。これから十年、二十年くらいで、いわゆる団塊の世代の人々が引退生活に入る。この人々が消費する余暇活動の時間とお金は莫大(ばくだい)なものとなるだろう。海外の主要先進国において、カジノは娯楽の重要なオプションとなりつつあり、日本でも娯楽のオプションの多様化は必至だと思う。
 たとえばの話、ディズニーランドに家族を連れて行くお父さんの八割以上は、内心、「めんどくさいなあ、たまの休みくらい家でゴロゴロしたいよ」などと考えているもので、このように楽しくない人が一人でもいるなら、そのレジャー施設は二十一世紀のアミューズメントとして欠点がある。かりにディズニーランド内部にカジノがあれば、この欠点はかなりカバーされるはずである。
 カジノのプラス面はほかに、闇組織の資金源(カジノ・バーが年間いくら儲けて(もうけて)いるか考えてみよ)のカット、大人の社交の場の創出、ギャンブル行政全般の見直しなどがあり、さらに私見として子供への教育的効果もあるが、これはカジノのマイナス面で論じよう。
◇マイナス効果
 カジノに反対する立場からよく主張されるのは、(1)風紀が乱れ、犯罪が増える(2)青少年に悪い影響がある(3)ギャンブル依存症患者が増え、崩壊する家庭が増える−といった点である。
 順に論ずることにしよう。まず、風紀と犯罪の問題であるが、海外の事例を見る限り、そのような心配は杞憂(きゆう)であるといってよい。これはアメリカ連邦政府による報告書にも明記されていることだが、新しくカジノをスタートした地域において、それを原因として犯罪が増加したという証拠はゼロであった。ただしこれは、アメリカ並みの法律とその厳格な施行がなされるという前提での話。日本社会ではここがやや不安ではある。次に青少年の問題であるが、私は逆に青少年にとって良い教育効果があると考えており、これは水掛け論である。
 この議論は、思い出してもらいたいのだが、スポーツ振興くじ(toto)法案の審議でも出た。実際にtotoが始まって一年後、PTAの一人に尋ねてみたが、「学校現場では何も起こらなかった」との返事だった。私などは資本主義社会で自己責任の取れる人間を育てるには、幼少の頃より世の中のワナと厳しさを教えるべきだという意見である。
 三つめのギャンブル依存症の問題は確かに存在する。海外の例だとプレイ人口の1−3%程度が潜在的なものも含めた依存症と定義されている。「そんなものはアルコールや糖分と同じ、ハマッて問題が起こるのは自己責任だ、放っとけ」という意見もあるが、やはり自分たちが生み出した社会悪であり、カジノ側からのなんらかの手当てが必要であると思う。とはいえ、既存の競馬やパチンコ、宝くじ産業にも責任の一端を担わせるべきである。
◇地方の時代
 以上、カジノの功罪を簡単に述べた。カジノは地方の意志によってやりたいところがやれば良い。やりたくなければそれだけの話。どんな法律になるかは知らないが、お願いがひとつある。それはカジノで自治体の税収が増えたとき、それを理由に地方交付税を減額しないでほしいということだ。その自治体は功罪を比較し、努力も勉強もし、そしてカジノに手を挙げたはず。つまり悪いことが起これば自分たちの責任でなんとかする決心をしたのである。カジノによるプラスは当然権利があるだろう。
 これが本来の地方による競争であり、自己責任であり、それあってこそ地方の時代なのである。
谷岡一郎(たにおか いちろう)
1956年生まれ。
慶應義塾大学法学部卒業。
南カリフォルニア大学社会学部大学院博士課程修了。
大阪商業大学助教授、教授を経て、現在、同大学学長。
 
 
 
 
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