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2002/10/07 産経新聞朝刊
【ニュースウオッチ】衰退する地方競馬に生き残る道はあるのだろうか
 
 地方自治体の財源として、大きな役割を果たしてきた地方競馬が正念場を迎えている。売り上げは平成三年度をピークに下降線をたどり、十三年度は全主催者が二年連続の赤字となった。昨年の中津競馬(大分)、新潟県競馬に続き、この夏、“日本一小さい競馬場”の益田競馬(島根)が、廃止の憂き目にあった。馬の産地として知られる北海道でも、存廃の検討が始まっている。
(地方部次長 中野友章)
■存続へ求められる構造改革 “官の興行”に限界
◆取り組みの遅れ
 「長引く不況、レジャーの多様化という外的要因に加え、主催自治体の取り組みが遅れ、ファンをつなぎとめる魅力が低下したことが大きい」
 農林水産省競馬監督課の鈴木徹課長補佐は、地方競馬の衰退をこう分析する。
 中津競馬では、賞金引き下げで収支改善を図った結果、良質な馬が集まらず、ファンが離れる悪循環に陥ってしまった。
 新潟県競馬は累積赤字五十五億円で、「これ以上財政を圧迫できない」と三十六年間の歴史に幕を閉じた。振興策として、新潟県は場外馬券場の新設を計画したが、地元住民の強い反対にあって挫折した。
 「日本中央競馬会(JRA)の所属馬や騎手との交流、新種馬券の導入・・・。あらゆる手を尽くしても焼け石に水だった」(新潟県畜産課)。管理責任者の平山征夫知事も「場外馬券場売り場ができなかったことが一番の敗因だった」と振り返る。
◆2年連続の赤字
 全国の地方競馬の売り上げは、平成三年度の九千八百六十二億円を記録してから減少し、十三年度は五千二百二十二億円と全盛時の六割以下にまで落ち込み、全国二十四の主催者(三十競馬場)すべてが二年連続の赤字となった。
 ここ一年で廃止に追い込まれた競馬場は中津、新潟、三条(新潟)、益田の四つ。このため、現在の地方競馬は二十主催者(二十六競馬場)となった。
 累積赤字が、百五十九億円(十二年度)にまで膨れ上がった北海道営競馬をはじめ、足利(栃木)や宇都宮(栃木)、高知の四自治体は「収支が改善できない場合は廃止もあり得る」としている。
◆振興への対策
 廃止後もホームページで「exciting新潟県競馬」を開設している競馬ファンの“umatake”さんは「競馬界も構造改革を行い、騎手、調教師、馬主ら人に関する免許はすべて統一し、成績をあげれば、誰でも報われるシステムを構築すべきだ」と強調する。
 JRAと地方との交流の先駆けとなり、平成五年からJRAのGIレースの発売に踏み切った岩手県競馬。不況下でも地方競馬の中で屈指の売り上げ(十二年度、四百五十六億円)を誇る。
 六年前に地方競馬初の芝コースを備えた新盛岡競馬場「オーロパーク」を開場。大型スクリーンでレースの模様を放映する場外馬券発売所「テレトラック」も隣接県(青森、秋田、宮城)の計九カ所に設け、低迷期も積極的に投資した。
 新たな市場開拓も進め、昨年からは九州の佐賀、荒尾(熊本)の競馬場と連携した「M(みちのく)&K(九州)競馬」を展開中。岩手で競馬のできない冬季に九州で馬を走らせ、馬券を東北でも発売する方式だ。
◆競馬はスポーツ
 岩手県競馬振興公社の藤原正紀理事長は今年三月まで岩手県競馬組合事務局長として、数々の新機軸を打ち出してきた。昭和六十一年には地方所属三歳馬の全国交流競走「ダービーグランプリ」の新設に尽力した。
 「競馬はスポーツ。ギャンブルだけではファンは振り向かない。馬の質を上げ、レースの充実を図ることが大事」(藤原理事長)
 地方競馬の衰退が進むなか、藤原理事長は「調教師や騎手、厩務員(きゅうむいん)らは馬に携わる“プロのスポーツ集団”。その集団を二、三年で異動する腰掛けの公務員が運営してうまくいくわけがない」と強調する。
 競馬先進国の米国や英国は民間団体がレースを主催している。競馬を支える興行(ビジネス)は官だけでは対応できない。それに国や自治体が、収益を吸い上げるだけで、肥料を施さなければ果実は育たない。
 いま、地方競馬の構造改革が求められている。
◆岐路に立つ公営ギャンブル
 地方自治体が開催する公営ギャンブルは「地方競馬」「競輪」「競艇」「オートレース」の4競技。岐路に立つのは、地方競馬だけでなく、ほかの3競技も平成3年度をピークに売り上げが減少。不況に強いといわれた“ギャンブル神話”は姿を消した。
■競輪
 平成13年度売上高は3年度の1兆9553億円から40.2%減の1兆1710億円と落ち込んだ。
 赤字経営に追い込まれた自治体の悲痛な声が相次ぎ、経済産業省は14年度から競輪事業を総括する外郭団体の日本自転車振興会に対し、自治体が負担する交付金(上納金)の算定基準を40年ぶりに見直し、負担率の基準となる売上高(1開催当たり)を5、6倍に引き上げた。
 競輪学校があり、プロ選手登録数が1位の静岡でも、売上高は右肩下がり。1日当たりの車券購入額は1人5万6000円(3年度)から3万4000円に減少。ようやく年末から高配当が期待できる新賭式3連単を導入する。
■競艇
 13年度の売り上げは、ピーク時比42.1%減の1兆2812億円。減少幅は大きく全国24場の収益を見込む自治体財政に深刻な影を落としている。東京都青梅市は多摩川競艇場の開催分収益が2年度の130億円から10年度は、ほぼゼロとなった。
 三菱総研の調査によると、競艇ファンの95%が男性で、ファンの平均像は月収37.9万円の52.5歳の労務系・サービス自由業者。若者や女性ファンの獲得が課題となっている。
■オートレース
 13年度はピーク時から51.7%減の1688億円と全公営競技中、売り上げ減少がもっとも深刻。全国6場は川口(埼玉)と船橋(千葉)を除いて苦戦。総括する小型自動車競争運営協議会では「存亡の危機」と位置付け、昨年12月に再生に向けた緊急プログラムを立ち上げた。
 ファン本位の魅力あるレース実現を目標に(1)競争や選手制度の再編(2)販売チャンネルの充実(3)レースの視野拡大(4)事業再構築−といった構造改革を掲げている。制度見直しとして、車券発売や広報宣伝の事務を大幅に民間委託する方針を打ち出した。
 
 
 
 
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