1999/04/07 毎日新聞朝刊
[追跡]社会 多摩の公営ギャンブル 他市うらやむ収益も今は昔、赤字転落の危機も
◇見直し迫られる自治体
深刻な不況の影響で、公営ギャンブル事業の不振が続いている。東京・多摩地区では27市のうち25市が事業組合に加入するか単独で競輪、競艇を開催しているが、組合の中には売り上げ減で各市への配分金(1998年度分)が出せないところも出始めた。「赤字転落」の危機さえささやかれる組合や市もあり、各自治体はギャンブル運営の見直しを迫られている。
【金塚祐司、佐藤岳幸】
●歯止めなく
「景気がいつまでたっても良くならない。客が生活費に重点を置いていることをヒシヒシ感じるよ」。ある事業組合の職員はため息を漏らした。不景気に強いといわれるギャンブル。だが、バブル期をピークに売上金、入場者数とも下降を続け、歯止めが掛けられない状態が続いている。
「京王閣」でレースを年間60日開催している都十一市競輪事業組合(管理者=寺田和雄・町田市長)は八王子、武蔵野市など11市で構成されている。90年度に495億円(配分金は計39億円)あった売り上げが、98年度には269億円に半減。入場人員も76万人から48万人まで落ち込んだ。払戻金や各種団体への納付金、諸経費などを差し引くと、98年度の利益はほぼゼロ。このため、66年の設立以来初めて、各市への配分金を出さないことにした。
●配分金ゼロも
「京王閣」と「立川競輪」でレースを開催する都市収益事業組合(同=安田養次郎・三鷹市長、三鷹、田無、福生市など9市で構成)、「多摩川競艇」で開催する都四市競艇事業組合(同=前田雅尚・小平市長、小平、日野市など4市で構成)も「98年度の配分金はゼロの見通し」という。多摩地区の市で構成される事業組合はこのほかに二つあり、いずれも「江戸川競艇」を開催している。この2組合も配分金は出せるものの、売り上げは減っている。
三鷹市の安田市長は99年度予算案を発表した際、「来年は(競輪開催の)利益が見込めない。このままでは市の会計からギャンブル運営資金を補てんしなければならなくなる」と話し、危機感を募らせた。
売り上げの減少は全国的な傾向だ。日本自転車振興会(東京都港区)によると、全国50の競輪場の売上金は91年度の1兆9553億円から7年連続して減少し、98年度は1兆4497億円まで落ち込んだ。また、全国競輪施行者協議会(東京都中央区)によると、97年度から施行権を返上する自治体が出始め、熱海、沼津市などで構成する静岡県六市競輪事業組合も98年度末で返上したという。
◇ギャンブル収入否定しないが・・・
●無縁の市では
多摩地区の27市で公営ギャンブルにかかわっていないのは、文教地区の指定を受けている国立市と、91年に市制施行した羽村市。羽村市広報課は「事業組合への参加案は出たことがない」という。同市の市税収入の約4割は法人税。同課は「ギャンブルからの収入を否定はしないが、これまで工場誘致などの基盤整備に財源を求めてきた。結果的にそれが良かったのではないか」と話し、他市の窮状を静観している。
景気回復への光明が見えず、赤字転落の可能性も出てきた公営ギャンブル。財源を頼ってきた自治体にとって、抱え込んだリスクはあまりに大きい。
◇売り上げ「最盛期の半分」−−“大打撃”青梅市の場合
●やめられぬ
多摩地区でもとりわけ傷が深いのが、「多摩川競艇」で年間154日間、単独でレースを開催している青梅市だ。
最盛期の90年度には年間売り上げ1295億円、入場者174万人を記録、収益は130億円に達した。翌年度の市予算への繰入金は100億円を超え、公共工事の予算に重点的に振り分けられた。同市財政課では「工事費の高い山間地の工事などではずいぶん助けられた。周辺の自治体からもうらやましがられたものです」と当時を振り返る。
しかし、98年度の入場者は120万人と低迷し、売り上げは660億円と最盛期の半分程度。決算では約4億円の黒字を確保する見通しだが、今年度以降の展望は開けない。同市事業部では「入場者の減少はもちろん、不況の影響か、1人当たりの年間の投票券購買単価が7万4000円(90年度)から5万6000円(98年度)にまで減ったことも痛かった」という。
同市では今年度、水道事業などの特別会計に予定していた競艇の事業会計からの繰入金が確保できず、約33億円ある市の積立金(財政調整基金)のうち、11億円を取り崩した。「来年度は競艇からの繰入金を低く見積もって予算を組まなければならない。今年度のように多額の基金の取り崩しはできない」という。さらにこのままでは今年度は競艇の事業会計が赤字になることも予想されている。
田辺栄吉・青梅市長は3月の記者会見で「収益事業であるギャンブル運営の赤字を市の財政で補てんすることになったら、市民の理解が得られるはずがない。だが、競艇は長い歴史もあり、すぐにやめることはできない」と、苦しい胸の内を明かした。
◇涙ぐましい経費削減策
●存続の模索
こうした台所事情の中、青梅市では大規模な経費削減策を打ち出し、競艇の存続を模索している。
発券など窓口業務の従業員について、今年度は新規採用と退職者の補充をしないことを決定し、900人の従業員を850人に削減。約2000万円の経費を浮かせるという。また、8億3000万円かかっていた広告宣伝費も約9000万円減らし、外部の業者に委託している会場の清掃や警備も効率的に人を再配置して、3000万円を削減した。投票用のマークシート用紙や紙コップも、今年度から関東にある五つの競艇場で共通とし、合わせて1500万円の経費を浮かせた。榊田明男管理課長は「各競艇場とも二つ返事で共通化が決まった。苦しいのはどこも一緒です」と話す。
新しいファン獲得のため、初めての試みも4月からスタートした。西多摩地区のケーブルテレビ「多摩ケーブルネットワーク」(本社・青梅市)で3レースから最終レースまでの実況と配当などを放映するもので、事業費として今年度1000万円の予算が組まれた。涙ぐましい経費削減をしている中では異例のことだ。
●公営ギャンブル
県、市、町、村が単独または事業組合をつくってレースを開催する。払戻金、諸経費を差し引いた売上金は各自治体に配分され、主に公共工事の予算に割り当てられる。
また、売上金の一部は日本自転車振興会などの上部団体に「納付金」として拠出され、体育事業の振興費などに充てられる。
多摩地区では5事業組合と、単独で3市が公営ギャンブルを運営。関係事業組合・自治体と開催競技は次の通り。(一部自治体は複数を運営)
都十一市競輪事業組合(構成市・八王子、武蔵野、青梅、昭島、調布、町田、小金井、小平、日野、東村山、国分寺)=京王閣▽都市収益事業組合(同・三鷹、田無、福生、狛江、東大和、清瀬、東久留米、武蔵村山、保谷)=京王閣、立川競輪▽都六市競艇事業組合(同・八王子、武蔵野、昭島、調布、町田、小金井)=江戸川競艇▽都四市競艇事業組合(同・小平、日野、東村山、国分寺)=多摩川競艇▽都三市収益事業組合(同・多摩、稲城、あきる野)=江戸川競艇
▽青梅市=多摩川競艇▽立川市=立川競輪▽府中市=平和島競艇
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