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1996/04/26 毎日新聞朝刊
[社説]大型連休 パチンコは余暇の王様か
 
 ゴールデンウイークが始まる。
 今年は3日間の平日が挟まり、前後半に二分された格好だ。景気の動向そのままに、谷間の3日間も稼働する事業所や、逆に3日間も含め連続10日間の大型連休とする企業など対応はさまざまである。
 何日間の連休となるにせよ、春の大型連休は、入学や入社あるいは定年退職など、新たな出発が多い年度初めの直後だけに、休日や余暇の過ごし方を考える機会としたい。
 だが、私たちを取り巻く今の余暇、レジャー環境は、長引く平成不況の影響から決して明るくない。
 余暇と表裏の関係にある労働時間は、1989年から時短が猛烈な勢いで進み、6年間に一人当たりの年間総実労働時間が計184時間も減少したが、95年は逆に5時間増加に転じて1909時間となった(従業員30人以上、労働省調べ)。
 レジャー資金となるサイフの中身も、これまた不況で実収入、可処分所得とも横ばいか下がり気味で、冷え切った個人消費からレジャーへの出費も極力抑える傾向にある。つまりはより楽しいレジャーを過ごそうにも「カネ」や「ヒマ」がほとんど増えていないのが実情である。
 ただ、余暇開発センターが25日発表した「レジャー白書」によると、昨年の余暇市場は85兆5060億円と前年比0・9%増で、このうちパチンコの26兆3420億円、全体の約3割を占める突出ぶりが際立つ。
 調査方法が異なる総務庁のサービス業基本調査も、パチンコは自動車産業と同規模の30兆4778億円、5年間で2倍増、としている。
 これほどまでにパチンコが突出した背景として、脱税対策を錦(にしき)の御旗(みはた)にしたプリペイドカード導入と、その専用機(CR機)登場(92年)によって、ギャンブル性が一挙に強まったことが間違いなく挙げられる。かつて、遊び下手な日本人のレジャーを揶揄(やゆ)して「テレ、ゴロ、パチ」なる言葉が使われた。テレビを見ながらゴロッと横になり、戸外での余暇はパチンコだけ――との意味だが、労働時間がほぼ欧米並みに近付いた今、パチンコが再び「余暇の王様」ではあまりにも寂しい、と言わざるを得ない。
 しかもギャンブルなどで自己破産や家庭破壊を招いた人々が駆け込む民間施設には、射幸心をあおられて“パチンコ中毒”の末に借金を背負った主婦などのケースが最近目立って多くなった、と聞く。
 同白書も「ギャンブル性が強くなり過ぎて客離れが起きている」としたうえで「遊技機の不正改造、プリペイドカードの変造、景品交換所の強盗事件など犯罪・不正事件が相次ぎ、パチンコ業界のイメージは極めて低下している」と断じている。
 来年4月には改正労働基準法によって、法定労働時間は週44時間から40時間に完全移行される。そうなれば自由時間はさらに増えるし、来るべき高齢社会で余暇問題は重要である。何よりも「ゆとりある社会」の実現に余暇対策は欠かせない。
 自分の好みで過ごしてこそ余暇であろうが、もはや余暇活動の範囲から逸脱した感の強いパチンコよりも、例えば、さわやかな新緑もえる戸外で家族と遊ぶもよし、社会的ニーズが高まっている身近なボランティア活動に目を向けて、コミュニティーに貢献するのもいい――。
 
 
 
 
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