1993/09/11 産経新聞朝刊
【国連の選択】(3)平和の執行 “殺伐とした印象”警戒
ソマリアの首都モガディシオ南部を拠点とする武装勢力のアイディード将軍派と国連平和維持軍の最初の大きな武力衝突は第二次国連ソマリア活動(UNOSOM2)発足からわずか一カ月後の六月五日に起きている。反国連宣伝を繰り返すラジオ局の査察に向かったパキスタン兵二十四人が銃撃戦で死亡した事件である。
国連安全保障理事会は翌日、緊急協議を開いてパキスタン兵を襲った集団を逮捕する権限がUNOSOM2にあることを確認した。そのうえで、事件一週間後の十二日、米軍機がアイディード派に対する空爆に踏み切った。国連憲章七章に基づいて自衛目的を超える武力行使権限を付与された新たな国連平和維持活動(PKO)による「平和の執行」とはどんなものかが初めて具体的に示されたのだ。
▼事務総長のぼやき
こうした強硬策には「やりすぎ」の批判もあるが、昨年一月の安保理サミット以来の流れの中で生まれた「平和の執行」という“力のPKO”の必要性を疑う意見は国連には少ない。問題は、そのやり方であり、米軍の空軍力まで動員してもアイディード将軍一人捕まえられないことで明らかになった「平和の執行」という任務の困難さである。
今後も任務遂行の試行錯誤が続き、方法論をめぐる批判も相次ぐだろう。しかし、国連がいま恐れているのはそうした批判ではなく、武力衝突が長引くことで結果としてソマリアのPKO全体に血なまぐさい殺伐とした印象が定着してしまうことだ。
国連のソマリア介入は、飢えと内戦のために三十五万人が死亡し、さらに二百万人が餓死に直面していると伝えられた惨状を国際社会が座視できなかったことから出発している。その飢餓は少なくともいまは解消されている。
ガリ事務総長が八月十七日付で安保理に提出したソマリア情勢に関する報告書は、アイディード派に対する強硬姿勢を今後も堅持することを強調する一方で、モガディシオ南部以外の地域の社会再建と復興に向けた国連の役割に詳しく言及している。
「世界のメディアの関心はUNOSOM2の軍事部門とモガディシオの治安問題に集中しているが、国連はソマリアの政治制度の再建と社会の復興・復旧のために国内全域で広く活動を続けている。こうした活動を世界のメディアに知ってもらうことは広報活動の第一の任務だが、あまりうまくいっていない」
報告書の行間からは「なんでこうなるんだ」という事務総長のボヤキ声が聞こえてきそうである。
▼社会再建の役割担う
ガリ報告書によると、ソマリアでは九五年三月二十五日の国政選挙を目指し、二年間の移行期間中の政治機構づくりが進められている。
このプロセスはまず、国内を十八地域九十二地区に分け、各地区ごとに長老との話し合いなどソマリアの伝統的方法で二十一人ずつの地区評議会議員を選出する。その中から三人ずつ代表を選出して地域評議会を構成し、その十八の地域評議会議員のなどから七十四人の暫定議会議員(国会に相当)を選出することになる。
UNOSOM2の現地本部からの報告では、八月末現在、二十五地区の評議会が組織されており、議員たちは国連などが主催する研修会で政治倫理や会計監査などの研修を受けるという。
こうした下からの積み上げ方式で暫定議会を形成していくのは、内戦による無政府状態で土台となる社会システムが失われてしまったためでもあるが、同時にこの過程を通してソマリアの人たちに国づくりが進められていることを具体的にアピールする目的もある。
国連は東西冷戦終結後のこの二年間に国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)、旧ユーゴスラビアの国連防護軍(UNPROFOR)、そしてソマリアのUNOSOM2という三つの大規模PKOを発足させた。このうちUNTACは任務を達成し、近く撤退する。明石康代表は、戦乱に苦しんできたカンボジアの人たちの間に平和な社会の建設への強い情熱があったことを、UNTAC成功の理由の一つにあげている。
UNOSOM2が、力だけでなく、ソマリアの「国づくり」を強調し始めたのは、おそらくカンボジアでの成功と無縁ではない。
(ニューヨーク 宮田一雄)
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