1993/01/29 産経新聞朝刊
ECで国連改革論議 英仏は安保理改編に難色 「常任理EC一本化」の声も
【ロンドン二十八日=鳥海美朗】クリストファー米国務長官の「国連安保理常任理事国の議席をドイツ、日本にも与えてはどうか」との発言が欧州共同体(EC)内に波紋を広げた。現常任理事国の英国とフランスは、議席増加が自らの影響力低下につながるとの懸念から米英仏露中の「戦後体制」を死守する構えだが、「時代の変化に即応した改革を」との声も多い。泥沼化の旧ユーゴスラビア紛争など欧州の安全にとっての試練が続く中、議論は白熱化しそうだ。
クリストファー国務長官は先の発言の際に、国連改革には多くの複雑な問題が絡むとしながらも「国連を一九四六年よりも九三年の現実に即したものにする時が来た」とも述べた。
国連予算に対する拠出額でみると、日本は米国に次いで二位、ドイツも四位で英仏をしのぐ。米国の「常任理事国拡大論」には、冷戦後の新秩序構築で国連が最大の課題とする地域紛争の解決で、ドイツや日本に資金面だけでなく平和維持活動でもより大きな役割を負わせようとの意図があるとみられる。
クリストファー発言に対しインド訪問中のメージャー英首相は翌二十六日、「最も重要なことは安保理が効果的に機能し続けること。安保理の機能を低下させることはしたくない」と冷淡な反応を示した。常任理事国が現在の五カ国から仮にドイツ、日本を含む七カ国になると英国の影響力が低下するのは目に見えており、あるいは英国が常任理事国の議席を失う事態さえ考えられるからだ。フランスも「常任理事国を増やすことには反対。英仏は議席を維持すべきだ」(政府筋)との姿勢だ。
しかし、EC委員会のファンデンブルック外交政策担当委員(前オランダ外相)は二十六日、「安保理のメンバー、運営の両面を改革すべき時だ」と積極的な見解を示した。
これとは別に、もともとEC内には「英仏がそれぞれ常任理事国の議席を占めているより、EC議長国(半年交代)に一本化した方が良い」との意見があったが、英仏が「われわれは安保理でECの利益を代表している」とはねつけてきた。だが、欧州連合条約(マーストリヒト条約)によって政治統合への道筋が描かれた今、共通の外交、防衛政策を目指す以上、ECとしての常任理事国入りを望む声が強まった。
例えば、スペイン政府筋は「長期的に見てECが常任理事国の議席を占めるのは自然の成り行き」との見解。それができないならEC内の経済大国であるドイツにも英仏同様に議席を与えるべきだ、との意見もある半面、オランダは「ドイツと日本が常任理事国になるのなら、インドなど第三世界の国にも議席を与えるべき」(外務省)と言い、論議の幅が広まる一方だ。
ドイツと日本が国連の平和維持活動により踏み込んで関与するためには、両国の憲法改正という難題が絡む。国連憲章の改定も必要であり一筋縄ではいかない。
しかし、ハード英外相も二十七日、英王立国際問題研究所で講演した際、安保理の再編について「当面はありえない」と断言したものの、ECの統一議席問題について「マーストリヒト条約を見直す九六年に併せて検討することになろう」と述べ、国連改革がECにとって避けて通れない課題であることを示唆した。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|