2004/09/23 読売新聞朝刊
国連演説、首相が決意表明したが・・・ 山また山の常任理入り 頼みの米そっけなく
◆決議採択もハードル
小泉首相が二十一日の国連総会で、安全保障理事会の常任理事国入りを目指す決意を正式に表明した。政府は今後、関係国への外交攻勢を本格化する。日本外交の長年の懸案である安保理改革の実現に向けて、政府の戦略に展望はあるのだろうか。
(ニューヨーク 五十嵐文、池辺英俊)
◇「国連新時代」構築を 首相の国連演説骨子
世界が直面する挑戦に国際社会が対処する上で、国連が傍らに追いやられてはならない。まさに「国連新時代」を構築しなければならない。国連システム全体にわたる変革が必要だ。核となるのは安保理改革だ。国際の平和と安全に主要な役割を果たす意思と能力を有する国々は、常に安保理の意思決定過程に参加しなければならない。途上国、先進国の双方を新たなメンバーに含め、常任・非常任の双方において安保理を拡大する必要がある。
我が国の果たしてきた役割は、安保理常任理事国となるにふさわしい、確固たる基盤となるものであると信じる。
今日の世界をよりよく反映するために、国連憲章から旧敵国条項を削除しなければならない。加盟国の国連分担金はより衡平なものとする必要がある。
■内憂
国連改革を進めるための最初の難関は、「常任理事国入りに慎重」と目されていた小泉首相を「その気」にさせることだった。
今年七月、北岡伸一国連大使から外務省に一本の公電が届いた。
「国連改革の動きが予想以上に早い。今年末までが重要だ。首相が国連総会に出席すべきなのは、(国連創設六十周年の)来年ではなく、今年秋だ」
竹内行夫外務次官、田中均外務審議官、西田恒夫総合外交政策局長らは首相の説得に動いた。
「P5(五常任理事国)と同じでなくていいんです。核保有国のP5と違う性格の国が常任理事国に入ることで、P5にできない役割を果たせるんです」
日本が軍事的貢献に限定されない役割を果たすという主張を踏まえ、首相が国連総会への出席を明言したのは七月末だった。
首相は二十一日の演説で、「国際社会において名誉ある地位を占めたい」という憲法前文を引用した。「憲法を改正してもしなくても、常任理事国として十分やっていける」(首相)との決意の表れだった。
ただ、自民党の一部には、国連改革をテコに憲法論議を主導したい思惑もあり、今後、憲法論争が再燃する可能性もある。
■米国対策
「ブッシュ大統領の国連演説で、安保理改革に言及してもらえないか」
政府は二十一日の大統領演説を前に、米側に水面下で働きかけた。国連改革に慎重な米国が方針転換すれば、改革の大きな弾みになるとの判断からだ。
米側の返答は、「国連改革への言及は米大統領選にマイナス。国連演説でなく、日米首脳会談の席ならば可能」。だが、大統領は会談で、「米国の立場は変わっていない」と、間接的な表現で日本の常任理事国入りを支持しただけだった。
「各国首脳がひしめく国連総会の期間中に、日本だけを特別扱いはできないのだろう」。首相同行筋には、大統領側の事情に理解を示す空気がある一方で、失望感も漂う。
政府は今後、首脳会談で合意した日米事務レベル協議を通じ、米側への働きかけを続けるが、米国内には「時間の無駄」(国務省筋)との冷めた声もある。
■多数派工作
国連改革は今年十二月に最初のヤマ場を迎える。アナン事務総長の諮問機関「ハイレベル委員会」が安保理改革の具体案を含む最終報告を提出するからだ。
ハイレベル委は、常任・非常任理事国に加え、拒否権なしで連続再選が可能な「準常任理事国」を創設する案を検討している。常任・非常任理事国双方の議席拡大を訴える日本などは、「三種類の理事国を作ることは、安保理の構成を複雑にし、機能強化にならない」と強く反発している。
首相は二十二日、川口外相は二十三日にそれぞれハイレベル委メンバーと会談し、日本の立場に理解を求める。
政府の次の照準は来年秋だ。ハイレベル委の報告を踏まえてアナン事務総長が勧告する安保理改革案を基に、来年秋の国連総会で、安保理拡大の決議を採択する戦略を描いている。
決議の採択には、国連加盟百九十一か国の三分の二以上の賛成が必要。さらに、安保理拡大の憲章改正には、五常任理事国を含む、三分の二以上の国の「批准」が必要という「二重のハードル」が控えている。
〈常任理事国〉
国連安全保障理事会の議席を常に占める米国、英国、フランス、中国、ロシアの5か国。このほか、任期2年で地域別に選出される非常任理事国10か国がある。各常任理事国は、一国だけの反対により、安保理決議の採択を阻止できる「拒否権」を持つ。
◇安保理改革に関する国連総会での日本代表の演説(肩書きは当時)=表略
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