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1990/10/11 読売新聞朝刊
[社説]国連協力へ新平和路線を開け
 
 日本の平和と繁栄は、いま、国際情勢の歴史的な変化の中で、大きな岐路に立たされている。
 特に、これまでのように、国際的にみて高度の経済水準を今後も維持、発展させていけるのかどうかは、日本が、どこまで国際的な責任や義務を果たしながら、国際協調路線にとけ込んでいけるのか、という点にかかっている。
 日本経済に重大な影響を及ぼすペルシャ湾岸危機などに対し、資金協力だけでなく、要員の派遣で新たに“汗をかく”貢献に踏み出すための「国連平和協力法案」(仮称)は、その意味で、日本の戦後史を画する大きな意義をもっているはずだ。
 この重要法案は、自衛隊の派遣問題をめぐり、政府・自民党の調整に手間どったが、ようやく決着した。同法案を審議する臨時国会は、十二日に召集される。
 イラクのクウェート侵攻による国際秩序の破壊は、現行憲法が想定していなかった事態を生み出している。
 そうした状況に的確に対応するためには、各国の協力が必要だ。日本も国際正義、秩序を守る国連の活動に積極的に貢献する新たな平和路線確立へ向けて、憲法解釈の見直しを含め、本格論議がこの国会で、どうしても必要となる。
 国会審議に当たって政府は、憲法論議を回避するような“逃げ”の姿勢をとるべきではない。戦前の軍国主義時代とは、決定的に政治、社会体制が異なる自由と民主主義の時代にわれわれは生きている。文民統制に自信をもって、やるべきことは堂々とやるという決意を示して論戦に臨んでもらいたい。
 同法案に反対の立場の野党は、対案を示すべきである。そのうえで徹底的に論議してほしい。
 この国会では、「憲法の制約」とされてきた少なくとも次の二点について、具体的に解明される必要があると考える。
 第一は、国連憲章第七章に基づく正規の国連軍が設置された場合、それに対する日本の軍事的支援の可否の問題だ。内閣法制局は、その国連軍の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊が参加することは、憲法上許されないとしている。
 しかし国連軍は、同憲章に基づく権限を超国家的に行使するものである。何らかの形でこれに参加することは、国連加盟国の責務であり、集団的自衛権の行使とは次元が異なる。もし、この責務を果たせないなら、日本の「国連中心主義」とは、一体何なのか。
 第二は、湾岸地域に展開する多国籍軍への支援についてだ。多国籍軍は、正規の国連軍ではないため各国は、集団的自衛権行使を前提に参加しているが、これは国連決議の実効をあげるための措置だ。それに協力するための行動まで集団的自衛権の行使だからといって制約するのは、憲法解釈が硬直し過ぎているのではないか。
 憲法前文が日本の自国専念を戒め、国際社会で「名誉ある地位」をめざすことをうたっているのを忘れてはならない。
 
 
 
 
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