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1995/10/19 毎日新聞朝刊
[国連50年]期待と限界/4 中国 圧力行使に抵抗感
◇朝鮮戦争の後遺症なお
 九月一日、国連がガリ事務総長の中国公式訪問を「病気のため中止する」と発表した時、中国側関係者は気の毒なほど気落ちしていた。ガリ事務総長は本来、北京で開催された国連世界女性会議に出席するはずで、同氏が会議の「成功」ぶりを称賛してくれれば、西側メディアによる「中国公安の会議妨害」報道に一矢報いられるはずだった。
 もともと、中国は国連の活動には消極的な姿勢を取ってきた。国連平和維持軍への参加も、一九九二年三月のカンボジア派遣が最初だった。
 最大の理由は、朝鮮戦争の後遺症とみられる。革命後間もない時期、中国は米軍が自分たちの国境線に近付くことを恐れ、半ば防衛的な感覚で義勇軍を派遣し戦争に踏み切った。しかし、米国は国連軍という名目で朝鮮半島に乗り込み、国連全体が中国の敵となってしまった。
 したがって中国は、国連が特定の国や勢力に圧力をかけることに、今もって極めて神経質な反応を示す。たとえば昨年、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑をめぐり、国連で北朝鮮制裁の動きが出た時も、これに抵抗し続けた。
 中国は冷戦後の世界情勢について、米ソ両極時代から多極化へ向かっていると、繰り返し説明している。有力な国家がけん制し合うという世界観で、古典的な「バランス・オブ・パワー」の発想でもある。一部研究者は「一超大国(米国)と四強(欧州、日本、ロシア、中国)」の時代という見方も発表している。
 つまり、冷戦終結後に国連を中心とした新秩序が出来るなどとは考えておらず、国連はむしろ、こうした国々の「駆け引きの舞台」になるとみている。
 中国が費用のかかる世界女性会議をあえて招請したのは、国威発揚と併せ、国連という場で中国を印象づけられるから。台湾の国連加盟に過敏に反応するのは、台湾独立を阻止するためだが、舞台の重要性を理解しているからでもある。
 国連五十周年を迎える今、巨大社会主義国・中国は、自分たちが再び米国によって仮想敵に仕立て上げられるのではないかと懸念している。かといって、もはや舞台を降りることも出来ない。後遺症をいやしながら、国連の活動に関与し、限定的ながらもイニシアチブを発揮していきたい。それが中国の発想とみられる。
(北京・上村幸治)
 
 
 
 
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