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1990/01/07 読売新聞朝刊
[社説]昭和天皇の喪明けと平成皇室
 
 昭和天皇が亡くなられて一年がたった。ご命日の七日、天皇、皇后両陛下始め、海部首相らが参列して東京・八王子の武蔵野陵で一周年祭の儀が行われ、二十八に及んだ大喪の諸儀式を締めくくる。
 皇室の喪明けを受けて政府は八日、即位の礼委員会を設置、大嘗祭(だいじょうさい)を含む一連の皇位継承儀式の準備に入る。礼宮さまの結納に当たる「納采(のうさい)の儀」も行われ、平成の皇室ご一家も心新たに活動を再開される。
 この一年、私たちは自らの歩みを重ねながら、激しい起伏に富んだ昭和を、それぞれに振り返ってきたと思う。また、さまざまな視点や立場から昭和の真相に迫る論文、意見も数多く出版された。
 こうした貴重な体験や作業を、一過性の昭和史ブームに終わらせたくはない。これからは、いろいろな制約やタブーを取り払い、一億二千万人が歩んだ日本現代史として、史実や資料に基づく冷静な検証を息長く続けていく必要がある。
 私たちにとって昭和とは、それだけ重い時代であり、先人の過ちを繰り返さないためにも、多くの教訓を決して忘れてはならないと思う。
 天皇、皇后両陛下はすでに、各種行事での平易なお言葉や、ご旅行の際のしきたりの簡素化など、随所に新しい試みをされている。特に目につくのは、お住まいの赤坂御所に多くの人々を招いて、国民との幅広い交流を心がけておられることだ。
 それはもちろん、「国民とともに」を黙々と実践された昭和天皇のお心の延長線上にある。だが、現行憲法の下で育ち、初めて象徴天皇として即位された陛下には、おのずから昭和天皇とは違った明るさや新しさが感じられる。
 多くの国民もまた、それをごく自然な形で受け入れているように見える。本紙「皇室に関する世論調査」(六日付朝刊)でも、五三%の人が今の天皇陛下に親しみを感じており、平成皇室の変化についても、身近な感じや家庭的な雰囲気をあげる回答が上位を占めた。
 今回の調査では、設問によっては「関心がない」との答えが二五%を占め、二十歳代では五〇%を超えていた。だが昭和天皇が亡くなられた直後には、無関心層が七%弱だったことを考えると、それほど神経質になる数字でもない。
 皇室と国民の間は、ふだんはあまり意識されず、行事などの折に触れて再び関心が高まるのが、ごく自然で安定した関係と言えるのではないか。
 むしろやっかいなのは、天皇制や皇室像について、「こうあらねばならない」という固定的で偏狭な考え方である。真に開かれた皇室とは、国民意識や時代の変化に柔軟に対応でき、多くの国民がそのあり方について、タブーや垣根無しに自由に論議できることであるように思う。
 今後、大嘗祭などをめぐる活発な議論も予想されるが、その基本はあくまでも「主権の存する日本国民の総意」に基づいて象徴天皇を定めた憲法である。
 
 
 
 
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