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〔57〕プルヌス・ドゥリクス(サクラ属、バラ科)
学名:Prunus dulicus(Mill.)D.A.Weep/〔和名:アーモンド〕/英語名:Almond/アラビア語名:lawz
出土遺物番号〔3点〕:RT52, RT629A, RT7480
解説:栽培される落葉性の果樹で、レバノン、シリア、ヨルダン、そして、エジプトで生育する。この植物は現在もシナイ半島で栽培されている。茎の材構造の特徴としては、多数の繊維、幅が狭い導管、ぼんやりした生長輪で、導管は環孔(材)状である。木材は堅く、装飾がある家具の製造に用いられる。放射組織は1〜3列。出土遺物の形状は、装飾がある加工された材と果実の核である。この植物は古代からシナイ半島で栽培されてきたので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔58〕プルヌス・ペルシカ(サクラ属、バラ科)
学名:Prunus persica L.〔=Persica vulgaris Mill., Amygdalus persica L.〕/〔和名:モモ〕/英語名:Peach/アラビア語名:khawkh
出土遺物番号〔1点〕:RT2830
解説:栽培される落葉性の果樹で、レバノン、シリア、ヨルダン、そして、エジプトで生育する。この出土遺物は果実の核である。この植物がシナイ半島で栽培された記録はないので、この出土遺物は他地域に由来する。
 
〔59〕プニカ・グラナトゥム(ザクロ属、ザクロ科)
学名:Punica granatum L./〔和名:ザクロ〕/英語名:Pomegranate〔=Carthaginian apple〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔2点〕:RT71B, RT250C
解説:栽培され、また、逸出した落葉性の果物の高木、または低木で、砂漠のワーディーやオアシスで生育する。出土遺物は果実の果皮と蕚片である。この植物は古代からシナイ半島で栽培されてきたので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔60〕ケルクス・イタブレンシス(コナラ属、ブナ科)
学名:Quercus ithaburensis Decne./英語名:Kemes oak/アラビア語名:−
出土遺物番号〔1点〕:RT2554
解説:落葉性の高木で、地中海沿岸東部とイラン・トゥーラーン地域西部で生育する。茎の財構造の特徴としては、かなり明瞭な生長輪があり、導管は環孔(材)状ないし半環孔(材)状である。導管は単独か、または、2つ対になっている。放射組織には2つの型があり、1〜2列、または、2〜35列である。出土遺物の形状は加工された材である。この植物はエジプトでは生育していないので、出土遺物は他地域に由来する。
 
〔61〕ルス・トリパルティータ(ウルシ属、ウルシ科)
学名:Rhus tripartita(Ucria)Grande〔=Rhamus tripartita Ucria, Rhus oxyacantha auct., non Schousb. ex. Cav., R.oxyacanthoides Dum. Cours.〕/英語名:−/アラビア語名:
出土遺物番号〔2点〕:RT6694, RT7128
解説:落葉性の低木で、シナイ半島、ヨルダン、イスラエルの砂漠の岩場で生育する。茎の材構造の特徴としては、ぼんやりした生長輪で、導管は散在していて、単独か、または、2〜5(10)の導管が放射方向に集合している。放射組織はほとんどが1列。出土遺物の形状は、加工された木材である。この植物はシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔62〕ロサ・アラビカ(バラ属、バラ科)
学名:Rosa arabica Crép.〔=R. agrestis Savi〕/英語名:Rosa/アラビア語名:
出土遺物番号〔2点〕:RT3037, RT5438
解説:落葉性の低木で、シナイ半島の固有種である。茎の材構造の特徴としては、ぼんやりした生長輪で、導管は散在している。放射組織は、ほとんどがはっきりしていて大きく、数多く、幅は20〜50細胞である。出土遺物は加工された材の形状である。この植物はシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔63〕バラ属(種名不明、バラ科)
学名:Rosa sp./〔和名:バラ属〕/英語名:Rosa/アラビア語名:ward
出土遺物番号〔1点〕:RT3227
解説:落葉牲の低木。茎の材構造の特徴としては、ぼんやりした生長輪だが、その他の詳細は試料の破損のため分からず、種名の同定もできない。出土遺物は加工された材の形状である。
 
〔64〕ヤナギ属(種名不明、ヤナギ科)
学名:Salix sp./〔和名:ヤナギ属〕/英語名:Willow/アラビア語名:
出土遺物番号〔1点〕:RT2605
解説:落葉性の低木、または、高木。茎の材構造の特徴としては、明瞭な生長輪で、導管は散在していて、単独か、または、放射方向に集合しているが、その他の詳細は試料破損のため分からず、種名は同定できない。出土遺物は加工された材の形状である。
 
〔65〕サルバドラ・ペルシカ(サルバドラ属、サルバドラ科)
学名:Salvadora persica L.〔=Cissus arborea Forssk., Rivina paniculata L.〕/英語名:Tooth-brush tree/アラビア語名:
出土遺物番号〔1点〕:RT5919
解説:落葉性の低木で、暑い砂漠のワーディーに生育し、エジプトの植物地理学的圏内の全域で生育している。〔若芽や若葉は生食され、ラクダの飼料にもなる。枝を噛むと硬い繊維だけが残ってブラシのようになり、ベドウィンが歯みがきに利用していることから、「歯ブラシの木(toothbrush tree)」とも呼ばれる〕。茎の材構造の特徴としては、木部の外周にはっきりした節部があり、また、はっきりした放射組織がある。出土遺物は歯ブラシの形をしていて、地元に由来する。
 
〔66〕タマリクス・アフィラ(ギョリュウ属、ギョリュウ科)
学名:Tamarix aphylla(L.)Karst〔=T. orientalis Forssk., T. articulata Vahl〕/英語名:Athel-Tamarisk〔=Tamarisk,Tamarisk salt tree〕/アラビア語名:athl
出土遺物番号〔43点〕:RT86, RT87, RT177, RT273, RT310, RT413, RT535, RT640, RT662, RT885, RT925, RT1049C, RT1112, RT1250, RT1360, RT1578, RT1803, RT1929, RT1935, RT2362, RT2527, RT2782, RT2798, RT2963, RT3052, RT3295, RT4316, RT4361, RT4370, RT4924, RT5106, RT5189, RT5422, RT5489, RT5642, RT5644, RT5881, RT6545, RT6698, RT7058, RT7095, RT7483, RT7597
解説:常緑の高木、または、大きな低木で、シナイ半島のワーディーの底部、そして、エジプトの植物地理学的圏内の全域で生育している。茎の材構造の特徴としては、ぼんやりした、ないしは明瞭な生長輪がある。木部の導管は散孔(材)状、ないし、半環孔(材)状である。導管はほとんど単独である。放射組織は非常にはっきりとしていて、5〜23列で、高さは2.5mmまで。出土遺物の形状は、加工された材、未加工の材、木炭、および、枝部である。この植物は現在もシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する(図版4-8〜10)。
 
〔67〕タマリクス・ニロティカ(ギョリュウ属、ギョリュウ科)
学名:Tamarix nilotica(Ethrenb.)Bunge.〔=T. arabica Bge., T. mannnifira(Ehrenb.)Dence., T. arborea(Sieb.ex Ehrenb.)Bge., T. gallica v. nilotica and v. mannnifera Ehrenb., T. scelensis Chiov., T. aegyptica Bertol.〕/英語名:Nile-Tamarisk〔=Manna tree〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔11点〕:RT329, RT1079, RT2617, RT3426, RT3547, RT4811, RT5051, RT7080, RT7145, RT7518, RT8539
解説:常緑の耐塩性がある高木で、エジプトの植物地理学的圏内の全域で生育している。茎の材構造の特徴としては、明瞭な生長輪がある。放射組織は(3)6〜10列で、高さは1mmまで。出土遺物の燃は、加工された材、未加工の材、木炭、および、枝部である。この植物は現在もシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔68〕タマリクス・テトラギーナ(ギョリュウ属、ギョリュウ科)
学名:Tamarix tetragyna Ehrenb./英語名:Tamarisk/アラビア語名:
出土遺物番号〔5点〕:RT467, RT656, RT4463, RT5343, RT8538
解説:常緑の耐塩性がある高木で、エジプトの植物地理学的圏内の全域で生育している。茎の材構造の特徴としては、明瞭な生長輪があり、環孔(材)状、ないし、半環孔(材)状である。導管はほとんどが単独。放射組織は5〜12列で、高さは2mmまで。出土遺物の形状は、加工された材、未加工の材、木炭、および、枝部である。この植物は現在もシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔69〕トリティクム・ドゥルム(コムギ属、イネ科)
学名:Triticum durum L./英語名:Hard-wheat/アラビア語名:
出土遺物番号〔2点〕:RT525B, RT1620D
解説:栽培される一年生の穀物作物。出土遺物は穀粒の形状で、この植物は地元に由来するであろう。
 
〔70〕ビティス・ビニフェーラ(ブドウ属、ブドウ科)
学名:Vitis vinifera L./〔和名:ヨーロッパブドウ〕/英語名:Grape〔=Grape vine, Cultivated vine〕/アラビア語名:
出土遺物番号〔6点〕:RT25A, RT49E, RT71A, RT250A, RT606B, RT662C
解説:栽培される低木の果樹。出土遺物は種子、枝、および、巻髭で、この植物が地元に由来することを示している。
 
〔71〕ジジフス・ロトゥス(ナツメ属、クロウメモドキ科)
学名:Ziziphus lotus (Burm.)Wight & Walk.〔=Rhamnus lotus L.〕/英語名:−〔=Lotus tree, Wild jujube, Lotus jujube〕/アラビア語名:nabq
出土遺物番号〔4点〕:RT3054, RT4774, RT5770, RT5812
解説:落葉性の低木で、ヨルダン、イスラエル、および、エジプト西部の砂漠で生育している。茎の材構造の特徴としては、明瞭な生長輪がある。導管は散在し、単独か、または、2〜4の導管が放射方向に集合している。放射組織は1〜2列で、高さは2〜45細胞まで。出土遺物の形状は加工された材である。この植物の分布から、本種が古い時代にシナイ半島にあった可能性が考えられるので、出土遺物は地元に由来するであろう。
 
〔72〕ジジフス・スピナ クリスティ(ナツメ属、クロウメモドキ科)
学名:Ziziphus spina-christi(L.)Wild.〔=Rhamnus spina-christi L.〕/英語名:Christ's thorn〔=Nabk tree〕/アラビア語名:nabq
出土遺物番号〔11点〕:RT185, RT250O, RT472B, RT592, RT829B, RT1071B, RT1094B, RT1470B, RT1516B, RT2691, RT6608
解説:落葉性の高木で、エジプトの植物地理学的圏内の全域で生育している。茎の材構造の特徴としては、明瞭な生長輪があり、導管は散在していて、単独か、または、2〜3の導管が放射方向に集合している。放射組織は1〜2列。出土遺物の形状は、加工された材、未加工の材、木炭、果実の核、および、枝部である。この植物は現在もシナイ半島で生育しているので、出土遺物は地元に由来する。
 
〔73〕同定不能の出土品(木製試料)
出土遺物番号〔37点〕:RT14, RT48, RT101, RT108, RT597, RT603, RT667, RT796, RT780, RT1000, RT1579, RT1673, RT1750, RT1932, RT2945, RT3140, RT3254, RT3229, RT3407, RT3555, RT4068, RT4521, RT4813, RT5078, RT5662, RT5750, RT6148, RT6175, RT6293, RT6551, RT6686, RT7059, RT7063, RT7078, RT7184, RT7569, RT7850
解説:これらの試料の多くは、不十分な試料砕片であるほか、燃焼、あるいは高い塩分含有のために破壊されたものである。
 
〔訳注〕
 マメ類(マメ目)は世界に680属2万種ほどあり、ネムノキ科(Mimosaceae)とジャケツイバラ科(Caesalpinaceae)とマメ科(Papillionaceae)の3科からなるが、これらをネムノキ亜科とジャケツイバラ亜科とマメ(ソラマメ)亜科として、マメ科(Leguminosae, Fabaceae)にまとめて扱われる場合も多い。
 ハマビシ科(Zygophyllaceae)は、約30属250種を含むが、ニトラリア属(Nitraria)、ペガヌム属(Peganum)、バラニテス属(Balanites)などを別科として独立させる説もある。本報告では、バラニテス科(Balanitaceae)、および、ニトラリア科(Nitrariaceae)としている。
 ムラサキ科(Boraginaceae)では、チシャノキ(Ehretia)属とカキバチシャノキ(Cordia)属などは、他の草本生の属とは異なって木本になるので、独立したチシャノキ科(Ehretiaceae)とされることがあり、本報告では、カキバチシャノキ科(Cordiaceae)とあるが、チシャノキ科と訳した。
 低木(shrub)は、高木(tree)の対語で、従来は灌木と呼んだ。樹木のうち、ふつうヒトの背丈以下のものを指し、高木との区別は便宜的なものに過ぎない。一方、高木は、従来は喬木と呼んだ。
 解剖学(anatomy)は、対象とする生物の種類により、人体解剖学、動物解剖学、植物解剖学などに分けられる。植物形態学を外形に関する外部形態学と内部構造についての内部形態学とに分けるとき、解剖学は狭義には後者を意味し、しかも顕微鏡的解剖学に当たり、組織学または組織形態学に等しい。本研究の場合は、各系統・種族に属する生物の示す体制および器官形態を比較し体系づける形態学の一分科たる、比較解剖学に相当する。この比較解剖学はふつう現在の生物を扱うが、広くは古生物にも適用され、また、次の木部の導管や放射組織の形態的特徴は植物の種類によって異なることから、植物の科名や属名や種名を見分けること(同定、identification)にも応用される。
 木部(xylem)は、ドイツの植物学者K. W. Nägeli(1858)の造語。維管束の構成要素の一つで、導管・仮導管・木部繊維・木部柔組織よりなる複合組織であり、主な機能は水液の通道や体の機械的支持の作用であるが、木部柔組織は澱粉・油脂などの貯蔵組織ともなる。木本植物の二次木部の構成を観察する時は、水平方向の横断(traverse, cross)面のほか、幹の中心を通る方向の放射(radial)縦断面と、及び、幹の中心を通らない接線(tangential)縦断面の切片を作って観察する必要がある。
 導管(vessel)は、被子植物の木部の主要素。縦に並んだ導管細胞が隔膜の消失、すなわち穿孔により相連なって長い管となったもので、水分の通路となる。横断面の観察では、単独(solitaly)であったり、集合(in groups, incluster, inmultiple)していたりする。
 生長輪(growth ring)は、樹木の茎や根の形成層(cambium)の活動が、とくに季節などに支配されて形成され、年輪(annual ring, year ring)ができる。形成層は春から初夏にかけて活発に活動して直径が比較的大きな細胞をつくる(春材 spring wood, early wood)が、夏から秋にかけては小さな細胞をつくる(夏材 summer wood、または、秋材 autumn wood, late wood)ので、材(wood)の一部の横断切片だけでも、どちらが材の内側か外側かが分かる。そして、広葉樹の場合は、秋材部との境に春材部の大きな導管が環状に並んでいる環孔材(ring-porous wood)、および、導管の大きさが春材と秋材とでほぼ等しい散孔材(diffuse-porous wood)に大別できる。
 放射組織(ray)は、維管束内を放射方向に水平に走る細長い組織。茎の横断面では放射状に走る1〜数列の細胞よりなり、接線断面では1〜数列の細胞が縦に数層連なってふつう紡錘形に見える。また、放射組織は、樹木を防御するためのゴム道(gum duct)をもつことがあり、ゴム(gum)、樹脂(resin)、乳液(latex)などが詰まっていて、これらの物質を満たした長い管状の細胞間隙は分泌道(secretory duct)と呼ばれ、物質の種類によって、ゴム道、樹脂道(resin duct, resin, canal)、乳管(lacticifer, laticiferous vessel, latex vessel., milk vessel)、粘液道(mucilage duct, mucilage. canal)などの区別がある。
 固有(endemism)は、ある生物の分布が特定の地域に限定される現象を固有といい、これを示す生物を固有種(endemic, endemic species)という。
 巻髭(tendril)は、他物に巻きついて自分の体を保持・安定させるように変態した、植物体の部分をいう。また、稈は、中空で節のある茎をいう。
 エルバ(Elba)山は、エジプトとスーダンの条約上の国境と支配上の国境に挟まれた地域(スーダンの支配下)にあり、紅海の西岸に発達する山地の1峰(標高1594m)で、古生代の基盤岩類からなり、年間降水量は25〜100mmほどの乾燥帯に位置するが、植生は比較的に密である。また、イラン・トゥーラーン(Irano-Turanian)地域は、中央アジアのアムダリア川対岸一帯の地方を指す。
 以上、植物の名については、A. G. Bedevian, Illustrated Polyglotti Dictionary of Plant Names, Cairo, 1994やV. Täckholm, Student's Flora of Egypt, Cairo, 1974,(Second ed.)などを、また、用語については、『岩波生物学辞典』、岩波書店、1960などを参考にした。そして、材の構造やその要素などに関しては、中央大学理工学部教授の西田治文博士からご教示をいただいた。







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