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2)水生昆虫
(1)主要な水生昆虫
(1)カゲロウ類1)
 カゲロウ目EPHEMEROPTERAの総称で、幼虫期に水中に住む。体全体が外骨格に覆われ後述のカワゲラ類と似ているが、腹部の体側に鰓がある、各肢の爪は1本、ほとんどの種は尾が3本、などの特徴を持つ。石の表面の藻類や、水底の落ち葉などの有機物を餌にする種類が多い。
 
・トウヨウモンカゲロウ Ephmerera orientalis2)、3)、6)※1
 河川流入部や水深2〜3mまでのごく沿岸の、砂混じりの底質の場所に分布する。体長は20mm前後と、十和田湖に住む水生昆虫の中では大型に成長し、サクラマス、ヒメマスなどの胃内容物として見つかることもある。
 
・ヒラタカゲロウ類
 一般的には河川の中・上流域の比較的流速の速い場所に生息するカゲロウ類で、その名のとおり体全体が平たく吸盤状となって、石の表面に付着できるような構造となっている。十和田湖には、エルモンヒラタカゲロウEpeorus latifolium、ナミヒラタカゲロウE.ikanonis、シロタニガワカゲロウEcdyonurus yoshidae3)、6)ほか数種が、流入河川で普通に認められるが、湖岸付近の転石帯にも生息する。
 
・コカゲロウ類3)、6)
 小型で遊泳性のカゲロウの仲間であるが、このグループには多くの種が含まれる上、特に水中で生活する幼虫は形態がよく似ているため、分類方法が確立されていない。そのため詳細は不明であるが、流入河川のほか湖岸付近のごく浅い場所にも複数の種と思われる幼虫が生息している。
 
・その他
 これらのほか、ウェストントビイロカゲロウParaleptophlebia westoni3)、マダラカゲロウ属の数種Ephemerella spp.などのカゲロウ類が、主に流入河川で認められる。
 
(2)カワゲラ類1)
 カワゲラ目PLECOPTERAの総称で、幼虫期に水中にすむ。カゲロウ目の幼虫に姿形が似るが、体の造りはより頑強で、鰓は胸部、各肢の基部、尾端にあるかまったくない、各肢の爪は2本、尾は2本などの特徴で区別できる。また、水生昆虫など他の動物を餌にする種類が多い。
 
・オナシカワゲラ類
 一般的に河川の中・上流域の流れの緩やかなところに生息する小型のカワゲラ類で、カワゲラ類では珍しく落ち葉などを餌にする。十和田湖でも流入河川や湖岸の落ち葉の積もった場所などで比較的容易に見つけることができる。種毎の特徴に乏しく幼虫の分類は困難なグループであるが、オナシカワゲラ属Nemoura sp (p)3)、6)ユビオナシカワゲラ属Protonemoura sp (P).など数種が確認される。
 
・モンカワゲラ Acroneuria stigmatica
 一般的に河川の上流域に生息し、全長30mmに達する大型のカワゲラ類で、十和田湖では主に流入河川の中の石の裏などに認められるが、数はあまり多くはない。
 
(3)トビケラ類1)
 トビケラ目TRICHOPTERAの総称で、頭部、胸部のみがキチン質の外骨格に覆われ腹部は膜質の皮膚となっている。鰓は指状のものが腹部、尾部などに付くが種によって様々で、ないものも多い。砂粒や植物片などを材料にして種ごとに特徴的な巣を造り、ヤドカリのように中に入って移動する、巣の前にクモのような網を張り餌が引っ掛かるのを待ち受けるといった生活をする。また、巣を持たずに活発に動き回る肉食の種もあるが、これらもさなぎの時期は巣の中で過ごす。
 
・コカクツツトビケラ Goerodes japonicus
 ほぼ正方形の葉片を規則正しくつなぎ合わせた四角柱状の筒巣を持つ小型のトビケラ類の1種である。主に流入河川の、流れの緩やかな落ち葉が堆積しているような場所に生息し、餌も落ち葉や植物片といわれている。
 
・ニンギョウトビケラ Goera japonica3)
 
 
 小石や砂粒で円筒形の両側に大きめの石を4〜6個付けた特徴的な巣を造る小型のトビケラ類で、その巣の様子が人型に見えることからニンギョウトビケラという名前を持つ。本州、四国、九州でごく普通に見られる種であり、十和田湖でも流入河川や湖岸で普通に認められる。
 
・その他
 トビケラ類の幼虫も分類の困難なグループであるが、流入河川や湖岸などに、ヤマトビケラ科Glossosomatidae gen.sp(p).、コエグリトビケラ属Apatania sp.3)、イワトビケラ科Polycentropodidaegen.sp.3)など少なくとも10種以上が生息しているものと思われる。
 
(4)ユスリカ類1)
 湖内全域で岸近くの湖底に生息し、場所によってはかなり高い密度で見つけられる。ユスリカの仲間は幼虫による詳しい分類が極めて困難で、出現種数など詳細を把握しにくいグループであるが、主な出現種は、カユスリカ属Procladius sp.、ユスリカ属Chironomus spp.、アシマダラユスリカ属Stictochironomus sp.、ナガスネユスリカ属Microspectora sp.などの数種で、20種以上が生息していると考えられている4)、7)。これらの多くは水深10m前後までの泥底や水生植物帯に住むが、ナガスネユスリカ属は最深部にまで広く分布している4)、7)。ユスリカ類の幼虫は一般的に泥の中や泥などで作った筒巣の中、水生植物の間などで生活するが、羽化はさなぎが水面まで浮上して行われる。こうした羽化期には、ユスリカ類の幼虫やさなぎが様々な魚類の主要な餌となっており、特に初夏の一時期にはほとんどのヒメマス、ワカサギなどがこれらを飽食していることもある。
 
(5)その他
 これらのほか、ヘビトンボ、トンボ類、ガガンボ類などの幼虫が生息する。また、昆虫ではないがウズムシ類TURBELLARIA、トゲオヨコエビEogammarus kygi5)、ミズミミズ類、イトミミズ類などミミズ類の数種Oligochaeta gen.spp.2)、8)、マメシジミ属の1種Pisidium sp.2)などの底生生物が認められ、特にトゲオヨコエビは沿岸から沖合までの湖底に、ミミズ類は主に湖岸付近の湖底に、かなり大量に見られる場合もある。また、トゲオヨコエビは、比較的大型のヒメマスでは胃内容物として優占的に出現する場合がある。
 
 
写真: (左)トワダナガレトビケラ(右)トワダカワゲラ
(写真:杉山秀樹提供)
 
(1)トワダカワゲラ Scopulla longa1)
 1931年に新種として記載された際の完模式標本の採集地が十和田湖和井内であったことからトワダカワゲラと命名された。カワゲラ目の中でも最も原始的な形態を持つ種といわれ、成虫になっても翅を持たない、幼虫期には腹部末端に冠状の鰓を持つ、などの大きな特徴を持つ。分布域は本州北部と佐渡島で、通常、年間の水温が10℃以下、水量が少ない流域の石の間や落ち葉の堆積した場所など、すなわち河川の最源流域に生息する。体長は20〜30mmとカワゲラの中では比較的大型で、十和田湖では流入河川や湧水源などで幼虫を見つけられる。
 
(2)トワダナガレトビケラ Rhiacophila articulata1)、3)
 本種も新種記載された際の完模式標本の採集地が十和田湖であったことから命名され、かつては種小名もR.towadensisと十和田に因んだものであった。体長20mmほどの、本州の山地渓流に普通に生息するトビケラ目の1種である。比較的大きな分類群であるナガレトビケラ科の中ではそれほど特徴のない形態であるが頭部の中央に白っぽい円形斑のあることで区別できる。
 
(3)その他1)
 セスジミドリカワゲラモドキIsoperla towadensis、日本最大のカといわれるトワダオオカToxorhynchites towadensisなどの昆虫にトワダの名が使われている。
 

※1水生昆虫についてより詳しく知りたい場合は以下の図書を参照下さい。
川合禎次編。日本産水生昆虫検索図説. 東海大学出版会, 1985, リバーフロント整備センター編. 川の生物図典. 山海堂, 1996, 丸山博紀, 高井幹夫. 原色川虫図艦. 全国農村教育協会, 2000







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