湖沼環境の基盤情報整備事業報告書
―豊かな自然環境を次世代に引き継ぐために―
十和田湖
平成16年3月
社団法人 日本水産資源保護協会
はじめに
湖沼は、漁業、利水、観光などの場として昔から国民に利用されてきています。しかし、閉鎖性水域である湖沼は、山林の伐採、観光開発など人為的環境改変の影響を受けやすく、富栄養化、酸性化、化学物質による水質汚染などが問題となっています。また、最近では、放流された外来魚などによる湖沼生態系の攪乱、交雑による遺伝的汚染、在来種との競合による漁業被害など新たな問題が指摘されています。
利用者の多い我が国の湖沼の多くは、良好な自然環境を維持し、次世代に継承することが難しくなっており、如何にして自然環境を保全するかを明確にすることが、将来とも豊かな自然からの恵みを享受するうえで求められています。そのためには、対象とする湖沼の生物、化学および物理的環境の他、湖沼を取り巻く社会的条件の現状と歴史的変遷を科学的知見に基づいて収集・整理する必要があります。
本事業では、日本財団の船舶関係事業等に寄与する事業の振興を目的とした事業の助成を受けて、古くから多くの国民に利用されてきている湖沼を対象として周辺集水域、都市ならびに関連河川等の自然環境・社会環境情報等を収集整理し、関係機関の自然保全対策や国民の環境に対する理解に役立つ基盤情報を整備・提供することとしました。
本年度は、昨年度取りまとめた中禅寺湖等と同様に優れた自然環境が維持、利用されている十和田湖を対象として事業を実施いたしました。
情報収集・調査等について多大のご協力をいただいた秋田県農林水産部水産漁港課、同県水産振興センター、同県小坂町ならびに青森県農林水産部水産振興課、同県水産総合研究センター内水面研究所、同県県土整備部道路課、同県十和田湖町に深く感謝申し上げます。また、各種の資料を提供いただいた十和田湖増殖漁業協同組合、環境省自然環境局東北地区自然保護事務所、国土地理院ならびに読売新聞社の各位に深く感謝申し上げます。
さらに、本事業における湖沼環境基盤情報整備事業専門委員会の委員として、専門的立場から種々ご指導いただきました加藤禎一、関野哲雄、金澤宏重、杉山秀樹、上原子次男および眞山紘の各氏に厚くお礼申し上げます。
終りに、本事業成果が自然環境に対する理解を深め、環境保全への取り組みの一助となることを期待します。
平成16年3月
社団法人 日本水産資源保護協会
会長 石川賢広
I章 事業の目的、内容並びに経過概要
1)目的
湖沼は、漁業、遊漁、利水、観光・レクリエーションの場として、古くから国民に利用されてきた。一方で、湖沼の閉鎖性という特徴から、富栄養化、酸性化、化学物質による汚染等の水質悪化のほか、最近では遊漁の目的で放流されたブラックバスやブルーギル等の外来魚によって、湖沼生態系の撹乱、交雑による遺伝的汚染、在来種との競合による生物の多様性の減少、漁業被害等の新たな問題を生み出している。山林の伐採、林道の造成、観光開発等の環境の人為的改変による水質や生息環境の悪化、外来種・移入種の侵入によって、分布の限られている淡水魚の多くが種の存続があやぶまれる事態におかれている。これまでに魚類ではクニマス、ミナミトミヨの2種が絶滅したほか、イタセンパラ、ミヤコタナゴ等16種・亜種等の絶滅が危惧されている。このように、湖沼に生息する生物は、地域の環境変動に敏感に反応している。
利用者の多い日本の湖沼の多くは、人為的影響を強く受けるため、良好な自然環境を維持し次世代に継承することが困難となっており、21世紀においていかに自然環境を保全するかを明確にすることによって、将来に渡って、豊かな自然からの恵みを享受することができる。そのためには、湖沼をとりまく自然環境に配慮しつつ、国民の利用目的に合致した保全と管理が不可欠であるばかりでなく、対象とする湖沼の生物、化学及び物理的環境のほか、湖沼をとりまく自然・社会的条件の現状と歴史的変遷を、科学的知見に基づいて収集・整理する必要がある。
このように、湖沼に関する現況の基盤情報を整備し、関係機関(国、地方公共団体、研究機関、民間団体等)と国民とで共有することによって、湖沼環境のモニタリングを実効あるものとするほか、湖沼生態系の保全、自然環境下における生物多様性の保存等の対策を効果的に進めることが可能になる。さらに、この事業を進めることによって、一般国民の自然環境に対する理解を深め、地域住民や民間団体の参加による自然環境の美化と保全への取り組みを促進することができる。
本事業では、湖沼とその集水域を基本単位としてとらえ、既存資料や研究成果から湖沼をとりまく自然(生物、化学)、社会環境の歴史的変遷と現状を整理し、関係機関の自然保全対策や国民の環境に対する理解に資する基盤情報を整備・提供することを目的としている。
(1)自然環境の現状と歴史的変遷
湖沼を流域単位でとらえ、森林、河川を含む自然環境の生物、化学、物理的情報を既存資料と現地調査により収集・整理し、電子化するとともに、自然環境の現状と歴史的変遷を把握する。
(2)社会環境の現状と歴史的変遷
自然環境と同じ流域単位で、人口、土地利用の状況、地域産業、宿泊・レジャー等の各種施設、遊漁、漁業に関する情報を既存資料と現地調査により収集・整理し、電子化するとともに、社会環境の現状と歴史的変遷を把握する。
(3)湖沼の生物多様性と生態系保全策の検討
対象とする湖沼群の生物多様性と生態系の保全策を検討する。
(4)情報の公開
以上の成果を、研究者が扱いやすいデータ様式、国民の理解が得やすいビジュアルな表現方法により電子化(CD-ROM)し、関係機関の担当者と国民(観光客、地域住民)に配布する。
(1)対象湖沼の選択
事業対象とする湖沼は専門委員会において選択する。本年度も自然環境保全、ヒメマスの移殖・放流の歴史ならびに観光利用という観点から、「十和田湖」を対象とする。
(2)既存資料の収集・整理
自然環境と社会環境及び生物に関連した既存資料を収集・整理する。
(3)現地調査
現地調査により既存のデータを補足し、十和田湖の魚類相、水生植物相の現状を把握する。現地調査は対象とする生物の生態に応じて、夏季から秋季に3回程度実施する。
(4)専門委員会の開催
湖沼環境の専門家、地元関係者で構成する。対象とする湖沼について、モニタリングの基準と手法、自然環境保全策のありかたを提言する。
(5)公開資料の作成と配布
得られた成果を更に一般に理解されるような電子化(CD-ROM)し、関係機関に配布する。
(1)資料収集・整理
文献資料については、青森県水産総合研究センター、同内水面研究所、秋田県水産振興センター、十和田湖増殖漁業協同組合、青森県十和田湖町、秋田県小坂町の資料(公文書も含む)をはじめ、学会誌、研究会の報文、青森・秋田両県行政機関の資料等を収集し、整理した。
(2)現地調査
現地調査は、以下のとおり実施した。
現地調査の項目と実施期日
項目\期日 |
8/26-28 |
9/16-19 |
10/7-9 |
ヒメマス産卵回帰群・人工採卵風景撮影 |
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○ |
ヒメマス以外の魚類撮影 |
○ |
○ |
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動物プランクトン撮影 |
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○ |
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水草目視観察・撮影 |
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○ |
○ |
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(3)資料のデジタル化
収集・整理した資料及び現地調査等、対象とする湖沼の環境、生物、社会データを電子化した。なお、このデータは付録のCD-ROMに収録している。
(4)専門委員会
養殖学、育種学、生態学、資源学、増殖学の専門家で構成した。専門委員会の構成を下表に示す。
平成15年度 湖沼環境基盤情報整備事業 専門委員会名簿
氏名 |
役職 |
専門分野 |
加藤禎一 |
元養殖研究所企画連絡室長 |
水産育種学 |
関野哲雄 |
元青森県水産部長 |
水産養殖学 |
金澤宏重 |
元青森県内水面水産試験場長 |
水産養殖学 |
杉山秀樹 |
秋田県水産振興センター内水面利用部長 |
水産資源学 |
上原子次男 |
青森県水産総合研究センター内水面研究所
研究開発部長 |
水産資源学 |
眞山紘 |
独立行政法人さけ・ます資源管理センター
調査研究課長 |
魚類生態学 |
原武史 |
社団法人 日本水産資源保護協会総括参与 |
水産増殖学 |
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第1回専門委員会は、平成15年7月23日〜24日に現地(十和田町十和田湖畔休屋)で開催した。検討内容は以下のとおりである。
(1)平成15年度湖沼環境基盤情報整備事業全体計画について
(2)十和田湖におけるヒメマス等の移殖・放流並びに漁業に関する研究調査資料等の収集・取りまとめについて
(3)十和田湖並びにその集水域の自然(生物、化学)、社会条件等に関する知見の収集・取りまとめについて
(4)目次(案)に沿った執筆分担の検討
第2回専門委員会は、平成16年2月4日〜5日に青森市で開催した。検討内容は以下のとおりである。
(1)平成15年度湖沼環境基盤情報整備事業報告書原稿の検討について
(2)その他
以上の2回の委員会並びに3回の現地調査の成果等に基づき、データを収集・整理するとともに、各委員が取りまとめた原稿を本文中に収載した。
本文執筆者
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執筆者名 |
所属 |
I章 |
事務局 |
社団法人 日本水産資源保護協会 |
II章 |
事務局 |
社団法人 日本水産資源保護協会 |
III章 |
杉山秀樹 |
秋田県水産振興センター内水面利用部長 |
水谷寿 |
秋田県水産振興センター主任研究員 |
IV章 |
加藤禎一 |
元養殖研究所企画連絡室長 |
V章 |
上原子次男 |
青森県水産総合研究センター内水面研究所研究開発部長 |
VI章 |
事務局 |
社団法人 日本水産資源保護協会 |
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(5)公開資料の作成
成果を取りまとめて、ビジュアルな表現を用い、調査報告書並びに付録としてCD-ROMに収録した。
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