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2-5 補足情報
 レンジャーからの聞き取りにより、ケラムイ岬には現在2組のタンチョウが生息し、うち1組には、今期1羽のヒナがいるとの情報を得た。また、成鳥1羽には標識が付けられているということであったが、標識の番号を知ることは出来なかった。ケラムイ岬の西側、ハッチャス岬とノツエト岬の間に位置するオンネルス付近にて、2003年春に2羽の若いタンチョウを見たとの情報もあった。
 
3. 考察
 今回の調査で確認できた鳥類は、15目32科69種であり(表1)、すべて北海道に生息しているものと共通していた(藤巻1998)。しかし、生息数などには若干の違いがみられる種があった。最も違いを感じたのはトビである。北海道の特に道東地域では、ごく普通に多数生息しているが、今回の調査では、東沸湖とキナカイ川の2箇所でのみしか確認できなかった。また、やはり道東地域ではごく普通で生息数も非常に多いカモメ類やカラス類も国後島では非常に少ない印象を受けた。これらの鳥は雑食性で生ゴミなどをあさるなど、人間の生活環境に誘引されやすい傾向があり、すでに都市化されている北海道と、まだまだ人口も少なく局地的にしか市街地が存在しない国後島とで差が生じているのであろう。
 その他の鳥類、特に小鳥類については、ラインセンサスや定点観察などの定量調査を一切実施できなかったため詳しくここで述べることはできない。また、繁殖最盛期を過ぎていたため鳴声による確認が思っていたほど出来なかったため、見逃した種もあるであろう。しかし、わずかにも確認できた鳥類のうち、オオジュリンやノビタキなどでは餌をくわえている姿を目撃し、アオジについては巣立ち間もない幼鳥を確認したことから、繁殖の時期などは北海道とあまり差がないように思えた。
 今回の調査で確認した鳥類の中で、ロシアと日本のレッドデータブックに記載されている希少種は、ミサゴ、オジロワシ、ハヤブサ、オオジシギ、シマフクロウの5種である。
 ミサゴについては、これまでの報告によれば、国後島では稀に繁殖し、1982年に4〜6つがいが確認されている(ネチャエフ・藤巻1994)。今回の調査では太平洋側の温根別川河口付近とオホーツク海側のオンコツ付近の2箇所でミサゴを確認したが、特に温根別川付近では、ノツカ川方向へ毎回同じコースで餌を運ぶミサゴの姿が数回見られていることから、ノツカ川流域で営巣している可能性が非常に高い。また、同一地域にはオジロワシも生息しており、主たる餌場が近接あるいは重複しているようであった。
 オジロワシについては、南千島の鳥類について報告されている資料によると、国後島には、特に冬季の渡りの時期に普通で、普通に繁殖、又は稀に繁殖するとされており、1982年には約10つがいの繁殖が確認されている(Nechaev1969、ネチャエフ・藤巻裕蔵1994、Nechaev1998)。今回は、調査した地域すべてにおいてオジロワシを確認した。今回調査を実施した7月中旬という時期は、根室管内であれば雛の巣立ち前後の時期に当たる。今回の踏査で、直接繁殖活動を確認することは出来なかったが、留鳥と思われる成鳥の他、今期生まれと思われる若鳥の姿も多く観察した。従って、国後島におけるオジロワシの繁殖つがい数は、これまでに報告されている数より明らかに多い、あるいは増加傾向にあるのではないかと思われた。また、一見似通った生息環境であっても、温根別川やセオイ川(サラトフスカヤ川)流域のように上流域の河畔が比較的開かれ魚類の生息数も豊富で、海岸から河川上流域までを餌場として広く利用している地域や、チクニ川やセオイ川(ドマセワ川)、オンコツ周辺などのように上流域の河畔は樹木が密生しているため主要な餌場を海岸に頼っている傾向が見られる地域があるなど餌場の利用域に違いが見られたが、干潮時に干潟が出現し、生息魚類が非常に多い印象を受けた太平洋側と、浜からいきなり水深のある海域となり、河川に魚影の少ない印象を受けたオホーツク海側とでは特に顕著な違いが見られた。陸上でのオジロワシ調査は、白木氏による海上からのオジロワシ調査に補足するものと位置づけ実施したものである。また、陸上での行動には若干の制限があったため定点観察等は一切行わず、踏査中に目撃したオジロワシの行動を簡単に記録するに留めたため、ここで述べる考察については根拠に乏しい部分もある。オジロワシについての詳細は白木氏の報告を参照していただきたい。
 ハヤブサについては、東沸湖にて一回確認できただけであり、十分な情報を得ることはできなかった。
 オオジシギは、国後島で普通に繁殖する種であり、生息数も多いようである(Nechaev1969、ネチャエフ・藤巻1994)。この点は、北海道と共通している。今回の調査では、東沸湖周辺や古釜布北東部の海岸沿いで比較的多く姿を確認したが、それ以外での出現頻度は低かった。これは、繁殖最盛期がすでに過ぎており、この種独特のディスプレイフライトがほとんど行われていなかったことが要因していると思われる。国後島には、オオジシギの生息に適した草丈が低めの草地が十分にある。また、今後、開発による森林伐採により草地化が進めば、生息数が更に増加する可能性もあると思われる。
 シマフクロウについては、竹中氏の報告を参照していただきたい。
 ミサゴやオジロワシ、ハヤブサなど比較的大型で海岸部も頻繁に利用する鳥類については、船上から調査を行う海鳥調査員と情報を共有し合うことで、さらに詳しい生息状況を把握することができるであろう。
 これまでに報告され邦訳されている資料(Nechaev 1969、ネチャエフ・藤巻1994、ロシア国立クリリスキー自然保護区1984-1999、極東鳥類研究会2002)や、近年のビザなし専門家交流で行われた日本人研究者による調査において、国後島の鳥類相はほぼ明らかになりつつある。しかし、その生息数や密度、生息環境については、まだまだ不明な点が多い。また、ビザなし専門家交流では渡航時期が限られており、繁殖期以外の春と秋の渡り時期の渡来状況や、冬季の越冬状況、また留鳥の生息状況などについての情報も十分とは言えない。従って、今後はラインセンサスや定点観察などの定量調査による定期的なモニタリングや、バンディングによる渡り鳥の把握と渡りルートの解明、及び亜種レベルでの種の分類について調査研究が実施され、国後島をはじめとする北方四島全体の鳥類相がより詳細に解明されることを期待したい。
 
シマフクロウの幼鳥
(エシネベツ(コロドゥニイ川)にて)
 
《参考文献》
Nechaev,V.A. 1969. 南千島の鳥類[邦訳:藤巻裕蔵. 1979. 日本鳥学会].
Nechaev,V.A.& 藤巻裕蔵. 1994. 南千島鳥類目録(国後、 択捉、 色丹、 歯舞).北海道大学図書刊行会.
Nechaev,V.A. 1998. アジアの鳥類レッドデータブック:サハリンと千島列島.[邦訳:藤巻裕蔵. 2002. 極東の鳥類19(重要生息地・希少種特集). 極東鳥類研究所].
川那部真・市田則孝・金井裕・川崎慎二・藤巻裕蔵・佐藤文雄. 2002. 北方四島の鳥類相. STRIX vol.20,pp.79-100.
ロシア国立クリリスキー自然保護区. 1984-1999. クリリスキー自然保護区年報「自然の年代記」鳥類編合本(1984-1999年度).[邦訳:(財)日本野鳥の会WINGボランティアクラブ アジアクラブ. 2002. (財)日本野鳥の会].
藤巻裕蔵. 1998. 北海道鳥類目録. 帯広畜産大学野生動物管理学研究室.
榊原正文. 1994. 「北方四島」のアイヌ語地名ノート. 北海道出版企画センター







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