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「北方四島・国後島生態系専門家交流」
訪問の記録
日時:7月10日〜7月27日
実施団体:特定非営利活動法人 北の海の動物センター
事務局:「北方四島・国後島生態系専門家交流」実行委員会
協賛助成:日本財団、地球環境基金、経団連自然保護基金、PRO NATURA FUND、損保ジャパン環境財団
助成:HBC、読売新聞社、毎日新聞社
 
はじめに
 今年の調査は1999年から始まった北方四島自然生態系総合調査の最終の年となる。それだけに、この18日間の調査は中身が濃いものとなり、また得られた成果も意義深いものと思われる。
 前年度同様、調査は海上班と陸上班に分かれて行われ、海上班はロサルゴサ号を中心にロサルゴサII、磯舟およびゴムボートを駆使し、国後島周辺海域と択捉島南部海域の調査を行った。また陸上班は全日程を概ね5日ずつの3期にわけ、国後島北部、中部、南部と調査を行った。詳しい調査内容は、それぞれの担当者が報告書で述べているので割愛するが、いくつか成果のトピックを述べる。
 陸上班のヒグマに関する調査では痕跡調査が主体であったが、道内では見受けられないほど痕跡が多く、また実際の直接観察の機会にも恵まれ、実り多い調査となった。まさに「クマの島」といっても差し支えないほどその密度は濃いものがあった。また小哺乳類ではイイズナやカラフトヒメトガリネズミが採集でき、国後島の哺乳類リストに新たに付け加えることができた。鳥類の調査では、北部でのシマフクロウの直接観察ができたことが大きな成果であろう。これはTV番組でも紹介され大きな話題となった。淡水魚関係の調査では、16水系について精力的に調査を行い、9科26種の淡水魚を採集・確認でき、道東と近似した生態系であることが示唆された。植物関係では湿原の植生について希少種であるムセンスゲの群落が確認できた。
 海上班では、海鳥類として39種が確認され、とくにハシボソミズナギドリの大群を観察できたのは成果である。鯨類では、マッコウクジラ、シャチを始め6種を観察できた。ミンククジラを狩るシャチの特有の狩猟方法を観察できたのはきわめて幸運であった。またアザラシ類2種、トド、キタオットセイ、ラッコについても個体数カウントが実施でき、トドの上陸場では糞採取も実施した。このほか、海洋・海底環境についても貴重なデータを収集できた。
 調査期間中、1日を費やして地元の方々との交流を行った。特にフルカマップ近郊のチクニ川で実施した調査団専門家と地元の子供達の自然生態系エクスカーションは意義深いものがあった。こうした小さな交流が将来の大きな太い絆へと繋がっていくものと信じたい。
 全体に、天候にはあまり恵まれず、特に陸上班は南部・中部調査はほとんど雨中で行われた。中部・北部調査では、陸路を移動できず、ロサルゴサにより海上を移動し、最終的にゴムボートでキャンプサイト付近へ上陸という方法をとっていたので、こうした荒天続きの日々には上陸が危ぶまれた。結果的に北部のビロク湖周辺の調査は、当初の太平洋岸の上陸をあきらめ、比較的海が穏やかなオホーツク海側海岸から上陸し、調査は地峡を徒歩で横断して行った。ただし、北部調査では上陸後天候が回復し、チャチャ岳が美しく青空に生える快晴日に恵まれ、快適な調査を実施できた。
 調査を通じて重大な事故はなく、またケガや疾病についても重篤なものはなかったことは同慶の至りである。陸上班・海上班とも常に1名以上の医者が同行していたのも心強く、定期的に健康診断を実施したことも効果があったのかもしれない。ロシア側スタッフとの関係も良好であり、有機的な連携の中で調査が実施できたものと信じている。これには調査団の通訳チームの貢献が非常に大きい。さらに環境省および外務省から派遣されたスタッフの活躍には心から敬意を表するものである。報道関係のスタッフの協力も大きなものがあった。紙面を借りて、以上のスタッフに満腔の謝意を呈したい。くわえて、本調査を実施するに当たり、様々な形で協力をいただいた外務省、環境省、内閣府、ロシア政府、クリル地区行政府、同自然保護局、北海道立北方四島交流センター、根室市、千島歯舞諸島居住者連盟には深謝する次第である。
 
団長 近藤誠司
北海道大学大学院農学研究科 教授
 
1. 訪問計画概要
 
(1)訪問の目的
 北方四島海域は、世界有数の生物多様性に富む海域であると共に、今なお未開発の原生的海洋生態系が維持されている地域である。一方、陸上もこれまでの予備調査から莫大な海の生物資源を自ら持ち込むサケ科魚類(河川の魚)・哺乳類の密度が豊かであることが確認されている。本事業の最終目的は、こうした北方四島特有の豊かな環境下で、陸海の生物群集を明らかにし、それらがどのように暮らし、またどのように環境と結びついているのかを解明し、これら動物相の資源管理や生態系の保全に貢献するところにある。
(2)実施団体
 特定非営利活動法人 北の海の動物センター
(日本財団、地球環境基金、PRO NATURA FUND、経団連自然保護基金、損保ジャパン環境財団、読売新聞社、毎日新聞社、HBC)
実行委員長 大泰司紀之(北海道大学大学院獣医学研究科教授)
団長      近藤誠司(北海道大学大学院農学研究科教授)
事務局長   小林 万里(特定非営利活動法人 北の海の動物センター)
(3)窓口団体
環境省
(4)期間と場所
平成15年7月10日〜7月27日の18日間
根室港→国後島→択捉島(南部)→国後島→根室港
(5)訪問団人数
日本側参加者 43人【専門家20人(哺乳類3・淡水魚2・植物3・薬草2・陸鳥類2・鯨類1・海鳥2・猛禽類1・鰭脚類(ラッコ含む)2・海底環境2)、専門家補助2人(鯨類1・海洋観測1人)、同行者21人(政府2・窓口団体2・医師2・通訳4・事務局11)】
四島側参加者7人【専門家3名(保護区2・漁業規制局1)、同行者4名(護衛3・ボート1)】
(6)交通手段
海上:船舶(母船ロサ・ルゴサ 478トン、小型船ロサ・ルゴサII 47トン、磯船ロサ・ルゴサIII)
陸上:車輌(南クリル行政府手配のマイクロバス、四輪駆動車)
(7)宿泊
海上班:船舶
陸上班:友好の家、キャンプ
 
 
(1)友好の家での交流会
日時:平成15年7月20日12:00-14:00(ロシア時間)
場所:国後島古釜布友好の家
参加者:訪問団全員
内容:「クリル地区行政府」表敬訪問し、専門家の受け入れのお礼と記念品贈呈。意見交換をしながら、昼食を楽しんだ。
12:20-12:30 友好の家へ移動
12:30-13:00 子供たちのコンサート(ロシア行政府からの贈り物)
13:00-14:00 昼食
(2)島内視察
日時:平成15年7月20日 14:00〜17:30(ロシア時間)
場所:国後島古釜布周辺の川
参加者:訪問団20名(主に、海上班)
内容:14:00-14:10 デルタ社へ移動
14:10-14:30 デルタ社見学
14:30-15:00 広場へ移動
15:00-17:00 買い物
17:00-17:30 港へ移動
(3)エクスカーション
日時:平成15年7月20日 14:00〜17:30(ロシア時間)
場所:国後島古釜布周辺の川
参加者:地元の小学生20名と訪問団22名(主に、陸上班)
内容:古釜布周辺の川に生息する淡水魚つかみを実際に地元の子供達に体験してもらい、自分達が生活する環境にある川にどんな魚が棲んでいるのか、を実体験してもらった。
所感:天候には恵まれず小雨の降る寒い日であったが、子供達は大変真剣にお互いに競争するかのように集中して「魚つかみ」をしていた。「魚つかみ」が終わると、他の子供の魚と見比べたり、つかんだ魚の数を競っていた。子供達にインタビューしたところ、「大変楽しかった」との感想が多くの子供達から聞けた。
(4)夕食交流会
日時:平成15年7月20日 18:00〜20:00
場所:ロサ・ルゴサ船上
対象:行政府関係者10名
内容:行政府関係者10名をロサ・ルゴサに招いて、「ビザなし専門家交流訪問」の今後の課題やロシア側の要望を聞き、日露交流を行った。







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