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1)圧力に関する問題
 
 ここでは、スクイズ(しめつけ傷害)、肺破裂及び減圧症について触れます。
 
(1)スクイズ
 潜水を開始した際、最も早く現れる変化は鼓膜に対する圧追感です。これは、鼓膜の内側にある中耳腔と呼ばれる空間に存在する空気の圧力より周囲のそれ(外圧)が高くなるために起こるスクイズと呼ばれる現象で、そのまま潜り続けようとすると鼓膜が痛くなって潜ることができなくなってしまいます。これを回避するためには、「耳抜き*2」をして、中耳腔内の圧力と外圧との均衡を保つ(均圧)ことが必要です。スクイズは、中耳腔や肺のほか、空気の存在する場所で起こります。
 
(2)肺破裂
 肺は、呼吸を司る重要な臓器で、そこには多量の空気が存在するため、潜水を行う上で、最も問題とされる臓器です。「素潜り」を行った場合と「スクーバ潜水」を行った場合、最も顕著な変化は、肺に現れます。前者の場合、息を止めているために、水深(圧力)の増加に伴い、肺の容積は、反比例的に変化しますが、後者の場合は、レギュレーター(圧力調節器)の作用で、常に水圧と同じ圧力の空気が肺内に供給されるため、いかなる水深であろうとも、肺は、絶えず1気圧の場合と同じ状態で収縮、拡張を繰り返しています。それ故、仮に10mの海底から呼吸を止めて一気に水面まで浮上するような事があると、肺の容積は2倍に膨れ上がることになり、肺破裂を起こしてしまいます。これによって流出した空気の泡が血液によって身体の各部に運ばれ、血管を塞いでしまうと、空気塞栓症という致命的な障害を起こします。「スクーバ潜水」において、肺破裂やスクイズを防ぐためには、普段どおりの呼吸をすることが重要です。なお、浮上時に行う減圧は、呼吸をすることによって体内に溶け込んだ窒素ガスを排出する行為なので、浮上中に呼吸を止めてしまうと、減圧すらできなくなってしまいます。
 
素潜りによる肺の変化
 
スクーバ潜水による肺の変化
 
(3)減圧症
 広く一般的にいわれる「潜水病」といったらこれを指します。「スクーバ潜水」等、圧縮空気*3を呼吸して潜る場合には、潜水深度と潜水時間に応じて適切な減圧時間をとるように決められています。ところが、何らかの理由で減圧時間を短縮したり、急激に浮上(減圧)した場合には、体内に溶け込んだ窒素ガスの排出が間に合わず、過飽和状態となって体内(特に血管内)に気泡が発生するために起こる病気です。例えば、コーラやビールの栓を抜くと多量の泡が発生しますが、そのような現象が体内で起こると想像して下さい。これを防ぐためには、適切な減圧時間をとることはもちろんのこと、潜水関連の書物にかかれている種々の注意事項を守ることが必要です。
 
 
実習
◆高圧環境体験
 水深30mに相当する圧力(約4気圧)を陸上で実際に体験します。圧力の増大により、テニスボールがつぶれたり、声が変わったり、口笛が吹けなくなるという現象が起こります。そして硬式テニスボール(直径約6.5cm)を口の狭いビン(内径約5cm)に入れることができます。ただし、風邪をひいている人は参加できませんのでご注意を。!
 
 
 
◆体験ダイビング
 水深3mのプールにおいてスクーバ潜水の体験を希望者に実施します。スクーバ潜水は、手軽に潜れるためにレジャー、職業を問わず、最も普及している潜水法です。水中では、陸上で感じることのできない物理的現象を実際に体験できます。
 
 

*2 これは、片手で鼻をつまみ、鼻をかむようにして行う行為です。これにより、喉の奥から鼓膜の内側の空洞(中耳腔)に通じている細い管(耳管)から、圧力のかかった空気を中耳腔内に送り込み、そこと外圧の圧力の均衡を保ちます(均圧)。こうすることにより、深く潜っていくことができます。なお、均圧を行うためには、これ以外に、(鼻をつまんで)ツバを呑み込む、顎を動かすなどの方法があります。
*3 ダイバーが背負っているボンベは「空気ボンベ」で「酸素ボンベ」ではありません。当然、中のガスも酸素ではなく、圧縮空気です。よくマスコミ等で、“酸素ボンベを使用して事故に遭遇した”などと報じられますが、あれは明らかな間違いです。法律でも、酸素を使って潜ることが禁じられています。また、日本では、「酸素ボンベ」の色は黒と決められているので、ダイバーが使用するボンベの色がグレーがあることからも「酸素ボンベ」を使用していないことは明らかです。







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