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ソーラー・人力ボート大会論文集
ものつくり大学HPV-Project
ものつくり大学 Shooting Star号
製造技能工芸学科 3年 小島崇
 
チーム名: ものつくり大学 HPVプロジェクト
船名: Shooting Star号
代表者: 宮園勇也
構成員: 西浦健二、小島崇、坂本暁、高澤明向、後藤康聡、宮園勇也、宮臺直也
 
1. はじめに
 ものつくり大学HPV-Projectは人力ボート大会に参加するにあたり、排水艇部門優勝を目指します。我がShooting Star号は船体形状のみならず、駆動部機構にも重点を置いて設計・製作を行いました。船体形状には人力によるプレーニングを可能にする工夫をし、駆動部機構には走行時比較的に空気抵抗の小さいリカンベント方式を採用しました。また、従来のスプロケットの代わりにSDV*をとり入れています。
 人力ボートの新しい試みにご期待ください。
 
2. 船体形状
2-1)船体形状
 5分の1モデルを製作し水槽を用いて各流速における抵抗試験を実施し、実モデルにおける船体特性曲線を作成した。我々の求める形状を探すとともに形状データを数値流体解析することでより理想的な形状を選定する。特にプレーニングを安定してできる船体形状を導くのに力を注いだ。
 人力によってプレーニングさせるのは実際問題難しく設計においてとても悩まされた。しかし、プレーニングによるメリットは大きく我々の意思を確固たるものにしていた。結論としてはプレーニングするための活性化エネルギーを如何に減らすかに力を注ぎ、ステップを用いるにいたった。また重心位置等の関係を把握することで、より的確なボディープランを作り上げた。
 
2-2)経験と勘
 ものつくり大学では製造技能工芸学科の1学年時必修科目にフレッシュマン・ゼミ(通称Fゼミ)というカリキュラムが設けられており、グループによる船の製作、競争を行っている。グループのメンバーがお互い協力・試行錯誤してより速い一艘を完成させるこの科目は、開講わずかまだ3年目ではあるが技術・知識の伝承が行われ、目覚しいほどの進歩をし、年々より速い船ができあがっている。
 レギュレーションが多少違いはするものの、人力ボート大会でも上位に入賞可能であろう船もいくつか作られてきた。この船に関する知識と技術と感を用いて更なる高みを目指し今大会のための船の製作に取り組んだ。また実際に多くの船に乗り船体形状と船の挙動を体感することで、乗り手にも易しく安定した設計を実現し、速さと美しさを兼ね備えた船を造った。
 初めてのプレーニング艇の製作という手探り状態で、幾多の模型実験の結果とFゼミでの多種多様な船を見て、時には文献を探しプレーニングしやすい形状を頭に刷り込んで設計・製作した。
 
2-3)模型実験
 実験の一部を紹介する。実験は以下の条件で行った。
 
水温:23.6(℃) 水の密度:1016.98(kg/m3) 水の動粘性係数:0.92186×10-6(m2/s)
濡れ面積:0.97(m2) 船体長さ:1.20(m) 喫水線高さ:0.03(m)
 
 下の図1、2に実験風景を示す。次ページ図3、4は結果得られたフルード数FnrR値及びrW値の関係であり、図5Type1、Type2の流速(m/s)−船体抵抗(kgf)の関係を示す。
 この実験結果より、Type1では実モデルで流速4.0m/s時に約9.0kgfの抵抗を受けるのに対し、Type2では約8.5kgfの抵抗であることが分る。また、流速4.5m/sの場合の抵抗はType115kgfType2では13kgfとかなりの差がついた結果が得られた。明らかにType2の方がベターである。他にも8モデルにつき簡易的な実験を行い、図5と同様に形状特性の把握をし、船体形状を選定した。
 
実験風景
図1. Type1−実験風景
 
図2. Type2−実験風景
 
実験結果
図3. Type1 rR & rW
 
図4. Type2 rR & rW
 
図5. 速度特性グラフ
 
2-4)数値流体解析、CAE
 ボディープラン作製にはエクセルを用い、船体形状は3次元CADで設計した。その後に、今回は十分な時間を割くことができなかったが、船体回りの流れを数値流体解析によって検証し、実験結果とつき合わせ船型形状決定の参考とした。
 
3. 粘性抵抗の削減
 排水艇の抵抗は造派抵抗と粘性抵抗によるものが多い。多くのチームが船体表面をピカピカに磨き上げているのを大会会場でよく目にする。これは、船体表面を滑らかにし、さらに濡れ難くして粘性抵抗を減らそうとしているのである。しかし、これが必ずしも正しい選択とはいえないと我々は考えている。船体が濡れないようにする方法は他にも数多くある。例えば表面に空気の層を作るといった方法もあり、たとえばマイクロバブルが巨大タンカーの抵抗を激減させるとの報告(2)もある。どの方法が我々の求める最良解かは分らないが、これからの研究課題であることには間違いないであろう。
 さらにプレーニングにより濡れ面積自体を減らし、粘性抵抗の低減を試みた。この手法は同時に造波抵抗および後流によるドラッグの削減にも有効である。前述のようにステップを用いたことでプレーニング直前の後流によるドラッグを低減させてこそ成功したものだと考えている。
 
4. まとめ
 船として全体のバランスをとりつつ、プレーニングを実現させる事に大変苦労しました。プレーニングしなかったときのリスクを負ってはいるものの、SDVとプレーニングの初のコラボレーションで、ものつくり大学は今大会に臨みます。人力ボート大会初参加でまだまだ不安は残りますが、他チームに引けを取らない船が出来たと自負しております。
 末筆ではありますが、この船を造るにあたりご協力、ご忠言いただきました多くの皆様にこの場を借りて、プロジェクトメンバー一同心より感謝申し上げます。
 
 
※本イベントは、日本財団の一部助成により実施するものです。
 

 *常識的なスプロケット駆動機構の弱点(ペダルの運動する方向とペダルに作用する力の方向が殆どの区間において一致していない)を解消したもの。SDVによって従来の1.2〜1.8倍の有効分力を得ることが実験により示されている。人力船に搭載された場合は未知であるが、SDVは我々の求めるものを与えてくれると信じている。詳細は文献(1)にゆずる。
 
参考文献
(1)織田紀之・岩月徹、日本機械学会誌、Vol.105、No.1003(2002)、pp.1-3.
(2)児玉良明、ながれ、20(2001)、pp.278-284.
(3)日本ソーラー・人力ボート協会会報.







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