III まとめ
III-1 イチイヅタとは
1. イワヅタ属について
イチイヅタ(Caulerpa taxifolia(Vahl) C. Agardh)は、緑藻(Chlorophyta)アオサ藻綱(Ulvophyceae)イワヅタ目(Caulerpales)イワヅタ科(Caulerpaceae)イワヅタ属(Caulerpa)に分類される海藻である。
Caulerpales(イワヅタ目)に属する種は、いずれも嚢状体の大型海産緑藻である。イワヅタ属(Caulerpa)の学名は、caulos(茎)とerpo(這う)と、その生育形態を表して名付けられたものであり、世界中の熱帯−亜熱帯域に広く生育している多核嚢状体の単細胞生物である。水平的に伸びる匍匐茎の下面からでる仮根によって固着し、匍匐茎から小枝を持った直立茎が出る(図1)。
図1. イワヅタ属の形態
この属には、現在世界中で70種以上が知られており、国内では、18種14変種11品種が報告されている。
イワヅタ属の海藻は、多核嚢状体で体内には多数の核を持っているが、通常の植物細胞に見られるような核や細胞質を隔てる細胞壁や細胞膜は存在しない。藻体の切断などにより、その多核嚢状体が壊れても、破断部分近傍に瞬時に隔壁を形成することで細胞内容物の流出を防止している。
イワヅタ属海藻の形態は様々である(図2)。また、環境によってその形態が大きく変化するため、同定は困難で高い技術を要する。
図2. イワヅタ属数種の形態
A: センナリヅタ B: クビレヅタ C: クロキヅタ D: ヒラエヅタ
E: コツブセンナリヅタ F: コハギヅタ G: ヒラエヅタ
2. イチイヅタ野生種の形態
イチイヅタ野生種は、蛍光の緑色のしなやかな緑藻で、その藻体は匍匐茎に特徴がある。一般的に匍匐茎はなめらかで分枝し、その下方側には基盤に付着するため重力屈性のある繊維糸状の仮根を有している。また、上方には、正の走光性のある葉状部が伸び、この部分に数々の偏平な楕円形状の小枝部が平面的に広がり、各小枝の基部はくびれ、先端部がやや尖る(図3)。イチイヅタ野生種の葉状部の大きさは、2〜25cmである。
図3. イチイヅタ野生種の形態
なお、イチイヅタの学名(Caulerpa taxifolia)ならびに和名は、その葉状部が、針葉樹のイチイ(Taxus cuspidata)の葉によく似ていることに由来する。
3. イチイヅタ野生種の分布
イチイヅタ野生種は、世界中の熱帯・亜熱帯海域に広く分布し、日本国内では南西諸島での分布が確認されている。
世界的には、ブラジル、ベネズエラ、コスタリカ、セネガル、ギニア湾、紅海、ソマリア、ケニア、タンザニア、マダガスカル、モルジブ、パキスタン、インド、バングラディッシュ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、中国、日本、フィジー、オーストラリアなどに分布している(図4)。
なお、変異型種(キラー海藻)が大繁茂している地中海は、イチイヅタ野生種の分布域ではない。
図III-4. イチイヅタ野生種の世界分布
|