(7)Nested PCR法(今回は行わなかった)
食品(二枚貝抽出液)を試料とする時にはウイルス量が少ないので、1st PCRで陰性の時にはNested PCRを行う。ただし、Nested PCRを行う時にはコンタミの危険性が高いので細心の注意のもとに実施する。
なお、Nested PCRの陽性コントロールとして、プラスミドに組み込んだノロウイルス(NV)陽性コントロールを用いる。
1)Nested PCRの調製
次に示した混合液を作製する。
Nested PCRの混合液
1. Distilled water 36.75μl
2. 10× Ex TaqTM buffer 5.0μl
3. dNTP(2.5mM) 4.0μl
4. NV プライマーF(25μM)注5)1.0μl
5. NV プライマーR(25μM)1.0μl
6. 1st PCR産物 2.0μl
7. EX Taq 0.25μl
Total 50.0μl
Nested PCRに用いるプライマーは、G1の1st PCRでCOG1F/G1-SKRを用いたときにはG1-SKF/G1-SKRおよびCOG1F/COG1Rを、G2の1st PCRでCOG2F/G2-SKRを用いたときにはG2-SKF/G2-SKRおよびCOG2F/COG2RをALPF/G2AL-SKRを用いたときにはG2-SKF/G2AL-SKRおよびALPF-COG2R10を用いるのが望ましい。他のプライマーを用いたときにはそれに対応するプライマーを用いること。
2)PCR反応、電気泳動
増幅は1st PCRと同様の条件で行うが、サイクル数は35とする。
Nested PCR 産物の電気泳動、UV照射で写真撮影、バンドの確認は1st PCRと同様に行う。
(8)PCR結果の判定
1)今回は採用していないが、RNA抽出のコントロールとして入れたエコーウイルス9型Hill株(粒子数約10,000個)のPCRで目的とするバンドが認められること。(=RNAの抽出に問題はない。)
2)検査材料の代わりにDDWを入れた陰性コントロールでバンドが見られない。(=遺伝子の混入がない。)
3)陽性コントロール(1st PCRではエコーウイルス9型Hill株、Nested PCRではNV陽性コントロール)で目的とするバンドが見られる。(=PCRがうまく行われた。)
4)PCRでの増幅産物は目的とする大きさであること。(=標的の部分が増幅されている。)
以上の条件が満たされたときにPCRの判定を行う。なお、上記条件が満たされないときには再試験を行う。
PCR陽性と判定されたときには、確認試験としてハイブリダイゼーションあるいは遺伝子配列を調べる。ハイブリダイゼーションで陽性、あるいは遺伝子配列で既知のノロウイルスと類似の配列が認められた時に陽性とする。
これまでの多くの研究で、SRSVは二枚貝の中腸腺(本研究では消化盲嚢とする)に蓄積、あるいは局在していると報告されている。しかし、SRSVの消化盲嚢までの移送過程、取り込み、分解といった動態は明らかではない。すなわち、目的のところでも述べたように、非常に微小なSRSVは単独でマガキなどの二枚貝に取り込まれるとは考えにくく、貝類の餌料であるプランクトンや有機懸濁物に付着して消化管に取り込まれると推定される。そこで、本研究では餌料として取り込んだプランクトンなどの消化盲嚢を中心にした移送過程を組織学的な観察に基づいて推定した。
二枚貝における消化盲嚢の構造を調べた研究、消化盲嚢での食物の移送を組織学的な観察に基づいて考察した研究は古くからあり、それらをまとめた上、自身の研究結果を加えたOwen(1955)の優れた論文がある。しかし、それらの中で貝毒原因プランクトンのみならず餌料プランクトンを直接捉えて記載している例はほとんどない。したがって、二枚貝に取り込まれたプランクトンが分解などの作用を受けてどのように変化するか、明確ではない。そこで、本研究ではプランクトンの取り込み過程を明らかにするため、食物移送と吸収に関わる部分を重点にマガキの消化盲嚢の詳細な観察から始めることとした。
器官を構成する細胞の種類と位置関係から消化盲嚢は3つの区分に大別された。1つは、胃との連結部分であるprimary ductで繊毛を有する細胞(繊毛上皮細胞)1種類が規則正しく密に配列する構造である。部位としては、ductの管状構造を構成する部分と腸管縦隆起に相当する内腔へ大きく張り出した部位に分けられた。同じ部位を構成する細胞の高さ、繊毛の長さと密度はほとんど均一であった。
次は、primary ductから多数分枝しているsecondary ductであり、primary ductのものと類似した繊毛上皮細胞を中心に構成されていた。しかし、primary ductとの大きな違いは繊毛が短いこと、繊毛の密度が小さくなっていること、末端には繊毛上皮細胞のみではなく、繊毛を持たない細胞(digestive cellと思われる)が存在することであった。
その次は、secondary ductから連続して消化盲嚢の終末部で嚢状構造をとるtubuleである。Tubuleはbasiphil cellとdigestive cellと呼ばれる2種類の細胞で構成されていた。どちらの細胞も繊毛は有していない。電顕の観察では微絨毛と思われる構造が確認された。
上記の観察結果に基づき、これまでの研究結果との異同を考慮した上で食物(餌料プランクトン)の移送の形を推定した。
1. 繊毛上皮細胞が連なるPrimary ductの中の移送は繊毛運動によると考えられる。しかし、胃のtubuleからprimary ductへの移送のしくみは確定できない(繊毛運動のみとはいえない)。In vitroの実験結果から繊毛運動の方向は一方向のみである。したがって、食物を移送することが主な働きと考えれば、繊毛運動は胃への開口部から終末部の方向と考えられる。しかし、現在のところIn vivoでの方向は明らかではない。後述するように、必ずしもそう断定できない。これまでの研究で報告されているように、primary ductは腸管縦隆起に相当する中央部が突出した構造で1本のductが実質的に2本の管状になっている。さらに、Owen(1955)の記載と異なり、腸管縦隆起はprimary ductの末端まで伸びていた。したがって、記載にある腸管縦隆起末端での水流の逆転(終末部の方向から開口部の方向へ)はマガキでは明らかではない。今回の形態観察に基づいてprimary ductにおける餌料と消化管内溶液の流れを推定すると、次のようになる。
(ア)胃から消化盲嚢への流入は開口部が開いたときの水圧によるものであり、繊毛運動に因らない。(これはOwenと同様の解釈)
(イ)しかし、腸管縦隆起で実質的に仕切られた2本の管において流れの方向が変わることはない。(これはOwenと異なる解釈)
(ウ)繊毛運動による餌料の移送は、開口部からsecondary ductへの方向ではなく、その逆方向である可能性も考慮すべきである。つまり、secondary ductから胃へ向かって、未消化物や消化後の排泄物を運ぶ方向に動く。(これはOwenと部分的に一致した解釈)
2. Owenの報告と異なり、secondary ductにも繊毛を有する細胞が多数存在すること、また繊毛細胞を持たないsecondary ductはないと考えられる。したがって、終末部への移送は繊毛運動によるものと推定される。しかし、primary ductでの移送の方向を考慮すれば必ずしも終末部への方向ではなく、流入は水圧に因るものであり、繊毛運動は排出の方向であるとも考えられ、さらに調べることが必要である。
3. Tubuleには繊毛を有する細胞はなく、開口部方向への移送はできないと考えられる。構成細胞は細胞内消化を行う細胞群であることから、基本的にはendocytosisによって餌料を取り込み消化することで処理を行うと考えられる。しかし、消化を行った後の未消化物、排泄物の移送のしくみは不明である。
それぞれの採集材料から12〜27個体分(1部分だけからの検出を含む)の消化盲嚢試料からSRSVの検出を試みた。その結果、
場所1:
2003年11月12日採集:0/15
2003年12月2日採集:0/12
2003年12月24日採集:1/27
2004年1月13目採集:0/20
2004年1月26日採集:0/25
場所2:
2003年12月2日採集:0/18
2004年1月13日採集:0/12
場所3:
2004年1月28日採集:1/25
となった。頻度は低いものの、場所1の12月試料と場所3の1月試料で1個体ずつSRSVが検出された。今回行ったのは1st PCRのみであるので、今後はより詳細な検討を行う必要がある。
また、電子顕微鏡観察において消化盲嚢部分ではなく、腸管の屈曲部にSRSVに大きさと形状が似た粒子が蓄積しているのを見つけた。これらがSRSVであるとは断定できないが、従来の報告が示す消化盲嚢と胃に局在するという考えに拘泥することなく、広い範囲を調べる必要があると考えられる。
(執筆者 生体防御研究部長 高橋計介)
注5):ノロウイルスのプライマーは1st PCRに用いたものの内側に設定されたプライマーあるいはセミNested PCRで行う。
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