第3章 まとめ
現在、内航船においては熟練船員の減少により船舶の安全管理技術の低下が危惧されており、この問題の解決、および運航コスト削減など海上輸送効率の向上が求められている。
本事業は、国が推進している内航船海上輸送の高度化・近代化を目指した高度船舶安全管理システムの構築に対応し、また、国の安全規制の合理化へ高度船舶安全管理システムの積極的導入を働きかけるために、遠隔診断システムおよび陸上支援による船上保守管理を支える高精度なセンサー技術、診断技術、情報処理・通信技術の実用化のための開発を実施した。
具体的には、燃焼解析及び表面振動による機関監視方法を開発し、精度の高い機関診断を可能にした。同時に、遠隔診断を支援する携帯端末入力システム、船陸間情報処理・通信システム、船舶に係わる航海情報の収集装置、等を加えた診断システムの有効性を実船での実証試験を行うことによって確認することができた。
2ヵ年にわたる開発実施により、船舶検査など安全規制の合理化を推進し、船舶職員法による乗組員の配乗数のうち機関部門を中心に1名削減を目指す、或いは機関部職員の資格軽減を目指す、という目標を達成するための環境整備に貢献する、技術的裏づけとなる機器装置を開発し、それぞれの機器装置の所期の性能を確認した。また、それぞれの要素研究においてさらに解決すべき諸課題も明らかになった。今後は、国が推進している高度船舶安全管理システムの検証のための総合実証試験に本成果を反映させることにより、所期の目的の実現促進に結び付けたい。
本事業の成果と課題を以下に示す。
1. 高度船舶安全管理システム構築に資する燃焼解析手法による内航船用機関遠隔診断システムを確立した。
成果
(1)燃焼解析用センサーでは、特に噴射管内圧力センサーおよびリング間圧力センサー他の有効性が確認できた。
(2)状態診断プログラムは遠隔監視に有効であることが確認できた。
課題
(1)燃焼解析用センサーは過酷な環境に装備されるため、長期間使用できる性能が要求される。今後、さらに耐久性について確認する必要がある。
2. 高度船舶安全管理システム構築に資する表面振動解析手法による内航船用機関遠隔診断システムを確立した。
成果
(1)表面振動解析により診断精度向上につながる検知技術の開発と機関内部微小変化の検知技術の開発をした。
(2)上記の技術を擬似故障試験で検証し、従来センサーによる監視診断システムと統合させた。
(3)監視診断システムの検知能力を飛躍的に伸ばすことができ、より高い安全性を得られた。
(4)従来センサーで検知できない、機関の内部微小変化を検知できる技術により、予防保全に寄与でき整備コスト低減につながる。将来は乗組員の省人化にが期待できる。
課題
(1)今回165mmボアの機関で実証したが、今後他社機関を含む他機種への展開を実施したい。
3. 携帯入力端末(ハンディターミナル)を活用した機関の周辺機器などの管理の高度化技術を確立した。
成果
(1)管理・点検レベルの向上
・執り行われるべき管理・点検内容が具体的に提示され、的確な処置が施されることを可能にすることが確認された。
・管理・点検作業における、点検忘れ及び点検結果記入間違い等の可能性が減り、ヒューマンエラーの防止を可能にすることが確認された。
・記録の書き写しやキーボード入力などの二度手間の作業を排除し、業務務効率化することが確認された。
(2)パソコンによる結果管理
・管理・点検結果が自動的に情報処理され、継続管理を可能にすることが管理上有効であることが確認された。
・期間管理される管理・点検内容の計画の策定が自動的に行われ、計画レベルの向上と計画作業の効率化を可能にすることが確認された。
(3)データの再利用と統合処理
・データの再利用に必要な電子データ化が自動的に行われ、効率化することが確認された。
・管理・点検データの船陸通信や診断システムヘの再利用を可能にすることが確認された。
(4)省力化
本システムの導入による業務の効率化の合算により、機関部員の作業時間は年間約69時間(25%)の削減が見込まれることが確認された。
課題
以下の主な改善要件の解決により、更なる有用性の向上が図られるものと考える。
(1)ハンディターミナル画面表示の視認性向上
ハンディターミナルの画面表示について、視認性の高いカラー液晶画面へのハード変更と、それに伴うプログラムの再製作により、視認性の向上を図る。
(2)ハンディターミナル起動時のプログラム処理速度向上
ハンディターミナル起動時の処置速度について、プログラムの構成、仕様変更等を検討し、処理速度の向上を図る。
4. 信頼性の高い、高機能でかつ廉価型の筒内圧センサーを開発試作した。
成果
(1)筒内圧力センサーに放熱対策及び断熱対策を施すことでセンサーの高温化対策が図れた。
(2)還元熱処理を行なうことで、焦電気の発生を軽減し、このことによりセンサーの温度変化時に起こるゼロ点シフト現象を防止した。
(3)部品の材質を変更することで約30%のコストダウンが図れた。
課題
(1)耐久性についてさらに時間をかけて確認することが必要。
5. 高度船舶安全管理システムにおける陸上支援を実現する船陸間情報処理・通信システムを確立した。
成果
(1)既存線利用による船内ネットワーク構築の検証及び各船内システム間でのネットワーク通信による情報統合化が可能となった。
(2)船内LAN及び汎用PC利用による主機関モニタリングの効率化、及び通信システムヘのデータ送信が可能となった。
(3)船内の各種データを自動的に判断し、陸上支援システム及びメール・クライアントに確実にデータを送信することが可能となった。
(4)紙ベースの情報交換から電子化および携帯パケット通信により、船陸間通信におけるコスト削減の可能性を実証することができた。
課題
(1)通信データ圧縮の効率化、送信方法の最適化により通信費のさらなる削減
(2)機関モニタリングにおけるユーザーインターフェースの視認性・操作性の向上
6. 高度船舶安全管理システムの一環として、航海情報収集装置を試作開発した。
成果
(1)本装置では位置や船速等の船舶航行情報と、天候や波浪等の周囲環境情報が誤りなく確実に収集されて、船内ネットワークヘ情報出力できることが確認できた。
(2)それらの情報が陸上事務所へも確実に伝送されることが確認できた。
(3)機器の操作性、耐環境性、動作安定性の面でも問題ないことが確認できた。
課題
(1)航海情報収集装置は内航船の設置スペースに適するように小型軽量化を図ること
7. 上記の一連の高度船舶安全管理システムを構築する要素機器装置の開発により、高度船舶安全管理システム構築において、国の安全規制に係わる検査方法等の合理化に取り組む環境整備の一助となった。
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