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解剖学への招待 −私と献体 解剖学習を終えて−

 事業名 篤志献体の普及啓発
 団体名 日本篤志献体協会 注目度注目度5


高度臨床解剖学講義・実習に出席して
金沢大学医学部 宮本由紀子
 
 高度臨床解剖学実習(以下、臨床解剖学実習と略記致します)に出席して、今年の4月から6月に行ったプライマリーコースの解剖学実習とは異なった視点から人体を改めて観察することが出来た。このプライマリーコースの実習では、人体の正常構造を理解するために、解剖学実習マニュアルに従って人体の形態物を剖出し、その形態と他の構造物との位置関係と機能的役割などを学んだ。今回の臨床解剖学実習における人体構造の剖出ステップは臨床医学そのものであった。この教育には解剖学教室及び脳外科学の教官も出席し、解剖学教授の総合管理の下、臨床医学者が解剖学実習室において、臨床治療としての命最優先の手術的剖出による人体構造の奥底を学生に教えてくれることを目的としている。
 教育の実際において、脊柱の椎孔の狭窄患者を想定し、椎骨突起を除去する高度の解剖(手術)実習が行われた。この講義・実習に出席された先輩の先生達は、臨床解剖学実習総合指導者である超優秀な先生からの経験豊かな教えを受けながら、目標構造物や周囲構造に致命的な損傷を与えることを防止しつつ、本当にしっかりとした術式に従って剖出を行い、その過程と結果を私達に教えてくれた。私達学生は生命安全を絶対的に優先するためには、高度技術の修得がどれほど重要であるかということを強く教えてもらった。それと同時に、プライマリーコースの実習で学んだ人体構造の一つ一つが有する意義の大きさを改めて実感した。
 今回の臨床解剖学実習には全国から多くの先生が出席された。臨床解剖学実習の総合的指導者の先生は、私達学生にも解り易いように手術方法を別途に教えて下さった。私達からは遥かに先輩であられる臨床の先生方も、命を最優先とする臨床医学と医療行為のあり方を技術面と精神面から教えてくれた。臨床解剖学実習によって、人体構造をしっかりと学ぶことの重要性を教えられ、献体者への感謝の念を一層強く抱くようになった。
 
自治医科大学 本藤 有智
 
 思えばまだ18歳だった私が扱っていたのは、紛れもなく本物の人体だったのでした。およそ世間一般とはかけ離れた世界に浸かっていたことを今更ながら思い知らされます。
 実際に人体の構造を見ると、そのあまりの精密さに驚かざるを得ません。理解が進めば進むほどに、筋、骨、神経、臓器は機能と正しく合致した構造物であることを知らされます。考えれば水とタンパク質、脂肪、無機質等の集まりに過ぎないのに、この実用芸術品は完壁なまでに計算されているのです。単に幾つかの自然の法則によってでは説明のつかない、生命に与えられた何かの意思を見た思いです。
 7ヶ月間、400万年をかけて進化してきた人類の歴史を直接目で見、肌で触れ、その感触を味わうことができたのは、とても大きな意義を持ちました。実習を終えた今、私は頭の中に、まったく無知であった人体の構造をイメージできます。このイメージが、医学全般における基礎なのでしょう。ここに、みんなが安らげる大きな家を建てられるかどうかはこれからにかかっています。
 美しい桜も、春の陽気がなければ花を咲かせないように、私たちが医師として花開くのは、皆様の協力があってこそと思います。人はよく、ひとりでに成長したように錯覚する生き物です。しかし、その段階を上るのは自分でも、土台は数多くの人々の協力で成り立っているのです。
 人体は最高の教材でした。
 松韻会の皆様へは、感謝の申しようがありません。死して尚、輝きを失わない強烈なメッセージ、しかと受け賜りました。実習、研修等で患者さんと接するとき、必ず「いい医師になってくれ」といわれます。大変な期待を受けていることを感じますが、健康で、若さにまかせて何不自由ない生活をしている私たちは、なかなかその思いに気づくことができません。しかし、自らの肉体をもって迫る熱いメッセージは心の奥底に刻み込まれ、常に打ち寄せてきます。
 私たちにできる恩返しは、医学の発展を願い、自分の体を提供してくださった方がいるのを決して忘れず、優秀な医師となることです。「ひとからひとへ」笑顔の伝達人となりたい。そのために精一杯の努力を続けることを約束いたします。これからも、温かい目で見守っていただきたく存じます。いっそうの御指導御鞭撻願います。
 
北里大学医学部 安間裕太郎
 
 9月3日解剖学実習初日、私は不安と緊張の中、実習に入りました。まず最初に驚いたのは、日常ではありえない御遺体が並んでいる光景でした。しかし先生から実習の心構えを聞き、また献体をされた御遺族からの手紙を聞いて、一回一回ベストを尽くしてやらなければという使命感が沸いてきました。手紙を聞いているときは、涙が出そうになりました。そして献体をされた方々、御遺族の方々に大きな感謝を抱きました。
 解剖実習を実際に行うと、骨・筋肉・神経・血管また臓器など覚えることが山ほどあり、毎日、予習・復習で夜遅くまで寝不足になりながら勉強していました。何度も寝てしまおうかと思いました。しかし、献体された方や御遺族のことを考えると「がんばろう」という気持ちが湧いてきました。そしてついにやりとげることができました。今は非常に充実した気持ちです。
 また解剖学を学ぶにあたり、御遺体の一人一人が違うということを実感しました。そして人間の身体の精密さ、奥深さ、合理的システムに驚かされました。私が特に興味深かったのは筋肉を引っ張ると、指の一本一本まで伸ばしたり、屈したりすること、またその筋肉を支配する神経の分布のしかたを観察することで、そこを損傷したときの症状などを予想できることでした。ヘルニアの多発部位、注射する位置、など様々な病気を考えながら、自分なりに学んでいったので、解剖実習が将来どれだけ重要になってくるかということが理解できました。
 私は解剖実習を行ってから、日常の動作やスポーツするとき、またウェイトトレーニングをするときなど、『どこの筋肉がどのように動いて身体が動いているんだな』ということを、よく考えるようになりました。これは解剖実習を通して、より医学的な考え方ができるようになったからだと思います。6年間の中でも医学生にとって、この体験は本当に貴重な体験であり、大きなターニングポイントなのだと実感しました。
 しかし、こうした体験は先生方の丁寧な指導と、そしてなによりも献体してくれた方々、それを承諾してくださった御家族の力なしでは、成り立たないものだということを、胸にとどめ、感謝していきたいと思います。
 
東京歯科大学 山科 光正
 
 解剖実習を終えた今、献体していただいたあなたに私はこう尋ねたい。献体により未来の医療人育成に貢献したいという、あなたの深く強い意志にわたしは応えることができましたか、と。あなたが完全無比な歯学生を思い描いていらしたならば、私はあなたから及第点を頂くことはできないかもしれません。それは、不器用さ故、思い通りに実習が進められなかったことや、複雑な人体の構造を前にして自分の不勉強さを改めて認識することなどもあったからです。しかし、限られた時間の中で、できる限り多くのことを学び取ろうとしていたことはあなたにもわかっていただけたのではないかと信じています。
 この文章をあなたに語り掛ける形で始めたことには、一つの大きな理由があります。なぜなら、実習が進むにつれ、同じ空間、時間を共有している連帯感のようなものを強く感じるようになったからです。御遺体の存在感よりも、一人の人格を意識するような感覚を持つに至った、と表現することがより適切でしょうか。一方で、あなたについて私が知り得ている唯一のことは、御遺体の番号のことだけです。あなたがどのような人生を送り、その生をどう全うされたのか、そして何があなたに献体を決意させた契機となったのかを私は知ることはできません。だからこそ、私はあなたに問い掛けてみたかったのです。
 
 ある医師が患者さんから学ぶことで、真の意味での医師にしていただいたと記したエッセイを私は思い出しました。その意味から言えば、あなたから多くのことを学ばせていただいた私にとり、あなたは初めての患者さんでした。この先、時の流れや環境の変化が私を変えていくことでしょうが、学ばせていただくという謙虚な姿勢を持ち続けていくことこそが、実習の機会を与えて下さったあなたへの感謝の気持ちを表現する最善の方法であると信じ、これからの歯科医師への道を着実に歩んでいきたいと思います。
 
神戸大学医学部 楊 培世
 
 実習中、感動することが度々あった。それは人の体の美しさに、である。人体を構成する多くのもの。その中に極めて美しい部位があることは外からは分からない。解剖学の図説には写真が掲載してあるが、写真ではこの美しさを表現することはできないことを知った。外見は異なれど、人はみな体の中に美しいものを持っている。それだけは、みな平等に与えられた特権なのだ。もう一つ感動したことがある。それは構造の緻密さである。長い年月をかけて進化させてきたもの、退化してしまったもの、それらが組み合わさって一つの身体となる。自由に身体を動かすために、これほど細かく複雑な構造を人は持ち操っているのかと感心せざるを得なかった。このような感動があることは実習が始まる前には予想もしていないことだった。
 実習中、父が脳梗塞で倒れた。一時、危篤状態に陥ったがなんとか一命をとりとめた。しかし、父の口が開かれることはもうない。かろうじて瞼を開くが、その瞳は何も映さない。病気の後遺症で多くの部分が麻痺してしまったのだ。あれほど緻密に計算され尽くしたかのように構成された人の身体が脳の障害で動かなくなる。その現実を思い知った。実習の終盤、脳の解剖をしたときは複雑な気持ちだった。父の脳はどこが出血したのだろうか。何の知識も力もない私が父の為に出来ることは何もない。しかしこの実習のおかげで父の病気が起こった場所について、実際に見て学ぶことが出来るのだ。そのことにはとても感謝した。何も出来ず、無知のまま寝台に横たわる父を見ているよりよほど救われた。まさに解剖実習の恩恵だった。
 私が担当したご遺体は年配の女性だった。わたしはいつも「うちのおばあちゃん」と呼んでいた。実習中「うちのおばあちゃん」が私に教えてくれたことは膨大すぎて、その全てを記憶しておくことは無理だった。しかし「うちのおばあちゃん」が与えてくれた数々の感動と感謝の気持ちは決して忘れないだろう。医学部に入学した学生に解剖実習が必要なのは単に知識を手に入れる為だけでなく、より豊かな心を養う為でもあるように思う。「うちのおばあちゃん」は人の身体のすばらしさを私に教えてくれた。私が「うちのおばあちゃん」にしてあげられることは何もないのだろうか。亡くなった方は戻らない。しかし、その存在を知り、忘れないでいてあげることがその人への一番の供養だと私は思う。これからは父を思う度に私は解剖実習の日々を思い出すだろう。そして「うちのおばあちゃん」も。父のことを忘れない限り「うちのおばあちゃん」は私の心の中にいつまでも存在し続ける。
 最後に、解剖学実習の意義と重要性を実感しつつ、貴重な体験を与えてくださった、献体された方々ならびにご家族の方々に謝辞を申し上げます。







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更新日: 2018年9月15日

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