家族療法(family therapy)
家族機能が低下している(家族病理)から家族カウンセリングをするのではなく、家族と共に問題解決したり、家族が自ら治るのを援助する療法である。
対象は問題行動を起こしている人(IP)ではなく、そのことを心配して相談にくる人(Cl = client)である。しかし、大人ではIPとClが同じ人である場合も多い。家族面談の場合には、IPを含めて参加する家族員が多いほど家族力動を捉えやすくなることが多い。
方法としては、面接担当者とワンウェイミラーの中にいる面接者とのチームで行う。
(1)プレセッション(面接前の検討)
(2)セッション(面接。このとき、後ろの者が質問したりコメントしたりすると問題解決に効果的である)
(3)インターセッション(面接の途中で相談者と離れて、チームがセッションを振り返り、家族を肯定的に意味づけしたり、次回の課題を検討したりする)
(4)インタービーン(インターセッションの結果を家族に伝える)
(5)ポストセッション(面接全体を振り返り、次回の面接に備える)
家族システム論(family system theory)
個人よりシステム全体を構造的にとらえて、効果的に面談する理論である。システムを見るには個人と環境(家族、学校、地域、文化、時代など)のかかわりを広く捕らえることが重要である。
家族絵画法(family painting therapy)
家族全員それぞれに絵を描かせる場合と、面接参加者全員で一枚の絵を描かせる場合(合同家族画)とがある。いずれの場合でも絵の内容を検討するのではなく、仕上げるまでの交流からシステムを見て家族を援助する療法である。
過保護(overprotection)
国語辞典などでは、「必要以上に大事に育てること」となっているが、心身医学では次のように考える。子どもは初めての事態に失敗や成功の体験をして心理社会的成長を獲得していくが、親が子どもに失敗をさせないように子どもの困難を予期して親の判断で援助してしまうことにより、子ども自身での問題解決の機会を奪い、子どもの心理的社会的成長を阻害することである。したがって、過剰保護というより、過誤保護の意味が強い。本質的には子どもの問題解決能力への親の信頼の欠如であり、子どもに甘えを許す甘やかしとは区別されねばならない。
共感(empathy)
感情移入ともいわれ、心理面接場面で最も重要な態度のひとつである。共感が人格変化に大切な理由は、人は共感を経験すると、開放されて強くなり、安心感を持つことができるからである。人は理解されると、自分の心の居場所を確保できるものである。
共依存(co-depender)
アルコール依存者の治療と回復にあたり、その配偶者もアルコール依存者を支えているという臨床経験から出てきた用語である。
共依存は、機能不全家族で生き残るために自己評価や同一性を他人に求め、「自分らしさ」を喪失し、他人を通して自分の欲求を満たそうとする対人関係などの関係性の病理である。機能不全家族ばかりではなく、機能不全社会、特に学校や会社、宗教などの社会的影響を受けることも多い。
共依存の役割
(1)支え手(依存者の嗜癖を持続させる配偶者や家族を指す)
(2)家族英雄(学業やスポーツなど高い成績を上げる子ども)
(3)マスコット(明るく振舞う子ども)
(4)犠牲者(孤独感から家にいられなくなったり、嗜癖に依存したりする)
(5)わすれられた子ども(lost child: 家族の中で孤立し、孤独感や抑うつ感から引きこもる)
共依存の特徴
(1)不正直(他人の期待に沿うように嘘などをつく)
(2)感情の障害(感情を抑える)
(3)支配(他人をコントロールしようとし、負けを認めたがらない)
(4)混乱(他人のコントロールに失敗すると混乱する)
(5)思考障害(強迫思考がある)
(6)完璧主義
(7)他者指向性
(8)依存(自己評価が低いので、他人の世話を焼く)
(9)恐れ
(10)強剛性(ひとつのことにこだわる)
(11)批判主義
(12)抑うつ
(13)劣等感・誇大主義
(14)自己中心主義
(15)道徳観の欠如
(16)無感動や無力
(17)悲観主義
機能不全家族が存在し、「見捨てられ不安」や「屈辱感」が生まれ、様々な心的外傷(トラウマ)が重なり、真の自己を育てることなく、偽りの自己で生きるか、あるいは外に満足感を求めるようになる。それが、抑うつ・不安、物質依存、摂食障害、ストレス性障害、関係嗜癖、強迫症状の6つである。共依存という家庭内トラウマからの回復は、自分を責めたりせず、内なる子どもとの出会いであると指摘する。
強迫観念(obsessive ideas)
思考障害のひとつである。本来、意識にあがらず、また意思で統制できるはずの、特定の思考や表象、衝動、強迫感を除去しようとしてもできない現象。自己に所属はするが同質ではなく異質で、強制された感じで苦痛が伴う。たとえば洗手強迫では、頻回に行う意義を認めているわけではなく、衝動に駆られてそうせざるを得ないという特徴がある(妄想に駆られて発展する)。
ほかの障害に限定されるもの(摂食障害での食物へのとらわれ、身体醜形障害での外見についての心配、心気症の病気ではないかとのとらわれ、性嗜好異常での性的衝動や空想へのとらわれ、大うつ病での罪悪感の反復思考)は除外する。強度だと、特に子どもに現れた場合、家族の生活に大きな影響を与える。
出典)『家族心理学事典』金子書房/『心身医学用語事典』医学書院
第1章 相談現場のワークショップ
C.カトナ+M.ロバートソン著/島 悟監訳『図説 精神医学入門』 日本評論社
マリリボン・クライシス・リスナー研修資料
岡堂哲雄『家族心理学講義』 金子書房
シャーマン・R.フレッドマン著/岡堂哲雄ほか訳『家族療法技法ハンドブック』 星和書店
緒方明著『アダルトチルドレンと共依存』 誠信書房
クラウディア・ブラック著/齋藤 学訳『私は親のようにならない』 誠心書房
第2章 母親面談
岡本祐子+松下美知子編『新 女性のためのライフサイクル心理学』 福村出版
岡本祐子編『女性の生涯発達とアイデンティティ』 北大路書房
ジェーン・スウィガート著/齋藤 学監訳『バッド・マザーの神話』 誠信書房
氏家達夫著『親になるプロセス』 金子書房
マークス寿子『とんでもない母親と情けない男の国日本』 草思社
山添 正著『しつけのみなおし おとなのたてなおし』 ブレーン出版
ドロシー・ロー・ノルトほか著『子どもが育つ魔法の言葉』 PHP出版
松尾恒子著『母子関係の臨床心理』 日本評論社
メアリー・ヴァレンティス+アン・ディヴェイン著/和波雅子訳『女性・怒りが開く未来』 現代書館
第3章 父親面談
毛利子来著『父親だからできること』 ダイヤモンド社
正高信男著『父親力』 中央公論新社
関谷 透著『お父さんの心がわかる本』 独楽書房
東京都福祉局『父親ハンドブック』
土居健郎著『甘えの構造』 弘文堂
『子どものしつけを考える』 財団法人公共政策調査会
第4章 両親面談
木下敏子著「家族療法の考え方と実際」(『看護学雑誌』 1989年 医学書院)
木下敏子著「小児のチック症」(日野原重明+阿部正和監修『今日の治療指針1993年版』 医学書院)
木下敏子著「家族療法とストレス・家族療法」(『こころの科学』26号 日本評論社)
遊佐安一郎著『家族療法入門』 星和書店
R.フィッシュほか著『変化の技法』 金剛出版
長谷川啓三著『家族内パラドクス』 彩古書房
リン・ホフマン著『システムと進化』 朝日出版社
木下敏子著「子どもの病気と家族」(『子どもの心とからだ』第8巻1号1999年日本小児心身医学会)
鈴木浩二監修/中村はるみ+光元和憲+生島 浩編『家族に学ぶ家族療法』 金剛出版
第5章 祖父母面談
藤田綾子著『高齢者と適応』 ナカニシヤ出版
鈴村健治著『老人との上手なつきあい方』 ブレーン出版
杉原一昭著『事例でみる発達と臨床』 北大路書房
岩崎久美子+中野洋恵編著『私らしい生きかたを求めて』 玉川大学出版部
岡本祐子著『中年からのアイデンティティ発達の心理学』 ナカニシヤ出版
第6章 面談の実際
三木善彦+黒木賢一編著『カウンセラーの仕事』 朱鷺書房
成山文夫+石川道夫編著『家族・育み・ケアリング』 北樹出版
岡堂哲雄編「家族心理学入門』 倍風館
富田富士也著『家族相談室』 毎日新聞社
家庭生活研究会カウンセリンググループ著『かわいいココロの育て方』 婦人生活社
トマス・ゴードン著/近藤千恵監訳『医療・福祉のための人間関係論』 丸善株式会社
ぺーター・シェレンバウム著/林道義+島田洋子訳『愛する人にノーをいう』 あむすく 木田恵子著『贈るこころ(精神分析臨床メモ)』 太陽出版
ガイ・J.マナスターほか著/高尾利数ほか訳『現代アドラー心理学<上・下>』 春秋社 E.B.スピリウス編/松木邦裕訳『メラニー・クライントゥデイ(2)』 岩崎学術出版
前田節子(英国クライシスリスナー)
松本良子(日本モンテッソーリー協会事務局長 幼児教育研究家)
池田秀子(児童相談所 母子関係専門家)
関 輝夫(日本心理カウンセリングセンター所長 臨床心理士)
木下敏子(高柳病院院長 医師 臨床心理士)
別府明子(明治学院大学付属中・高等学校スクールカウンセラー)
阿部美代(社団法人家庭生活研究会 家庭裁判所調停員・カウンセラー)
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