理事長あいさつ
上級進級おめでとうございます。初級・中級の講座を修了し、いよいよ最終学年になりました。上級を修了して試験に合格すると皆さんは認定され、「子育てアドバイザー」として独り立ちしていくわけです。
ところで、今なぜ「子育てアドバイザー」が求められているのでしょうか?
今まで育児は親から子へと自然に受け継がれていくものでした。しかし、最近になってその機会が激減し、状況に合ったアドバイスをしてくれる親と一緒に育児をするという環境がほとんどなくなってしまったのです。生まれたばかりの赤ちゃんを前にして途方に暮れたり、赤ちゃんの成長につれてわからないことが増えてきて困っていたり・・・という親が急増しています。そして、困り果てた親が、赤ちゃんを虐待してしまうことさえあるのです。また、適切に養育されなかった子どもたちの中にはいじめっ子になったり、非行に走ったりする子も多いのです。
今や健全な育児をするために、そして良い子・良い親・良い社会を作るために、「子育てアドバイザー」はなくてはならない存在です。ですから皆さんは最終学級をしっかり学んで、社会の役に立つ「子育てアドバイザー」になってください。
では、社会に役立つ「子育てアドバイザー」になるにはどうすればよいのでしょうか? まずは失敗を恐れないことです。特にトレーニング中はたくさん失敗して、そこから多くのことを学んでください。次に、わからないことは先輩や講師に聞き、1人で悩まないことです。3番目には、自分を褒めることです。「ときには失敗もするけれど、人のために一生懸命に働こうとしている素晴らしい人だ」と、自分で自分を褒めてあげましょう。自分に自信がつくと、人からの忠告を素直に聴けるようになります。
最も重要なことは、すべての人に優しくできる大きな愛を心の中に育てることです。ぜひ大きな愛を心の中に育て、素晴らしい「子育てアドバイザー」になってください。
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特定非営利活動法人
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日本子育てアドバイザー協会 |
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理事長 木下敏子
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上級講座での学びの主題は「家族」である。
ここでは初級、中級で学んできたものを活かし、「子育てアドバイザー」として子育ての悩みを抱えた母親に耳を傾け、その心を無条件に受け止めて共感し、日常の子育ての大変さを励ますことが親にとってどんなに大切であるかということをさらに実習・演習を通して体得していく。
多くの母親の悩みや不安はどこから来るのだろうか? 子どもの問題だけが相談の本質なのか?・・・家族心理を学ぶ上で最も重要なことは、子育てを囲む環境を十分に把握することである。
「家族の誕生とは男女の結婚から始まる」といわれている。しかし、昨今の家族は様々な形態をしている。実質的には結婚しているものの戸籍を入れていない家族、未婚の母、母子家庭、父子家庭、国際結婚、同性愛家族、離婚者同士の家族・・・家族形態の複雑化にともない、相談内容もますます多様化していくことが予想される。また、親自身も成人として人間的には成熟しているものの、「親になる」という役割を認識しないまま親になってしまうことがある。さらに、「できちゃった結婚」といわれるような動機で結婚に踏み切る人たちの数も大幅に増加している。
そのため本講座では、日々の子育てが「親と子の最も重要な人間形成のスタート」であるということを親に伝え、サポートする術を学ぶことをテーマとしている。受講生の方々には、「子育てアドバイザー」という新しい時代に即した役割を果たすために、ときとして理解しがたい現実をも受け入れる広い知識と深い洞察力を持ち、人の心を敏感にとらえられるような人を養成することが望まれる。
すでに初級講座において、わたしたちは子どもの心身の正常な成長と発達、障害や発達変異を見分けることを学んでいる。また子育てアドバイザーは自分自身の適性を知る必要があることから「自分を知る作業」の演習もした。そして中級講座では時代とともに変化し、多様化するライフスタイルの中の「母親の心理」を理解することを課題とした。今求められているのは、母親の様々な生き方や考え方を知ることである。
昨今、働く母親は増加の一途をたどっている。彼女たちは子育てより自分自身のキャリアを重視し、「わたしの人生はこのままでいいのだろうか?」と常に自己のアイデンティティーを模索している。母親だけの役割にとらわれるのではなく、多方面とのかかわりを求めている現代の母親像の出現である。社会状況と心理状態の両面でとらえてみても、一世代前の母親に比べて、主体的に人生を選び取り、自己実現の機会を増やし広げている。そのため、子育てアドバイザーにとってはより幅広い意味での「親」を理解することが重要なポイントとなる。
上級講座における大きな目標の1つに、父親と祖父母の存在を入れて「家族」という枠を広げ、家族問題についてのワークショップを介した面談を疑似体験し、面談技法を習得することが挙げられる。家族というシステムの中、1対1の面談の仕方と、複数あるいはグループによる面談の仕方を体現するのである。講師の手本を観察し、それを自分のものとして再現することは容易なことではないが、練習を重ねるごとに培われていくものがあるはずである。また、他の受講生のデモンストレーションを観察して大いに参考とし、研さんしてほしい。
「家族の心理」の領域を学ぶためには、本講座では補いきれないものがある。そのため、この講座が受講生にとってさらに心理を探求する動機づけになり、この分野に関する理論や研究書をもとにした学びの枠を広げることを望んでいる(家族心理学、臨床心理学、健康心理学、精神医学、行動科学、発達心理学、生涯発達学、家庭教育学、教育心理学、集団力学、社会心理学、家族社会学、ソーシャル・ワークなど)。
家族心理学の周辺理論には主要な2つの課題がある。
第1は、子どもの問題行動や心の状態、その母・父の心の葛藤、老親との不仲といった問題を持つ家族に対する心理や社会的援助法「家族療法またはファミリーカウンセリング」の理論と臨床に関する研究である。第2の課題は、家族の健全な発達を促進する心理と教育的な方法「家族教育」の理論と臨床に関する研究である。
しかし、わたしたちが学ぶ「家族」とは、旧来の家庭教育学のように「家族はこうあるべき」と型にはめる方法を論じるものではない。最近多く見られるガラス細工のような繊細な家庭を崩壊から守り、それぞれの親子関係や夫婦関係などの家庭機能を順調に維持していけるように、様々な「家庭」のあり方に対応できる新しい「家庭教育」を提唱し、支える人になるのである。
そのため上級講座では、「なぜ母親は悩むのか?」「そこに父親の姿が見えないのはなぜか?」「なぜ欧米に比べて日本は子育てがしづらいのか?」・・・といった疑問を解決するために受講生1人ひとりが問題提起をし、ディスカッションの時間を多く共有する。
上級講座修了後、認定テストを受けて合格した認定アドバイザーには広範囲の活動が考えられる。現代の核家族化の進行や都市生活者にとっての地縁の薄れなどを背景に、親たちは子育ての悩みは解消されないまま、ますます孤立している。悲惨な事故に至る前に、そのような家族に手をさしのべる意識と、SOSサインを読み取る目を養うことが特に大切である。
また、子育てアドバイザーとして活動していく上で専門家との連携を考えておく必要もある。地域の小児科や産婦人科、保健所、市区町村役所の保育課、民生委員、児童相談所、学校、教育委員会、保育所、子育てサポートセンター、子育てサロンなどが身近であり、かつ子育てアドバイザー自身を支えてくれる場でもある。
「子育ては社会全体で」というキーワードのもと、次代を担う子どものために健全な子育てができるよう、母親を支える社会システムが必要である。そしてわたしたちは、それよりもっと身近な子育ての知恵と英知の伝承をしていく人を多く社会に輩出していくことが急務であり使命と考えている。
子育てアドバイザーが新しい形の「こころの専門家」になって、安心して子どもを生み育てられる「より良い子育て環境」をつくることを願っている。守るべき価値観とともに変えなければならない価値観を持ち、より良い社会の実現のために貢献できる人になってほしいと切に願うものである。
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特定非営利活動法人 |
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日本子育てアドバイザー協会
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副理事長 小谷野公代
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