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1998/05/27 産経新聞朝刊
【主張】林被告無期判決 理解したい地裁の「判断」
 
 東京・地下鉄サリン事件の実行行為者としては初めての判決が出た。殺人など六つの罪に問われていたオウム真理教元幹部、林郁夫被告に東京地裁は求刑通り無期懲役を言い渡した。
 人の命を救うのが使命の医師でありながら、満員の地下鉄で猛毒のサリンをまくという世界でも例のない無差別テロを行った林被告の罪状は、いかなる状況下でも憎んであまりある犯行であることはいうまでもない。
 厳然と死刑制度が存在するわが国では、従来の基準に照らせば犯行の態様、残虐性、結果の重大性、被害者の感情などから、死刑以外にはあり得ない犯罪である。おそらく被害者、遺族の中には無期判決に割り切れない感情を抱く人がいても無理はないだろうし、われわれも常識的にはそう考える。
 だがこうしたさまざまな背景を踏まえたうえで、あえてわれわれは死刑の求刑を躊躇(ちゅうちょ)した検察側の論告と同じ趣旨で無期判決を下した裁判所の判断を理解したい。その最大の理由は検察、裁判所が示した論拠と同じく、林被告がサリン事件以外の容疑で逮捕されてまもなく、積極的に「地下鉄サリン事件は、当時オウム真理教代表だった麻原彰晃被告=本名・松本智津夫=の指示で行った」と詳細に自供したことで事件の大筋が解明されたばかりか、麻原被告の逮捕につながり、オウムによる被害がより拡大することを防いだことである。
 次に忘れてならないのは、「量刑の公平性の確保」である。松本サリンや坂本弁護士一家惨殺事件など一連のオウムによる犯罪のすべては麻原被告が計画し、卑劣にも自らは手を下さずに指示したことが、林被告はもちろん他の元オウム幹部の公判でも明らかになっている。麻原被告が有罪となれば死刑は免れないが、“宗教上”の地位の上下関係から指示を断れなかったうえ、前述したような事情のある林被告が同じ死刑判決というのはおかしい。
 だが、現実には死刑より重い刑は存在しない。「生きていてはいけない人間だ」と自ら深く反省している林被告と、無罪を主張しながら(主張することは被告の正当な権利だが)国選弁護団との接見も拒否し、弁護団が勝手に行う弁護活動を横目に法廷で居眠りするなど、裁判に真摯(しんし)に向き合わない麻原被告を同列におくのはとうてい納得できることではない。
 林被告には無期懲役が確定したならば、現在の反省の心を忘れず、麻原被告のような人物がなぜ多くの若い人たちを引き付けたのか、自己分析のうえ、その誤りを世間に伝えるようなメッセージを出すことを望みたい。
 
 
 
 
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