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1994/08/10 産経新聞朝刊
【主張1】理解できる「少年に死刑」
 
 千葉県で一昨年、会社役員一家四人を殺害し、現金などを強奪したとして強盗殺人罪などに問われていた元店員の被告に、千葉地裁が死刑の判決を言い渡したことが論議をよんでいる。
 批判側の論点は二つにしぼれる。この被告が事件当時十九歳の少年だったことから死刑は不適、無期懲役にすべきだったという主張と、世界的に死刑を廃止する国がふえ、国内でも世論が高まっているなかでの死刑判決は時流に逆行するというものだ。
 前者についていえば、少年法で死刑を禁じているのは十八歳未満であり、この被告には適応しない。弁護側は、被告の育った環境から、十八歳未満と同じような扱いにすべきだと主張したが、裁判長はその見方は退けた。わたしたちも、「人間のすることとは思えない冷酷非道な犯行で、極刑をもって臨まざるを得ない」という裁判長の判断を支持する。
 罪名はほかに強盗婦女暴行、殺人、恐喝など七つに及んでおり、犯行までの経過も計画的かつ執拗で、弁護側がいうように心神耗弱状態での発作的犯行とは認められないからだ。
 むしろ対象を二十歳未満としている少年法が時代にあっているかに疑問がある。犯罪白書によると、少年犯罪は年々へっているものの、依然として全刑法犯の約半数は少年によって占められている。国際的にも十八歳未満を未成年とするほうが主流で、日本も年少者の自立をうながす意味で、少年法の適用年齢引き下げを真剣に検討すべきではないか。
 死刑廃止の世界的風潮に逆行する判決という批判も手放しでは受け入れられない。死刑制度の賛否には国の歴史、宗教、文化などさまざまな側面があり、単一の価値観では論じられない。被害者感情、国民世論も重視すべきだ。その意味で、過去何度かの世論調査でつねに、死刑制度容認の意見が多かった事実は厳然としている。
 さらにいえば、今回のような反社会的、非人間的な犯罪でも、事実上の有期刑である無期懲役でよいという“犯罪者にやさしい”主張が果たして国民的同意を得られるだろうか。死刑廃止論の論拠の一つであるえん罪の危険性も、今回の事件については物証、自供ともそろっており、説得力はない。
 少年法の見直しも、死刑廃止の是非も、今回のように身近に実例があるときのほうが国民の“本音”がよくわかる。法の制定や運用は、声の大小ではなく、国民の合意にもっとも沿った線で決めるのがのぞましい。
 
 
 
 
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