1993/11/27 産経新聞夕刊
東京と大阪で3人の死刑を執行 今年6人 細川政権下では初
大阪拘置所(大阪市都島区)で死刑囚二人の死刑が執行されていたことが二十七日、分かった。また、東京拘置所(東京都葛飾区)でも一人が執行されたとみられ、いずれも二十六日に行われたもよう。
死刑は後藤田正晴法相時代の今年三月二十六日に、三年四カ月ぶりに大阪拘置所と仙台拘置支所で三人が執行されて以来で、今年に入って計六人になる。八月に発足した細川連立政権下では初めて。
法務当局はコメントを一切拒否しているが、執行の流れに拍車がかかったといえそうで、是非の論議がさらに高まりそうだ。
大阪拘置所の二人は、昭和四十九年に大阪市淀川区の会社の上司ら二人を殺害したとして、殺人罪などに問われ、最高裁で死刑が確定してから九年七カ月ぶりの執行。
両死刑囚は五十三年二月、大阪地裁で死刑判決を受け、大阪高裁で控訴棄却後、五十九年四月に最高裁で上告棄却となり、死刑が確定した。
一方、死刑廃止を求める市民グループによると、東京での執行は「五十二年に都内の資産家老女を殺害し、強盗殺人罪などに問われた死刑囚とみられる」としている。同死刑囚は、五十七年に上告せず、刑が確定していた。
刑事訴訟法では、死刑は確定から六カ月以内に法務大臣が命令を出し、五日以内に執行されることになっている。
死刑廃止をめぐっては、今年三月の執行をきっかけに反対の動きが活発になっていたが、今回執行命令を出した三ケ月章法相は就任会見で「裁判所が三審までやったのを、執行しないのは、刑事訴訟法に反する」と述べていた。
この日午前会見したアムネスティ・インターナショナル日本支部や市民グループは、抗議声明を発表。国際的な基準に逆らうことや死刑囚の一人が七十歳と高齢だった−などと指摘。「法務当局が将来にわたって、死刑制度を維持するという意図の現れ」と危ぐを表明した。
植松正・一橋大名誉教授(刑法)の話 「死刑制度がある以上、当然執行すべきだ。過去の多くの法務大臣にはちゅうちょがあって執行が遅れがちになり、今回も判決確定から約九年を経ているが、法律の示す期限から遅れて執行するのは好ましくない。制度の存廃は国民の選択にゆだねるべきものだが、各種の世論調査を見ると、国民の多数は今でも死刑存続を支持していると思う」
作家、佐木隆三さんの話 「三ケ月法相が就任した際、前任の後藤田氏と同じような発言をしていたが、こんなに早く執行されるとは思わなかった。日本は新聞の世論調査でも分かるように国民の多数が死刑存続を望んでいるのも事実だが、世論に迎合することだけが政治家のすることなのだろうか。フランスでは世論が死刑存続であっても政治家の判断で廃止にした。旧ソ連も同様に死刑を廃止している。私も死刑はなくした方がいいと思うが、ただなくすというのではなく、代わりに無期懲役の仮釈放をもっと厳格にするなど、国民的合意が得やすい方法も考えるべきだろう」
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