2004/09/14 毎日新聞夕刊
[解説]大阪・池田小乱入殺傷 制度存続へ強い姿勢−−宅間死刑囚執行
法務・検察当局が14日、宅間守死刑囚の死刑執行に踏み切った。死刑は、判決確定から7、8年を経過してから執行されるのが数年前までの通例だったが、ここ1、2年はこの原則が崩れつつある。それでも、死刑確定からわずか1年の執行は極めて異例だ。児童らが犠牲になり、被害者感情がクローズアップされる中、死刑制度存続への法務・検察当局の強い姿勢を示したものといえる。
死刑は戦後、一部の例外を除いて毎年執行されたが、死刑廃止国が多数を占める欧州などの流れを受け、90年から3年間執行がなかった。このため、日本でも執行の停止も含めた議論が期待された。しかし、93年に執行が再開され、十分な議論がないまま、その後は毎年、国会閉会中などを中心に執行が続いている。
「死刑廃止を推進する議員連盟」(亀井静香会長)は昨年来、「死刑臨時調査会」を国会に設置する法案の提出準備を進めている。だが、自民党、民主党などの党内での意見が合わず、提出の見通しが立っていない。
死刑の執行をめぐっては、再審請求をしていたり、強力な支援組織がある者については執行が避けられ、既に弁護人がいない死刑囚などに執行が偏っているとの指摘が、市民グループから出ている。
法務・検察幹部の一人は、宅間死刑囚の執行について「悪質性や、被害者・遺族感情が考慮された」と語る。また、別の幹部は「最近は、刑が確定した段階で、執行を早くする流れになっている。宅間死刑囚については、再審請求が出ておらず、証拠がしっかりしているのが考慮されたのでは」と話した。
しかし法務・検察当局が死刑執行の順番をどう決めているかなど、具体的な内容を隠す体質は変わっていない。死刑制度そのものの是非も含めて、国会などで議論されることが求められる。
【伊藤正志】
◇「あまりに性急」執行に抗議声明−−アムネスティ・日本
死刑制度の廃止を訴えているアムネスティ・インターナショナル日本は14日、死刑執行への抗議声明を出した。宅間死刑囚の執行に関しては「現在もまだ事件の全容が十分明らかになっているとはいえず、真相を闇に葬るものだ。確定後約1年での執行は、死刑について十分な検討がされたとはいえず、あまりに性急だ」と批判している。
◇異例に早い執行−−板倉宏・日大教授(刑法)の話
本人が再審の申し立てをせず、死刑を望んでいたということはあるが、異例に早い執行だ。これまでは死刑確定後、執行は10年ぐらいたってからだったが、刑事訴訟法では本来、「判決確定の日から6カ月以内」の執行を定めている。法の趣旨からすれば、執行を延ばすのはおかしいという考えもある。今後、特段の事情がない場合、時間をかけずに執行するケースも出てくるのではないか。
■最近の死刑執行■(呼称略)
死刑囚(事件) |
執行の年・月 |
判決確定の年・月 |
当時の法相 |
永山則夫(連続射殺) |
97・8 |
90・5 |
松浦功 |
神田英樹(父ら3人殺害) |
〃 |
89・11 |
〃 |
日高安政・信子(保険金放火) |
〃 |
88・10 |
〃 |
村竹正博(3人殺害) |
98・6 |
90・4 |
下稲葉耕吉 |
武安幸久(強盗殺人) |
〃 |
90・12 |
〃 |
島津新治(パチンコ景品商殺害) |
〃 |
91・2 |
〃 |
井田正道(保険金殺人) |
98・11 |
87・4 |
中村正三郎 |
西尾立昭(土木会社役員殺害) |
〃 |
89・3 |
〃 |
津田暎(幼児誘拐殺人) |
〃 |
91・6 |
〃 |
佐藤真志(幼女殺害) |
99・9 |
92・2 |
陣内孝雄 |
高田勝利(飲食店経営者殺害) |
〃 |
92・7 |
〃 |
森川哲行(3人殺害) |
〃 |
92・9 |
〃 |
小野照男(女性強盗殺人) |
99・12 |
81・6 |
臼井日出男 |
佐川和男(母子殺害) |
〃 |
91・11 |
〃 |
藤原清孝(連続強盗殺人) |
00・11 |
94・1 |
保岡興治 |
宮脇喬(一家3人刺殺) |
〃 |
94・3 |
〃 |
大石国勝(親子3人殺害) |
〃 |
95・4 |
〃 |
長谷川敏彦(保険金殺人) |
01・12 |
93・9 |
森山真弓 |
朝倉幸治郎(一家5人殺害) |
〃 |
96・11 |
〃 |
浜田美輝(一家3人殺害) |
02・9 |
98・6 |
〃 |
春田竜也(大学生誘拐殺人) |
〃 |
98・4 |
〃 |
向井伸二(母子ら3人殺害) |
03・9 |
96・12 |
〃 |
宅間守(小学生8人殺害) |
04・9 |
03・9 |
野沢太三 |
嶋崎末男(組員3人殺害) |
〃 |
99・3 |
〃 |
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