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2002/04/08 毎日新聞朝刊
死刑廃止法案、年内にも提出準備−−死刑廃止を推進する議員連盟「終身刑導入を」
 
 超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長・亀井静香衆院議員、111人)が、「日本版終身刑」の導入を柱とした死刑廃止法案を、年内にも国会提出する準備を進めている。国際的な死刑廃止圧力を受けての運動活発化だ。法案が提出されれば、56年に参院に死刑廃止法案が提出(58年に審議未了で廃案)されて以来の「問題提起」となる。
【伊藤正志】
 議連が検討しているのは、死刑を廃止して、仮出獄を認めない「重無期」刑を創設する刑法改正案だ。現刑法は、無期懲役の受刑者が10年を経過すれば仮出獄を認めており、平均服役期間は20〜21年。「無期といっても事実上の有期刑」との批判は強く、その現状を変えるのが狙いだ。
 文字通りの終身刑について政府は「受刑者の人格が完全に破壊されるなど死刑よりも残虐との意見もある」と、導入に慎重だ。このため、議連は「重無期」刑導入と並行して恩赦を整備し、例えば20年を経過した時点で減刑を認める制度を検討している。その場合、20年で「重無期」から通常の「無期懲役」に減刑され、さらに10年たてば仮出獄が認められ、受刑者に社会復帰の可能性を残せることになる。一方、副会長の浜四津敏子参院議員(公明)は、死刑を存置したうえで、無期懲役刑より仮出獄の条件が厳しい「特別無期」刑を提案。仮出獄までの期間は、20〜30年を考えているという。
 「重無期」も「特別無期」も、仮出獄までの服役期間を現在の無期懲役より長くすることを意図している点で共通する。
 動きの背景には、国際社会の圧力がある。ヨーロッパ各国が加盟し、人権問題で主導的な役割を果たす国際機関「欧州評議会」は昨年6月、オブザーバー参加の米・日両国に死刑執行のモラトリアム(猶予)実施と、死刑廃止に向けた措置を求め、02年中に進展がなければオブザーバー資格はく奪を検討すると決議した。
 「死刑制度を存置しているのは、ほとんどが独裁国家で、民主主義国は米国、日本などわずかです。死刑は執行したら取り返しがつかない。まず猶予することを提言します」。1月に来日した欧州評議会議員のエンマ・ボニーノさん(元イタリア下院議員)は、議連メンバーらに連帯を訴えた。
 法務省によると、99年末で死刑廃止国は113カ国で、存置している70カ国を上回り、国際社会の視線は厳しくなっている。5月には同評議会メンバー約20人が来日し、議連主催のセミナーに参加する予定だ。
◇「冤罪の危険常に」−−亀井静香会長
 警察庁調査官などの経歴も持つ亀井会長に聞いた。
 ――なぜ死刑廃止を?
 人間の命を大切にしない国は健全ではない。たとえ凶悪犯でも無抵抗な状況で国が殺すのは認められない。今の日本の自白偏重の刑事司法制度の下では、冤罪(えんざい)の危険性が常に残る。警察官僚をしていた当時の経験でも、容疑者が取調官に迎合するため、間違った捜査指揮をやりかけたことが度々あった。(冤罪は)何万分の1の可能性でも、本人にとっては100分の100なんだ。
 ――極刑を望む被害者感情は大きい。世論調査でも死刑を支持する声が高いが・・・・・・。
 「目には目を」の報復感情を優先させたら、どうなるか。パレスチナ問題を見たら分かるでしょ。被害者感情を満足させるためだけに刑罰権を行使したら社会がもたない。ゆるすことがなければ殺伐とした国家になってしまう。
 ――犯罪の抑止力になるとの考え方もあるが。
 死刑を廃止した欧州で犯罪が増えているのか。警察時代、極左事件も手掛けたが、彼らは死刑があるから犯罪をしないわけではない。社会防衛上の必要があるとの論は説得力がない。
 ――今後の活動は。
 一挙に死刑を廃止することは難しい。前段階として終身刑を入れたい。今、検討しているのもその方向だ。法案を出せばいいという問題ではない。もっと国会議員の仲間を増やして理解を増やさないと。個々の議員の意識を変えてもらうように働きかけていく。
◇死刑廃止を推進する議員連盟
 90年から92年にかけて実施されなかった死刑が93年に執行されたのを受けて94年4月に発足し、衆参両院議員からなるメンバーは最大197人にまで増えた。地下鉄サリンなど凶悪事件の続発で活動は低迷していたが、亀井静香衆院議員の会長就任(昨年11月)以降、法案提出に向けての動きに加速がついた。党派別構成は自民24人▽公明15人▽民主44人▽社民17人▽共産6人▽自由2人▽無所属3人。
 
 
 
 
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