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1994/07/14 読売新聞朝刊
水不足には自衛を ダム建設は限界 生活の知恵必要(解説)
 
 例年になく早い梅雨明けなどで今夏は全国的に深刻な水不足になりそうだ。すでに給水制限が実施された地方もあり、首都圏では十三日、四年ぶりに一都五県が渇水対策連絡協議会を開いた。
(編集委員 初田正俊)
 この夏、近年にない水不足が心配される最大の理由は、梅雨期間が短いことと、降雨量が極端に少ないことだ。気象庁によると関東・甲信地方の今年の梅雨期間は三十三日間で、最近十年ではもっとも短い。
 全国でみても梅雨明けが平年に比べ五日から十七日も早いという。
 その間の総雨量も東京で一四五・五ミリと平年の五四%しかなかったのを始め、福岡(平年比三三%)、広島(同二六%)など西日本はさらに少なかった。
 日本列島は毎年、梅雨末期に太平洋からの湿った空気が前線を刺激、豪雨をもたらし各地の水ガメを潤してきたが、今年は小雨のまま梅雨が明けてしまった。七月から八月にかけ大量の雨を伴う台風でもない限り、夏の水需要に追いつきそうもない。
 現在、一番深刻なのは四国の高松市で、十一日から夜間断水が始まり、十四日からは給水時間を朝晩の計九時間にする。香川県内の水不足は“高松砂漠”といわれた昭和四十八年を上回る勢いで、潅漑(かんがい)用水や水洗トイレの水を確保するために井戸掘りの注文が殺到し、業者は注文に応じ切れないという。
 しかし、なんといっても一番心配なのは全人口の三割が集中する首都圏。首都圏では四年前の平成二年八月に東京都内で一〇%の給水制限を実施するなどこれまでにも何回か水不足の危機に遭遇したが、長期の断水など都市活動がマヒするほどの被害は三十年前の昭和三十九年夏以来経験がない。
 首都圏には夏季の貯水量(利水容量)が利根川上流八つのダムで合計、三億四千三百四十九万トンあるが、今年のようにカラ梅雨で補給がないと、たちまち水量が減ってしまう。十三日現在、八ダムの貯水量は二億千五百十四万トンと貯水率六三%まで減っている。とくに最大の貯水容量を持つ矢木沢ダムは貯水率が三三%まで落ち込み、このまま放流を続けると、あと十日でカラになってしまう。
 首都圏の水事情が極めて不安定な状態にありながら三十年の間決定的なダメージを受けなかったのは、最悪の事態になる寸前に大雨や台風があって救われたためだ。今回も同じようにいく保証はない。
 これまで水不足はほとんど、七月下旬から八月にかけて発生しており、今年のように半月も早く取水制限が検討されることは、首都圏では例がないだけに事態は深刻といえる。今夏は梅雨明け前後に局地的な豪雨が各地で発生しているが、大雨が降るのは大半が河川の下流部で、ダムのある上流部には降らなかった。
 今の日本にはもはや大規模なダムが造れる適地は残されていない。あっても環境保護の関係で極めて造りにくい。従って本格的な水不足になった場合に住民の自衛策が必要になる。
 とくに大都市での断水は都市生活のマヒにつながる。それを少しでも防ぐには、天水桶(おけ)を利用した身近な雨水の利用なども考えるべきではないだろうか。雨水再利用を推進している東京・墨田区は、来月一日から雨水利用の国際会議を開く。水不足に備え、住民が生活の知恵を出し合う時だ。
《全国主要ダムの貯水状況》
(7月13日現在、単位・千トン)水資源公団調べ
水系 ダム名 利水容量 当日貯水量 貯水率
[利根川] 矢木沢 115,500 38,494 0.33
奈良俣 72,000 53,410 0.74
藤原 他2 28,290 21,334 0.75
下久保 85,000 69,674 0.82
草木 30,500 20,582 0.67
渡良瀬 12,200 11,649 0.95
8ダム 合計 343,490 215,143 0.63
[多摩川] 小河内 他2 219,754 167,102 0.76
[木曽川] 岩屋 61,900 6,966 0.11
阿木川 28,000 14,851 0.53
牧尾 68,000 6,702 0.10
[豊川] 宇連 28,420 12,217 0.43
[淀川] 高山 13,800 11,436 0.83
青蓮寺 15,400 14,286 0.93
室生 8,150 3,496 0.43
布目 10,000 8,280 0.83
一庫 13,300 12,080 0.91
[吉野川] 早明浦 173,000 35,090 0.20
新宮 6,700 1,590 0.24
池田 800 800 1.00
[筑後川] 江川 24,000 11,860 0.49
寺内 9,000 3,130 0.35
 
 
 
 
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