日本財団 図書館


1987/06/19 読売新聞朝刊
首都圏「水ガメ」ピンチ 水備蓄ダムの現実を(解説)
 
 利根川水系の異常渇水のため、東京都など一都四県で一〇%の取水制限が始まった。周期的な水不足に泣かされない手だては、ないのだろうか。
(解説部 小林 篤市)
 利根川上流六ダムは、東京の水道の七割以上をまかなう関東最大の「水ガメ」だが、十八日現在の貯水量は、満水時の三三%。埼玉県の大宮市など三市が給水制限を開始したのに続き、東京都も渇水対策本部を設置し、きょう十九日に一〇%前後の給水制限の実施を決める。
 水不足の原因は、上越国境の水源地の積雪量が少なかったことに加え、四月以降の降雨量が平年の二〇%というカラカラ天気が続いたためで、建設省、国土庁では「今月末には、六ダムの貯水量が底をつく可能性がある」と警告している。
 首都圏はこの夏、深刻な水不足に悩まされそうだが、四、五年おきに襲来する水ききん対策について、建設省では「ダム建設が水源確保の最大の決め手」という。
 しかし、利根川水系の水資源開発は、すでに限界に近い。例えば、首都圏最後の水ガメともいわれる群馬県の八ッ場ダム(有効貯水量九千万トン)は、水没予定地区住民の三十年来の反対闘争で、ようやく着工のメドがついたばかり。川原湯温泉や約三百二十戸が吾妻渓谷の湖底に沈む“犠牲”を思えば、スピードアップなど望むべくもない。
 大規模ダム以外の水不足対策としては、節水型都市づくりや水源かん養林造成、水のリサイクル(再生利用)などがかねてより提唱され、一部は実行に移されているが、このほかにも有効な手だてはある。それは渇水対策用の「水備蓄ダム」(経年貯留ダム)である。
 豊水年に水をため、ふだんは使わず、水ききんの時にだけ導水路などで放水するダムである。石油備蓄基地があるのなら、水備蓄ダムがあってもおかしくはない。
 建設省、国土庁も当然、これには着目し、群馬県の戸倉ダムと茨城県の稲戸井調節池で調査を進めている。いずれも建設の際に、一、二割の渇水対策容量(経年貯水量)を加味しようというだけのものだが、実現のメドはまだ立っていない。
 利根川上流六ダムの十八日現在の総貯水量は約一億一千四百万トンだが、二、三千万トン級の水備蓄ダムが何か所かあれば、異常渇水時でも二、三週間は首都圏の水需要をまかなえるだろうし、大規模な「ため池」ならば地形地質上の難点も少ない。
 渇水時だけ利用するダムというのは新しい発想のためか、大蔵省の予算査定は渋い。古来、わが国は多量の雨に恵まれ、「欧米や中東に比べ、水はタダ同然という意識もカベになっている」(国土庁幹部)という。
 しかし、節水を呼びかけるその場しのぎの対策や、「雨頼み行政」では、あまりに将来への展望がない。国の財政事情や、受益自治体の費用分担などの問題もあるだろうが、この際、水ききん対策の決め手として「水備蓄ダム」の本格的検討や推進を提案したい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION