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2002/07/29 毎日新聞朝刊
ダム建設事業 全国78事業で方向性−−やるもやめるも1300億円
◇結論まで調査費など、税金多額に
 長野県の田中康夫前知事と同県議会との攻防をめぐって注目を集めたダム。全国では78のダムが中止・休止、またはその方向性が出ているが、結論に至るまでに調査費などで多額の税金が投入されている実態がある。一方、計画が持ち上がったダムでは数十年にわたる反対運動が起きた例もいくつかある。公共事業の象徴であるダム建設は始めるにも、やめるにも、大きなエネルギーが費やされている。
【冨所卓也、若井耕司】
 中止・休止が決定、またはその方向性が出た全国のダム78事業で、中止・休止までに使われた費用は1300億円を超えることが、毎日新聞の調べで分かった。必要のないダムを造らないで済んだことになる一方で、結果的に多額の税金が無駄になったという見方もできる。建設を信じていた地元から反発の声が上がっている例もあった。
 公共事業の中止勧告を行った00年の与党3党見直しの対象になったり、98年に導入された公共事業再評価制度で「中止」と提言されたものがほとんど。理由は(1)建設に不適切な土地だった(2)人口の増加が予想を下回るなど水需要がない(3)河川改修の方が治水費用が安い――などが中心だ。
 中止・休止までに使われた費用は道県の61事業で約506億円、国直轄と水資源開発公団の15事業で約867億円だった。測量や地質などの調査費がほとんどを占める。本体工事に着手したダムはないが、約213億円を投じた国直轄の矢作川河口堰(ぜき)は周辺道路の整備や河川堤防強化などを行ったため、額が大きくなった。
 長野県の田中前知事が「脱ダム宣言」で中止を表明した浅川、下諏訪両ダムは、結論が出ていないため78事業に含めなかった。
 中止が決まったにもかかわらず、なお建設を求める声が上がっている例もある。群馬県甘楽町の雄川ダムの中止は昨年9月に同県議会で明らかになった。町にとって突然の知らせだったため、同11月に町議会がダム中止に反対する意見書を採択。今年2月には黒沢常五郎町長も県に「水道用水が不足する可能性があり、町民生活に支障をきたす」と事業継続を求めている。
 また、計画があったために、道路整備など建設予定地周辺の公共投資が大幅に遅れる例もある。千葉県君津市の追原ダムは00年に中止が決定した。住民の移転こそなかったが、建設を信じていた地元住民からは「ダム計画に振り回された」などと反発の声が上がった。茨城県美和、緒川両村の緒川ダムでも地権者らから同様の反発が起きた。そのため、同県は01年度から10年間かけて、県営住宅や集会施設、道路などを建設する中止関連事業を実施している。
 「公共事業チェック議員の会」会長を務める中村敦夫参院議員は「財政赤字の中で多くのダム計画がある。全部建設できないことは、みんな気付いているのではないか。日本は建設関係で働く人が多いので、建設業に代わる産業政策を作ることも大切だ」と話している。
◇闘いの歴史−−反対派町長誕生/阻止条例制定/「立ち木トラスト」運動展開
 一つのダム計画が建設着工されるまでには、地元自治体が国や県を相手に激しい闘いを繰り広げたダムもある。その歴史がダム建設抜きには語ることのできない町や村は――
●八ッ場ダム(群馬)
 群馬県長野原町立第一小(児童54人)で今月19日、最後の終業式が行われ、93年の歴史を閉じた。児童たちは長い年月を刻み込んだ木造校舎に別れを告げた。八ッ場ダムが完成すると、校舎はダムの底に沈む。
 同ダムは首都圏への水供給と洪水調整を目的とし、国は1952年に予備調査に着手した。技術的な問題で一度は立ち消えとなったが、63年に再燃。74年には反対派の町長まで誕生し、故郷を守る運動を繰り広げた。しかし、四半世紀に及ぶ反対運動は住民の高齢化の中で次第に衰退し、85年に計画を受け入れた。昨年6月には、水没地区の土地の買収単価や営業補償などの補償基準が国と住民の間で妥結している。
 田村守町長は「ここまで来たが、周辺整備など、これからさらに長い道のりですよ」と話す。
●苫田ダム(岡山)
 現在、本体工事が着々と進む岡山県奥津町の苫田ダム。計画公表の1957年から90年までの約30年間、町を挙げた反対運動が繰り広げられた。59年にはダム阻止条例を制定し、国、県に抵抗を続けた。
 これに対して県は、ダム計画と整合性が付かない町事業の起債を認めないなど「行政圧迫」ともとれる行為を続け、また86年から89年には、ダム阻止派町長が3人が途中で辞職するなど町政が混乱した。しかし、過疎高齢化が進み、さらに水没地住民の8割以上が移転に同意したことなどもあり、町は90年、建設容認に方針転換。94年にはダム阻止条例を廃止した。
 現在、ダムに反対する県内外の約1000人が水没予定地の一部を共有する「一坪運動」が唯一の組織的な反対運動だ。国の訴えにより県収用委員会で審理が進んでいる。
●細川内ダム(徳島)
 徳島県木頭村では、2000年、建設省(当時)が細川内ダムの建設中止を正式に決定した。72年に実施計画調査が始まったが、当初から村民は反発。村は76年に村議会で建設反対を決議して以降、一貫して国、県に抵抗してきた。約30年を経て、その思いが実を結んだ。
 歴代の村長は「ダムに頼らない村づくり」を継承。94年、「村長はダム建設の中止勧告ができる」「ダム予定地の所有者は土地を譲渡する時、村に届けなければならない」など具体的な規制策を盛り込んだダム建設阻止条例を制定。市民団体もダム・水没予定地区周辺の木を山林所有者から買い取る「立ち木トラスト」運動を展開してきた。
 同村の平川博史総務課長は「課題は水没予定とされた地域の振興策。この地域での事業には補助金が出なかった。国道の早期開通を目指して県と協議を始めています」と話している。
<レイアウト・望月雅彦>
◆中止・休止が決定、または見込まれるダム◆
事業主体 ダム事業名 費やした費用(概算)
北海道 松倉 4億1000万円
  トマム 10億3600万円
  白老 11億7400万円
岩手 北本内 51億円
  黒沢 3億円
  日沢 4億円
  明戸 4億円
宮城 筒砂子 28億円
  丸森 3億円
  新月 34億円
秋田 長木 7億6800万円
山形 乱川 2億400万円
福島 久慈川 6億6700万円
  外面 3億4000万円
  水原 3億8700万円
茨城 緒川 18億円
群馬 雄川 4億8000万円
埼玉 小森川 5億8000万円
  大野 13億8000万円
千葉 追原 12億円
新潟 三用川 10億7200万円
  芋川 6億1900万円
  羽茂川 10億3900万円
  正善寺 5億9500万円
  中野川 12億700万円
富山 片貝川 7億円
  池川 7億円
  百瀬 24億円
石川 伊久留川 1億4000万円
  所司原 4億4200万円
  河内 2億1600万円
山梨 笹子 35億円
  芦川 8億4000万円
長野 大仏 11億1500万円
静岡 北松野 3億9600万円
三重 大村川 3億8000万円
  桂畑 2億4000万円
  片川 13億5000万円
兵庫 丹南 1億8000万円
奈良 飛鳥 3億円
和歌山 美里 5億2000万円
鳥取 中部 3億円
岡山 大原川 3億6000万円
広島 関川 1億円
山口 竹尾 2億8900万円
  木屋川 7億400万円
徳島 宮川内谷川 10億円
  黒谷 3億7000万円
香川 多治川 7億3000万円
高知 仁井田 1億5000万円
福岡 寒田 10億円
  山神 2億7000万円
長崎 梅津 2億9000万円
  12億3000万円
熊本 七ツ割 9500万円
  赤木 3億8500万円
宮崎 手洗 4億円
沖縄 満名 5億5100万円
  白水 6億9500万円
  アザカ 2億5800万円
  渡嘉敷 3億7300万円
※関東 稲戸井調節池 37億円
  川古 43億円
  江戸川 14億円
  荒川第2調節池 18億円
  印旛沼 20億円
※北陸 日橋川上流 13億円
  清津川 60億円
※中部 木曽川導水 82億円
  矢作川河口堰 213億円
※近畿 紀伊丹生川 35億円
※中国 柳井原堰 34億円
※四国 細川内 53億円
※九州 矢田 44億円
  高遊原地下浸透 9億円
  猪牟田 58億円
水公団 大谷川分水 64億円
  平川 70億円
※は国土交通省地方整備局名
 
 
 
 
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