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「Willクラブ」活動報告
社)日本自閉症協会 千葉県支部
坂本 秀美
 
1. 会の発足
 平成12年より、社)日本自閉症協会の千葉県支部では高機能自閉症勉強会を年数回行い、親どうしのピアカウンセリングを行ってきた。平成14年に発展性のある活動を求めて、参加者一人一人が会の活動に積極的に関われるようにしたいという声が高まり、会員登録制の勉強会として再スタートし、名称も「Willクラブ」と改めた。会の名称のWillには、私達の親や高機能自閉症児・者へ関わるものとしての「決意」や「志」、取り囲む社会の将来はこうあるべきという「未来」への期待、会員一人一人の自己実現へ向けての「意志、望み」など会員の様々な思いが込められている。
 
2. 活動目的
 高機能自閉症とアスペルガー症候群は、あまり社会的にも認知されておらず、特に低年齢の子どもの場合診断をつけられる医療機関や療育相談を行える指導機関も不足しているのが現状で、学齢期においては教育現場での無理解なども深刻な問題である。このような社会の中では、本人やその親が障害を受容していくことも難しく、社会的に不遇な思いをしている場合も多くある。
 こうした社会背景を踏まえ、Willクラブは高機能自閉症とアスペルガー症候群について、関わりを持つ人が障害に対する正しい知識を学び、交流や意見・情報交換を行い、積極的に障害を受けとめ、社会に対する理解を求める活動を行っていくことを目的とした。
 また、会員どうしのコミュニケーションを通して、子どもの障害をなかなか受け入れることができずに混乱している保護者に対し、自分ひとりが悩んでいるのではないと言うことに気付き、難しい子育ての渦中で孤立感からの解放も図った。
 
3. 活動内容
<定例会>
 親のピアカウンセリングを主目的としている。我が子の障害の告知は、親にとっては精神的に辛いものである。同じ障害を持つ子どもの親どうしで話し合うことにより、世間からの孤立感から解放され、親として子どもの障害を受け入れやすい心理状況になる。
 また、各家庭における療育の実践報告や、学校への理解を求めるための活動など、実際の体験談を聞くことは、子どもの生活環境を改善するために有意義なことである。
 地域の学校の情報や、療育施設、信頼できる病院など、利用者自身の感想などを含めた情報交換の場としても活用されている。
 
<勉強会>
 高機能自閉症とアスペルガー症候群について、より深く理解するために文献の読み合わせや、ワークシートを用いたグループ学習等を行った。(ワークシートは文末に掲載)
 
<講演会>
 2003年度は、高機能自閉症とアスペルガー症候群の支援に関する講演会として、千葉県自閉症発達障害支援センター(CAS)との共催で下記の内容で行った。
 
5月 幸田栄先生(横浜市中部地域療育センター)「構造化と視覚化の重要性について」
7月 田中康雄先生(国立精神・保健センター)「診断の重要性と投薬について」
8月 吉田友子先生(よこはま発達クリニック)「自分の障害を知ること、活かすこと」
 
服巻智子先生(それいゆ自閉症支援専門家養成センター)
「社会性の問題とソーシャルストーリーの実践例」3回連続セミナー
9月 「高機能自閉症とアスペルガー症候群の障害特性、障害の受容(本人、親)と告知について」
12月 「ソーシャルストーリーの実践例(幼児期〜学童期、思春期〜青年期、青年期以降)
1月 「高機能自閉症・アスペルガー症候群とは、教育現場における問題、問題行動とその対処法、学校におけるソーシャルストーリーの実践例」
 講演会には、Willクラブの会員だけではなく、療育指導、施設、教育、医療などの関係期間からも沢山の参加があり、毎回定員を上回る参加申し込みがあったこのことからも、高機能自閉症とアスペルガー症候群に対する関心の高さがうかがわれた。
 また、講演会を会員自らが受付、会場整備、書籍の販売などを担当して、自主的に行事運営することによって会の運営に対する参加意識も高まった。
 
<レクレーション>
 講演会を開催した際に、幼児〜学齢期の子ども達を対象とした保育を行った。障害児教育や臨床心理専攻の学生や福祉施設職員からボランティアを募り、高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもに対する接し方、スケジュールの活用方法や指示の与え方に関する簡単な講習を行った後、保育を通して実践し理解を深めた。
 保育活動は、講演会場近傍の施設(TEPCO; 東京電力の展示館、千葉県中央博物館など)に行って遊ぶだけの簡単なものであったが、参加した子供達からは「はじめて自分と同じようなタイプの複数の子ども達と遊ぶ経験をして楽しかった」「ボランティアさんと一対一で付き合ってもらえて嬉しかった」などの感想をもらった。
 また3月には、参加者の子ども自らが計画した交通博物館見学会も行った。
 
4. 今後
 Willクラブは発足1年で会員登録数は120名を越えた。会員は当事者の親だけではなく、教育関係者や臨床心理の専門家の方の登録もあり、高機能自閉症とアスペルガー症候群に対する理解の広まりと、支援の向上が期待させられる。
 2004年度は、子どもや本人が参加できる定期的な集まりや行事、施設や特別支援教室の見学会、行政・教育機関に対する働きかけなども計画している。
 
Willクラブホームページ
 
 
添付資料 勉強会用ワークシートの文例
200 年  月  日
自閉症の基本症状の理解
 自閉症が子どもの行動にどのように影響していますか?それは現在の生活において問題となっていますか?将来の生活に問題となりそうですか?
【対人関係】
1. 人と上手く関われない(人と気持ちが共有できない)
例. 友達のそばにいても一人で遊ぶ、仲間はずれにされる、同じくらいの年齢の人と対等の関係が作れない、仲間と協力できない
2. 他人の気持ちや考えが理解できない
例. その時の状況や相手の感情や立場を理解しない。傷つくようなことを平気で言う。思ったことを配慮無くすぐ口にする。
3. 不適切な方法で関わりを持とうとする(年齢相当の常識的な関わりが持てない)
例. ベタベタする。一方的に・・・。知らない人に親しげに話しかける。他人との距離間。
 
*具体例とアドバイス*
 
_____________1p_____________
【言葉、コミュニケーション】
1. 質問や指示の意図を上手く汲み取れない。(対人も含む)
例. 「ダメ」とだけ言われても何が悪いのか判断できない。
 「友達が困ってますよ」と言われても、それが「やめなさい」ということだとわからない。
2. 含みのある言葉の本当の意味がわからず、表面的な言葉通りに受け止める。(対人も含む)
例. 「まっすぐ帰れ」と言われ「道を曲がらないと帰れない」と答える。
 社交辞令で言われていることを理解できない。
3. 自分の思っていることを言葉や表情で伝えられない。
例. 困っているのに「教えて」「手伝って」等の支援を要求できない。
 伝え方がわからず机に突っ伏したり、物を投げたりする。
4. 会話がパターン的、(オウム返し、独り言、ちぐはぐな会話)
例. いつもわかりきっている同じことを質問する。表現方法や質問の順番をいつもと変えるとわからなくなる。
 たくさん話すのに、無く何が言いたいのかがよくわからない。(手の込んだ独り言)
 
*具体例とアドバイス*
 
_____________2P_____________
【脅迫的な思考行動や変化への不適応】
1. ある行動や考えに強くとらわれていて、日常生活に問題が出る。
(こだわりでも特に強いもの)
2. 独特な手順、日課が決まっていて、変更や変化を嫌がる
例. 家族の行動や服装にまで制限を加える。同じ服しか着ない。同じものしか食べない。異常な潔癖。
(こだわりや変化が苦手なことはイマジネーションの問題にも含まれますが、ここでは特に問題が大きくて困るものについて上げます)
 
*具体例とアドバイス*
 
_____________3P_____________
【感覚】
1. 聴覚刺激の処理に一貫性が無い、聴覚過敏
例. 普通はうるさく感じるような騒音が平気。人が全く気にならない音を極度に嫌がる。特定の音や人の声を嫌う
2. その他の感覚、感覚過敏
例. 特定の図形や色を嫌う。汚れることを極端に嫌がる/全く気にしない。人に触られるのを嫌がる。痛さを感じない/過剰に反応する。
 
*具体例とアドバイス*
 
____________4P____________
【イマジネーション障害】
1. 限定された興味、こだわり、全体像ではない細部へのこだわり
例. 沢山知識があるようだが、丸暗記で本質的な意味を理解していない。
 他の人が興味の無いようなことに強い興味がある。
 部分的なことにとらわれて、全体像や情報どうしの繋がりが理解できない。
2. 目に見えないもの、観念的、抽象的なものを理解できない。(想像力、イマジネーション)
例. 現在・過去・未来、時間の流れ、顔に表れない他人の感情
3. 空想と現実、他人/自分、自分に関係のあることと無関係なことの切り替えや分別が上手くいかない。
例. 相手と自分の見えているものが違うことがわからない。
4. 先の見通しを立てられない。
例. スケジュール通りに物事が進まないと不安、パニックを起こす。未知の出来事に適応できない。
 手順を前もって知らないと何もできない。
 
*具体例とアドバイス*
 
_____________5P_____________







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