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5. 自閉症スペクトラムの人はどれだけいるか?
 自閉症の子どもはどれだけいるのであろうか、カナーが提唱したような典型的な自閉症は一万人に4-5人と言われていた。しかし、最近では自閉症の子どもはもっと多く、アスペルガー症侯群を含めた自閉症スペクトラムの子どもは非常に多いのではないかといわれている。世界中の自閉症研究者が自閉症あるいはアスペルガー症候群の子どもや大人は従来考えられていたよりはるかに多くいると感じているようだ。1960年代にはカナーが提唱した自閉症は一万人に4.5人といわれていた。1996年に横浜市で行われた研究では自閉症は一万人に21人であった。2003年にアメリカで報告された研究では自閉症は一万人に34人であった。ではアスペルガー症候群も含めた自閉症スペクトラムはどれくらいいるのだろうか。前述のキャンバーウエル研究では知的障害のある自閉症スペクトラムは一万人に20人いるとされた。全英自閉症協会ではアスペルガー症候群と自閉症を含めて三つ組の障害を持つ自閉症スペクトラムは一万人あたり91人という驚くべき高い人数を推定している。さらにスエーデンで1999年に行われた研究では自閉症スペクトラムは1万人あたり121人とされた。アスペルガー症候群、そして自閉症スペクトラムは決して稀な障害ではないのである。医療、教育、福祉が正面から取り組むべき重大な問題である。
 
6. 自閉症スペクトラムの原因
 以前は自閉症は親の育て方が問題であると言われていたが、現在では脳の機能障害が原因であることが明らかになっている。アスペルガー症候群も含めて自閉症スペクトラムは脳の機能障害に基づく発達の偏りと考えられている。では脳の機能障害が何によってもたらされるかという点については多くの議論があり、結論は出せていない状況である。ただし遺伝要因がある程度関与していることが想定されている。最近、テレビやテレビゲームの視聴時間が長いと自閉症スペクトラムと同様の症状を呈するとの主張が一部であるが、現時点では根拠が薄弱であるといわざるをえない。
 
7. 必要な援助を供給するために―診断マニュアルの作成と専門家の養成が必要
 典型的な自閉症とアスペルガー症候群・高機能自閉症の違いは一見障害に見えないことである。典型的な自閉症の場合は会話が成立しなかったり、人に関心がなかったりするために何らかの障害があることは、例え自閉症とはわからなくても、大抵の人には判断がつくし、一般の(自閉症を専門としない)小児科医や精神科医でも短時間で診断を下すことは可能なことが多い。しかし、アスペルガー症候群や高機能自閉症の場合は自閉症と同じように三つの障害を持っていても、その障害の現れ方が微妙なために、一見「正常」に見えることが多い。特に忙しい小児科や精神科の数分から30分程度の診察では、相当にベテランの専門家でも判断を下しにくい。その結果、アスペルガー症候群の子どもや成人が正しく診断されないことが日本では非常に多いと思われる。診断が下されなければ援助が始まらないし、援助の必要性も認識されないのであるから、結局適切な援助を受けられないだけでなく、障害の特性を配慮しない不適切な教育を受けることになりがちであり、そのことが二次的な障害に繋がっていく可能性がある。したがって、援助の第一歩は診断である。適切な診断を下すためには、診断のために構造化面接(どのような質問や観察をすれば適切にアスペルガー症候群の診断を下せるかの専門家向けの面接マニュアル)を作成する必要がある。英語圏では数々の構造化面接のツールが作成されているが、日本では一つもない。日本でも構造化面接を導入する必要がある。
 またアスペルガー症候群を正しく診断できる専門家の養成も急務である。日本では先進国としてはきわめて例外的に児童精神医学の講座が大学医学部にない。海外では当然のように認められている児童精神科医を養成する講座が医学部になく、養成システムも皆無に近いことが問題である。将来にむけて児童精神医学の講座を正式に認める必要がある。当面の課題としては精神科医、小児科医、あるいは心理職向けのアスペルガー症候群を含む発達障害の診断・治療に関する研修制度を国の責任で整備することも求められる。
 前述のようにアスペルガー症候群の診断はどんなにベテランの医師であっても短時間で正確に下すことは困難であって、十分な時間をとって診断ができるようなシステム作りが必要であると考えられる。
 援助の始まりは正確な診断と評価である。発達障害の診断は発達歴を詳細に聴取することと面接を通じて現症を正確に把握することによりなされる。正確な診断を下すには児童精神医学の経験と知識が不可欠であり、発達障害の知識と経験を有する専門医の養成が望まれるところである。
 
朝日新聞厚生文化事業団
福田年之
 
1)「なかまのグループ」をつくるために
 
 なかまといってもいろいろな種類のなかまが私たちの周囲には存在します。気の合う人たち、仕事なかま、同じ趣味の人たち、同郷、学校の同窓、子ども(親)を通じてのなかま、何らかの同じ目的がある人たち・・・。
 日本自閉症協会という団体も、もとをただせばここにあげた中に入る「なかま」の集まりです。協会発行の『自閉症のてびき』には、「日本自閉症協会は、自閉症についての研究・調査、自閉症児・者の療育、教育、福祉、労働などの充実を目指して、多くの親たちが、専門家と協力して結成した団体です」(下線筆者)と紹介されています。つまり自閉症の子どもを持つ親たちが、自閉症という障害のある子どもをもつという共通の体験をキーにして活動する「なかま」の集まりというわけです。
 日本自閉症協会だけでなく、その他の障害のある人たちの親の会、当事者の会はたくさんあり、それぞれの目的を達成するために、さまざまな活動をしています。同じような思いの人たちが集まり、「なかま」が増えると、会自体も大きくなり、対外的な影響力を増すことができます。活動それ自体も広がりを持ち、さらなる発展や目的の達成を会として目指すこともできます。
 一方で、「なかま」の会が大きくなることによって、違った活動や目的、要望が出てきたり、あるいは「なかま」同士の近親感が薄くなったり、会そのものの方向性について再考しなければならない時期がくるかもしれません。
 いずれにしても「なかま」のグループをつくることによって、同じ体験を持つ人たちが集まることができます。そこにはいろいろな情報が集まるようになります。あるいはいろいろな考え方を知ることができます。1人ではできなかったことができるようになることもあります。この冊子に掲載されている「高機能自閉症・アスペルガー症候群」の人たちのグループの報告も、そうした「なかま」のグループの利点を生かして活動されている貴重なレポートです。
 高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちが集まって、あるいは「なかま」を集めてグループをつくることについて、その意義やつくり方、運営の方法などについてまとめてみました。
 
2)「なかまのグループ」をつくることの意義
 
 それでは、実際に自閉症の人たちやアスペルガー症候群の人たちの「なかまのグループ」をつくる意義について、もう少し整理して考えてみます。
 いま、高機能自閉症の人たちやアスペルガー症候群の人たちの本人の会が全国にできつつあります。もちろん前提にはこういった人たちに特化した親の集まりも増えつつあるようですけれども、ここでは本人の会としての「なかまのグループ」について考えます。
 まず本人たちが置かれている状況は、学校や地域、職場などで孤立し、生活が単調になったり場合によってはいじめにあったりというふうに社会生活に程度の差はあれ何らかの支障をきたしているということを実感している人たちも多いことでしょう。そうした人たち、あるいは親をはじめ周囲の支援者が「なかま」で集まって活動できないかと思うことは自然なことです。むしろ、「なかま」を得ることによって得ることのできるさまざまな利益は、本人や親にとってかけがえのないものとなる可能性のあるものです。
 その意義を以下にあげます。
 
1. 「楽しみ」ができる
 何よりもなかまと一緒に楽しい活動をすることで、生活に「楽しみ」ができることは大きなことです。それは、自分の生活にひとつ幅ができるきっかけになるかもしれません。
2. 「居場所」ができる
 「居場所」は居心地のいい場所と言い換えることができます。自分のことを全面的に認めてくれる場所は居心地がいいものです。「居心地がいい」と思えれば、それは「楽しみ」な「居場所」へとつながることになるでしょう。
3. 「ほかの人」について知ることができる
 さて居心地のいい「楽しみ」な「居場所」ができ、そこでのなかまとのさまざまな活動を通して「他者」について知ることができます。いろいろな考えを持つ人たちがいること、自分とは違った「ほかの人」たちの考えや行動について認識する機会ができます。
4. 「自分のこと」について知ることができる
 さらに、自分と共通した体験をしている人やそうでない人たちを知ることは、自分自身について知るきっかけにもなります。なかまの中で「自分の強みや弱み」など、自分のことについて評価することはとても大事で意義深いことです。
 また本人である自分自身が自閉症について正しく理解することもとても大切なことです。それは自分自身を正しく知ることではじめて自らをたいせつに思い自尊心を持つことができ、同時にほかの人をも尊重するという気持ちを持つことにもつながるからです。
5. 「社会的なスキル」を身につけることができる
 この、「居心地のいい」「楽しみ」な「なかまのグループ」で行う活動ならば、それを通して社会的に必要な技術や能力を1人でするよりもより自然で容易に身につけていくことができます。
6. 何より「なかま」ができること
 そして何より「なかま」ができることは大きな収穫です。ほかの自閉症の人やアスペルガー症候群の人たちと出会うこと。自分と同じ体験をしているからこそ分かり合える部分は大きいはずです。「自分1人ではないんだ」ということが分かること。このような「なかまのグループ」を通して友情を育むことができれば、このグループ活動に大きな意義がひとつ加わります。
7. 「父母ではない支援者」ができる
 言うまでもなく親ではない、支援者・理解者ができることは本人が社会生活を送る上でも、また親にとっても大きなことです。同じ体験を持つなかまのグループが、より大きな、広い理解者・支援者の輪へと広がりをみせる可能性をもっています。
 
3) 「なかまのグループ」のつくりかた
 
 どうしたら「なかまのグループ」ができるのでしょうか。簡単な人には簡単なことなのでしょうが、簡単でない人にはそうそう簡単なことではありません。当たり前ですね。
 でも黙っていたり、ただ待っていたりしても始まりません。まずは「なかまのグループをつくりたい」という声をあげること、自ら動くことです。
 
1. 核になる「なかま」を集める
 同じ体験を持つ人たちは近くにいませんか。日本自閉症協会あるいは支部に加入している会員(親)のお子さんたち、学校の同級生、青年学級、通っている通所施設や相談施設、クリニック、通っていなくても精神保健福祉センターや保健所、さらに各地にある自閉症・発達障害センターなどなど。
 ここであげた精神保健福祉センターについては、全国的なレベルで言うとほんとうに小さな芽ではありますけれど、長野県精神保健センターのように高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちのために活動を始めているところもあります。この芽を全国的なムーブメントにする意味でも、ぜひとも精神保健福祉センターや保健所にこうした活動に対する要望の声を集めることも方法のひとつです。
 まずは「なかまのグループをつくりたい」と思う人に声をかけ、集めることです。その数は2人でも3人でもいいのです。その2人や3人が核となり、とにかく、「なかまのグループをつくりたい」と声を上げること。そしてこのときに、身近にいる専門家をできるだけ巻き込むことも重要なことです。まず核となるなかまを集め、声を上げること。
2. なじみの場所となじみの時間
 どこに集まるかは大きな問題です。ただし、いつも決まった場所を決めることが大事です。福祉センターやボランティアセンターの会議室など公的な機関・施設で、できれば無料のところか、あるいは有料でもできるだけ安く利用できるところを設定します。一緒に活動してくれる専門家に相談してみるのももちろん手段のひとつです。施設やクリニックその他で日によってはあいていて借りることのできるスペースがあるかもしれません。
 決まった場所と、もうひとつはいつ集まるかです。決まった日取り・時間。
 例えば「毎月第2日曜日の○時〜○時はなかまのグループの日」と、日を分かりやすく特定してしまうことです。もちろん日曜日でなくても土曜日でもあるいはウィークデイでも構いません。大切なことは決まった場所へ決まったときに行くことによって、定期的な活動になることです。そのことで本人の中になじみの活動として根付くことになります。
3. できるだけ「がんばらない」
 場所と時間の設定ができたら、最初は詰め込み過ぎないで、ゆっくり活動を始めましょう。せっかくやるのだからと、あれもこれも、「できれば少なくとも1週間に1回は」などと考えがちです。でもあまり張り切りすぎると、きっと、どこかで誰かに負担がかかってくるものです。はじめから「がんばらない」。まずはゆっくり。かかわる人みんなにとって、どの程度までならそれほど負担にならず、無理なく続けていけるかを見極めるためにも、ちょっとずつ。
 何といっても「楽しみ」な場所でなかったら長続きはしません。そのうち軌道に乗り始めたら少しずつ増やしていけばいいのですから。とりあえずは、1ヶ月に1回程度からスタートしてはどうでしょうか。合いことばはできるだけ「がんばらない」です。
4. なかまを増やす。でも小グループが基本
 場所や時間、それも定期的に活動することが具体的になり始めました。そろそろ仲間を増やしますか。もちろんほかの手順と前後しても構いません。2〜3人ならもう少しなかまが増えて欲しいですね。できれば5〜6人から7〜8人。いくら多くても10人を超えない程度の人数が適当です。これはグループワークといって、構成メンバー相互にいい影響を与え合って、いい活動ができる人数がだいたいこの程度が適正と言われている人数だからです。あわせて、自閉症やアスペルガー症候群の人たちにとっては、音や視覚、そのほかの必要以上の刺激を避けることも考えないといけないでしょう。支援するスタッフと合わせた人数が多くなることは、さらに刺激が増す大きな原因になります。
 なかまを集める(増やす)具体的な方法は、いろいろ考えられるでしょう。できれば定期的に集まる場所に通いやすい人がいいのはもちろんです。最初に核となるメンバーが知り合ったところ・場所をベースに、そこから広げていければいいですね。クリニックや相談機関の窓口にあんないを置かせてもらったり、掲示させてもらったり。最近ではインターネットを使ってなかまを集めることも、手軽で効果があるようです。
5. なぜ?なにをする?
 具体的な活動の内容を考えてみます。なぜ「なかまのグループ」をつくりたいと思ったのか。同じように、なにをしたくて「なかまのグループ」をつくろうと思ったのでしょうか。「まずとにかく集まってみた」のであれば、ここで改めて考えてみましょう。「なかまのグループ」をつくることの意義について、すでにいろいろとあげ、見てきました。もう一度照らし合わせてみてください。
 なぜ「なかまのグループ」を始めよう(に入ろう)と思ったのでしょう。どんなことができるのか、どんなことをしたいのか、どんなことをするのがそれぞれのなかまにとっていいのでしょう。紹介できる言葉や考えを持っていれば、新しいなかまを誘うときにも説明がしやすく、支援者を頼むときにも分かってもらえやすいですね。
 また参加する自閉症の人たちやアスペルガー症候群の人たちの年齢が高くなればなるほど、「なぜ?なにをする?」のかを理解していることが、参加する意欲をより高めることになります。
6. 楽しみを毎回取り入れる
 「楽しみ」な活動であることがもっとも大事なことでした。ですから活動は参加するなかまが楽しめるような活動を基本にします。ゲームやあそび、簡単なスポーツなど、まずレクリエーションを中心に考えることがはじめは考えやすいかもしれません。慣れてくれば買い物や料理、さらにレストランなどでの食事、ハイキングやスポーツなどの観戦、あるいはメンバーで話し合いをするなどと、さらに社会的な活動へと広げていくことも考えられます。
 とはいえ最初から焦ったり欲張ったりしないで。例えば、食べることが楽しみな人は多いですので、毎回おやつや食事の時間をもつことで活動の中に簡単に「楽しみ」を取り入れることが可能です。ほんのちょっとした工夫です。







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