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II 平成15年度海外調査
英国、フランス及びドイツにおける調査の概要
1 調査対応者
林 健久(東京大学経済学部名誉教授)
青山 忠幸(総務省自治税務局市町村税課)
 
2 実施時期
平成16年1月
 
3 調査実施国
英国、フランス及びドイツ
 
4 調査先及び調査事項
(ロンドン)
1月12日(月)・・・副首相府、地方自治体協会(LGA)
・中央・地方協調会議(CLP)について
・地方自治体協会(LGA)について
・財源調達バランスのあり方の検討について 等
 
(パリ)
1月14日(水)・・・内務省
・地方財政委員会について
・職業税について 等
 
(ベルリン)
1月15日(木)・・・ドイツ市町村連盟
 16日(金)・・・連邦財務省、ドイツ都市学研究所
・財政計画会議について
・ドイツ都市会議及びドイツ市町村連盟について
・市町村財政制度改革について 等
 
 去る1月10日から1月18日にかけて、「地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方に関する研究会」(委員長:林健久東京大学名誉教授)における議論に資するため、英国、フランス及びドイツにおいて現地調査を行う機会を得た。調査においては、地方財政に関する国と地方との調整の仕組みを中心に、地方税財政関連で興味深い事項についても、併せてヒアリングを行った。
 英国においては副首相府及び地方自治体協会を、フランスにおいては内務省を、ドイツにおいては連邦財務省、ドイツ都市学研究所及びドイツ市町村連盟をそれぞれ訪問し、調査項目を中心に幅広くヒアリングを行うとともに、関連資料の収集を行った。
 以下、今回のヒアリング結果の概要をご紹介することとしたい。
 
[1 英国]
(1)中央・地方協調会議(CLP: Central Local Partnership)について(資料1)
○中央・地方協調会議(CLP)は、1997年に設立された。
 中央政府と地方自治体協会(LGA: Local Government Association)との間で交わされた「A Framework of Partnership」においては、中央政府と地方政府は相互に依存しており、地方の行政サービスの向上、地方の自主性の強化といった目的は、互いの役割を尊重して協調し、政策の実施に協力して取り組むことにより最もよく果たされるとされている。
 
○CLPにおいては、中央政府とLGAが、トップレベルで、地方政府に関する主要問題について協議する。また、中央政府と地方政府が共同で取り組むことが有益な政策目的を確認する。
 CLPにおいては、十分かつ効果的に協議を行うこととされており、特に、地方財政に関する事項や地方自治体に影響を与える新規立法等について協議を行う。
 地方財政に関する事項としては、歳出見直し(Spending Review)、毎年度の国と地方との財政についての合意(Settlement)、地方団体に対する交付金の配分基準等について協議が行われる。LGA側からは、地方税財政を充実すべきであることや地方自治体の財源調達バランスのあり方に関する検討を早急に進めるべきであること等が指摘されている。
 
(参考)最近のCLPにおける議論
(CLPの議事録より。なお、2003年10月16日に開催された会議の提出資料及び議事録については、資料1中に添付。)
○2003年5月21日に開催されたCLP
・カウンシルタックスの上昇、財源バランスのあり方の検討(Balance of funding review)、2004年度の歳出見直し(Spending Review 2004)について議論された。
・副首相府及びLGAから、カウンシルタックス上昇の理由の分析、財源バランスのあり方の検討の現状等、2004年度の歳出見直しにおける重要な見地について説明する資料が提出された。
・LGA側からは、カウンシルタックスのギア効果や行政サービスの需要の増加に対応し財源調達バランスのあり方の検討が必要である、カウンシルタックスは間もなく負担することができない水準まで上昇する、地方政府に対する新たな負担については適切に確認し支援すべきである等の意見が出された。
○2003年10月16日に開催されたCLP
・2004年度の地方財政に関する合意(Settlement)、2004年度の歳出見直し(Spending Review 2004)について議論された。
・副首相府及び財務省から、2004年度の歳出見直しの過程、2004年度の地方財政に関する合意について説明する資料が提出され、この中で、2004年度は税率制限権を行使する用意があると記述されている。
・LGA側からは、特に教育について交付金の伸びを上回る歳出圧力があるためカウンシルタックスが上昇する、カウンシルタックスの上昇を抑えようとすると他のサービスを削減することになる、政府は特定目的補助金の比率を下げるためのあらゆる手段をとるべきである、政府が税率制限権を行使する用意があることに対し失望している等の意見が出された。
 
○CLPは、あくまでアドバイスや議論の場であり、決断の場ではない。中央政府側とLGA側が互いの立場を分かり合った上で協力できることを探り合うものであるとのことである。あくまでも決定する権限は中央政府にある。
 ただし、CLPの議長であるプレスコット副首相は、地方自治に力を入れており、副首相府が各省に協力を求めるため、各省もCLPを重要視しているとのことである。
 また、中央政府側とLGA側の意見が一致しなかった課題についても、中央政府側は、その考え方をLGA側に理解してもらうように努めているとのことである。
 
○CLPのメンバーについては、中央政府側として副首相をはじめ、各省大臣、内閣大臣、労働党の議長が参加し、LGA側としてLGAの議長をはじめ、LGAの主要な議員が参加する。
 
○CLPの会合は、年に3回開催される。2003年においては、1月、5月、10月に開催された。
 
(2)地方自治体協会(LGA: Local Government Assosiation)について
○LGAは、1997年に、それまでにあったカウンティ、ディストリクト、メトロポリタンカウンシルのそれぞれを代表する団体を統合して設立されたものである。地方自治体の声を一つにした方が国に効率的に聞いてもらえると考えたとのことである。
 LGAには、イングランドとウェールズのすべての地方自治体が参加している。
 
○LGAの主な機能は、地方自治体を代表して中央政府に対し政策、財政等についてロビー活動を行うことであり、CLPや個別の会議の場を通じてこうしたロビー活動を行っている。
 
○LGAの総会は、年に2回開催される。
 LGAの総会の下には、エグゼクティブ(LGA Executive)とサブグループが設置されている。エグゼクティブは地方議員14人と4党のリーダーにより構成され、LGAの政策を決定する。財政に関する事項は重要であることから、サブグループではなく、エグゼクティブが直接扱うこととされている。
 
(3)財源調達バランスのあり方の検討(Balance of Funding Review)について
○英国の地方税はカウンシルタックスのみであり、歳入に占める税収の割合は25%に過ぎない。このため、地方自治体の自主性や財政責任が低下し、有権者の無関心を招いていると指摘されている。こうした状況に対し、2003年に政府に検討委員会が設けられ、財源調達バランスのあり方の検討(Balance of Funding Review)として、現在の歳入構成から生じる問題点及び改正の選択肢が検討されているところである。
 
○副首相府においては、カウンシルタックスの改正案として、価格帯(バンド)の数を多くすること、地域によって価格帯(バンド)を変えること、軽減措置を分かりやすいものにすること等を検討しているとのことである。
 
○LGAにおいては、カウンシルタックスの見直し、事業用レイトの再地方税化、地方所得税の導入等を検討しているとのことである。
 カウンシルタックスについては、価格帯(バンド)の数を増やすこと、軽減措置を見直すこと、資産の再評価(現行法では10年ごとに再評価することとされている。)をより頻繁に行うこと等を検討しているとのことである。
 
(参考)カウンシルタックスの価格帯及び税額の比率(現行)
価格帯(バンド) 資産評価額(単位:ポンド) 税額の比率
A 〜40,000 6
B 40,001〜52,001 7
C 52,001〜68000 8
D 68,001〜88,000 9
E 88,001〜120,000 11
F 120,001〜160,000 13
G 160,001〜320,000 15
H 320,001〜 18







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