[ドイツの地方財政]
和光大学 半谷 俊彦
I ドイツの租税制度
ドイツの主要な税目と税収については図表1のとおりであるが、共同税が非常に多く、税収全体の73%を占めている。所得税、法人税及び日本の消費税に当たる売上税が共同税となっており、これらについては、州が徴収し、半分を連邦に拠出するのが基本であるが、売上税については、財政調整的な配分を行っている。
ドイツでは、課税ベースが広く、税収のある税金は共同税となっており、連邦税と州税には個別的な税しか残されていないが、市町村には営業税が基幹税として残っている。共同税の配分比率は、図表2のとおりであり、基本的には所得税、法人税は連邦と州で等分している。ただし、市町村が営業税の一部を連邦と州に拠出する代わりに、所得税については、その15%が市町村に配分されており、残りを連邦と州で等分している。
また、売上税については、数年前に営業資本税が廃止されたことに伴い、その一部が市町村に配分され、残りを連邦と州で配分している。
所得税と法人税の配分比率は憲法で定められているが、売上税の配分比率は、連邦議会と連邦参議院(州の代表で構成)で決定されており、その時々に応じて変更されることとなっている。
図表3は、共同税配分前後の、共同税、連邦税、州税の税収の割合を示しているが、これで分かるように、共同税が非常に大きく、また、配分後の連邦と州の税収は、同程度となっている。
また、ドイツでは、図表4にあるように、課税権を立法権、行政権、税収権の3つに分けており、共同税、連邦税、州税については立法権を全て連邦が持ち、行政権、つまり徴税は州が行っている。地方税では、法定税については、連邦が基本的に立法し、税率の決定権だけを地方自治体が持っており、法定外税については、州の憲法で決めるが、多くの場合、州がその立法権のほとんどを地方自治体に委譲している。
(注)ドイツでは法定税、法定外税という表現はしていないが、分かり易いように、このように表記している。
II 州の財政制度
1. 歳入の構成
州の歳入構成については、図表5にあるように、ドイツ合計で共同税が45.8%、州税が27.4%であり、税金で7割近くを占め、補助金は意外と少なく15.4%である。しかし、旧東ドイツ地域では、この割合が著しく異なり、税収は2.8%でしかなく、それに対して補助金が33.4%となっており、租税収入が著しく低く、補助金に頼っている部分が大きい。
2. 課税自主権
共同税については、所得税と法人税は、各州が徴収し、半分を連邦に拠出し、残る半分が自らの税収となっている。また、売上税についても、地方自治体が連邦と州に半分ずつ拠出し、州内で徴収された売上税は、やはりその州の税収となっている。
州税については、相続税、贈与税、不動産税、自動車税、賭博税、ビール税といった税であるが、これは基本的に全て連邦で決められた税であり、税率も全国一律で、州には、税率を調整したり、新しい税をつくる権限が無く、州は基本的に課税自主権を持っていない。その為、財政力不足は、売上税の配分を含む連邦財政調整制度でカバーされている。
3. 連邦財政調整制度
連邦財政調整制度については、通常4段階に分けて説明される。
第1段階は、売上税収の垂直的配分と呼ばれるものである。売上税の配分比率は憲法で決まっておらず、連邦議会と州の代表で構成される連邦参議院で、法案を出して決定されている。2000年度の配分比率は、図表2にあるように、売上税の52%が連邦、45.9%が州で、2.1%が市町村となっている。
第2段階は、売上税の州割当分を州の間でどのように配分するかであるが、75%を人口比例的に配分し、残り25%を税収の1人当たり州平均額が連邦平均額を下回る州に、連邦平均額の92%になるまで配分し、その残額は再度人口比例的に配分される。
第3段階は、州間財政調整、いわゆる水平的財政調整である。これにはまず、課税力測定値を決定する。これは基本的に、州の税収に州内の地方自治体の税収合計の2分の1を足したものである。なお、地方自治体によって税率が異なるため、税率は一定のものと仮定して計算している。
次に、調整額測定値を決定する。これは課税力測定値の全州合計額を補正人口(州及び州内地方自治体の人口を人口規模と人口密度で重み付けしたもの。図表6、7 参照)の比率で各州に配分したものである。つまり、人口が多いところほど累進的に多くの財政需要が見込まれるように計算されている。
そして、課税力測定値が調整額測定値を下回る州は、調整額測定値の95%に至るまで給付を受けることとなる。
第4段階は、それでも不足する州に連邦補充交付金が交付される。この交付金は、不足額補充金という一般交付金と、図表8にある、特別な需要を補償するための特別補充交付金からなっている。
不足額補充交付金は、基本的に州間財政調整と同じ枠組みを使い、州間財政調整で調整額測定値の95%までが補償された残り5%の90%、つまり調整額測定値の99.5%まで補償されることとなる。それに加え、さらに特別な需要を補償する交付金が設けられている。
4. 各段階における調整効果の比較
連邦財政調整をまとめると、売上税の配分で税収の連邦平均額の92%までが補償され、州間財政調整で調整額測定値の95%が補償され、さらに、不足額補充交付金で、調整額測定値の99.5%までが補償される。特別補充交付金は、さらに上乗せされるため、交付を受けた州は、100%を超えることとなる。
連邦財政調整の拠出・受領額の総額は、図表9のとおりであり、州ごとの1人当たり調整額を計算したものが図表10である。
売上税は、1人当たり売上税収が平均を超える州はプラスで、平均を下回る州はマイナスで示されており、最大値が平均値より1人当たり700ユーロ多く、最小値では159ユーロ少なく、州により859ユーロの格差がある。
州間財政調整は、拠出している州がマイナス、受領している州がプラスであり、1人当たりの最大値と最小値の格差は、1,286ユーロである。
連邦補充交付金については、不足額補充交付金が、普遍的なルールで配分する一般交付金であり、格差は142と意外に小さい。それ以外の、政府運営費用特別需要補充交付金、移行期補充交付金、旧東ドイツ特別需要補充交付金、財政再建特別補充交付金の4つは、それぞれ特別の目的で、特定の州に交付されている。
財政調整として最も機能しているのは、州間財政調整であり、その次が売上税であって、一般的な枠組みでは不足額補充交付金が意外に小さい。それ以外では、特例中の特例である財政再建特別補充交付金を除くと、旧東ドイツ特別需要補充交付金が426で非常に大きい。
5. 財政調整をめぐる近年の動向
ドイツが再統一した1989年以後、1994年まではドイツ統一基金を設立し、旧東ドイツを支援していたため、財政調整の中には旧東ドイツが入っていなかった。しかし、1995年から旧東ドイツが財政調整制度に加わったため、財政調整の様子が大きく変わることとなった。
図表11にあるように、これまでほとんど拠出も受領もしていない州が多く拠出することとなり、それまで州間財政調整で補償を受けていた、ザールランド、ラインラント・プファルツ、シュレスヴィッヒ、ブレーメン、ニーダーザクセンは、補償を受けられなくなったため、連邦から移行期補充交付金の交付を受けている。また、旧東ドイツ諸州は圧倒的に多くの補償を受けることとなったが、それでも不足しているため、連邦からさらに補充交付金の交付を受けている。
州間財政調整で多く拠出している、バーデン・ヴュルテンベルク、ヘッセン、バイエルン州は、現行制度は調整が行き過ぎており、財政需要の計算も人口補正に根拠が無く、違憲ではないかと提訴している。
これに対する判決は、2003年1月1日までに原則を決める「基準法」を制定・発効させること、それに基づいて2005年1月1日までに新しい財政調整法を発効させること、それができなかった場合には今の法律は違憲となるというものであった。
その判決に基づき、基準法が2001年7月に制定されたが、基本的には現状追認となっている。州間財政調整では、独立性への配慮を明示している一方で「課税力に州と全ての市町村の税収を基準とする」として、これまで市町村の税収は2分の1しか州の課税力に加えていなかったところ、全額加えることとなったため、かえって旧東ドイツと旧西ドイツの差が開き、財政調整が進んでしまうこととなっている。
また、「州間の財政力格差を完全に除去すること、財政力順位を逆転することを禁じる」とされているが、「特別需要交付金は、特別な事情に基づく負担を補償する場合に限り、受領州の財政力を平均以上に引き上げることも認める」とされ、一般的な財政調整では順位は入れかえないが、連邦補充交付金を入れた場合には変わっても構わないという現状を追認したものとなっている。
すなわち、判決は、原告の主張どおり違憲に近いものであったが、その結果制定された基準法は余り現状と変わらないものとなった。
III 地方自治体の財政制度
1. 歳入の構造
地方自治体の歳入内訳は、図表12のとおりである。
2. 課税自主権
共同税は、基本的に住民の課税所得の合計によって配分されている。
地方税のうち、営業税と不動産税は、基本的に課税ベースに全国一律の基準率を掛けて、さらに賦課率を掛けている。この賦課率は地方自治体が自由に決められることから、営業税と不動産税については、実質的に税率を決定する権限があることとなる。これには上限もないため、現在では100%以下の自治体もあれば500%以上の自治体もある。
地域税は、基本的に連邦、州、共同税も課税しておらず、地域内に影響力があるもの、限られるものについて課税が認められ、非常に課税ベースの選択が狭く、税収を増やすには余り役に立っていない。
また、不動産税は、1964年から土地評価を行っておらず陳腐化しており、このまま税率を上げると非常に不公平であるため、増税できない状態である。
営業税は課税ベースの侵食が激しく、非常に大企業課税になっており、応益性に低下がみられる。
3. 追加的な財政需要への対応
図表13では、1人当たりの歳出額と共同税・地方税を合わせた1人当たりの租税収入は、共に住民数が多くなるにつれて上昇しているが、租税収入は歳出額ほどには上昇していない。これは、地方自治体の規模が大きくなるにつれて、歳出額が上がり、その一部は租税収入の増加で賄われているが、一般交付金による補償も大きな役割を担っていることを示している。
次に図表15をみると、租税収入のうち、地方自治体の規模が大きくなるにつれて、最も増加しているのは営業税であることから、歳出増加をカバーしているのは営業税といえる。
図表17は、営業税の増加は何によるところが大きいのかを示している。50万人以上の自治体の税率は、3,000人以下の自治体の約1.3倍であり、営業税収の増加は、税率の引き上げによってもたらされている部分もあるが、それ以上に課税ベースの増大によるところが大きいといえる。
図表18によれば、地方自治体の規模が大きくなるにつれて、歳出全般が増加しているが、最も増加しているのは、社会給付支出である。現状では、地方自治体の規模が大きくなるにつれて生じる追加的な財政需要は、営業税の増収でカバーしているが、実は、それよりも、一般交付金の縮小や、社会給付に適した財源の地方自治体への移譲等、再分配に関連することの方が必要なのではないかという議論がなされている。
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