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 東京財団研究推進部は、社会、経済、政治、国際関係等の分野における国や社会の根本に係わる諸課題について問題の本質に迫り、その解決のための方策を提示するために研究プロジェクトを実施しています。
 
 「東京財団研究報告書」は、そうした研究活動の成果をとりまとめ周知・広報することにより、広く国民や政策担当者に問いかけ、政策論議を喚起して、日本の政策研究の深化・発展に寄与するために発表するものです。
 
 本報告書は東京財団「日本の教育」研究プロジェクト(2002〜03年度)の研究成果をとりまとめたものです。
 研究の目的は、「日本の初等教育は21世紀の日本社会を形成してゆく上でどのような役割を担うべきか」を明らかにすることです。
 研究は、初等教育に関係する様々な活動を行っておられる方々から、その活動の動機、計画、現状、直面している困難などについてお話をお聞きし、また活動の現場から見た日本の初等教育に関するご意見をお聞きするというかたちで行われました。
 ヒアリングに応じていただいた講師の方々は、次ページの「講師リスト」の通り合計9名の方々です。講師の皆様にはご多忙にもかかわらずご出席をいただいて貴重なお話・ご意見を伺わせていただき、ここに改めて感謝を申し上げます。
 また、研究を進めたチームのメンバーは次ページ「研究プロジェクト・メンバー・リスト」の通り、東京財団日下公人会長をリーダーとする4名です。
 研究成果としては、プロジェクト・メンバーである北矢行男氏が作成された研究論文「日本の近未来ビジョンと初等教育改革」をもって本研究プロジェクトの研究成果としました。この報告書には、その全文を掲載しました。また、東京財団の「日本の教育」研究プロジェクト事務局では、講師の方々からのヒアリングが貴重な内容を含むものであるとの認識から、質疑応答を含めてヒアリングの要約原稿を作成して講師の方々のご承認とご訂正を頂き、この報告書に掲載いたしました。
 
 本報告書が、21世紀の日本社会と日本の初等教育のありかたを考える上で、いささかなりともお役に立つことができれば幸いです。
 
 なお、報告書の内容や意見は、すべて執筆者個人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。報告書に対するご意見・ご質問は、執筆者までお寄せください。
 
2004年7月
東京財団 研究推進部
 
「講師リスト」
 
(氏名) (所属先、役職)
 
1. 高木幹夫 株式会社日能研代表
 
2. 日野公三 株式会社アットマーク・ラーニング代表取締役
 
3. 秦理絵子 NPO法人東京シュタイナーシューレ教員代表/理事
 
4. 井上昭子 小平市社会福祉協議会高齢者交流室コーディネーター
 
5. 大堀秀夫 伸芽会教育研究所名誉顧問
 
6. 玉田雅己 NPOバイリンガルろう教育センター龍の子学園理事
 
7. 諸富祥彦 明治大学文学部助教授
 
8. 篠原寿一 NPO法人「新現役ネット」教育を考える懇談会代表
 
9. 小野由美子 鳴門教育大学教授
 
(敬称略、氏名はヒアリング実施順、所属先及び役職は2004年6月現在)
 
「研究プロジェクト・メンバー・リスト」
 
リーダー
日下公人 東京財団会長
 
メンバー
北矢行男 多摩大学教授/戦略問題研究所所長
大島章嘉 株式会社ワード研究所代表取締役/市民満足学会事務局長
 
コーディネーター
國田廣光 東京財団研究推進部調査役
 
I. 研究論文
「日本の近未来ビジョンと初等教育改革」
北矢行男
多摩大学教授/戦略問題研究所所長
 
1. 改革試案検討にあたっての基本的な考え方
 初等教育は、その成果が15〜20年先に発現する長期的な取り組みである。従って、当面の隘路を解決するための現状延長の改善、改良型のアプローチではなく、望ましい未来から考え、徹底的に現状を脱構築するアプローチが不可欠である。
 転換期の今日、現状の初等教育に関し、様々な立場から、多くの意見が提起されている。とりわけ、ゆとり教育と学力低下問題に関する論議が活発に行われており、教育論争花盛りの趣がある。
 しかし、議論は混迷を深めるばかりで一向に収束しない。その主たる理由は、各論者が自らが望ましいと思う社会像を提出し、それとの関係で現状の問題を考察していないからである。教育現場における問題は、各自の抱く価値基準(=望ましい社会像)からの逸脱として理解されるから、前述の手続きを無視した議論は、単なる犬の遠吠えの域を越えないことになる。
 本プロジェクトは、混迷の極みにある教育論争に終止符を打ち、具体的な実践に移行するためのたたき台を提出することに主眼を置いて展開されたものである。そのために、まず、望ましいと考えられる日本社会のビジョンを提起し、そのような社会に相応しい人間を育てるための教育のあり方を考察するという戦略的なアプローチを採用している。
 そのため、本プロジェクトでは、教育論争を追いかけるのではなく、現実に未来社会において必要とされる新しい教育の一端を担い日夜努力されている多くの現場をケーススタディーした。そこから教訓を抽出し、既存のシステムを脱構築する新たな初等教育のあり方を考察した。
 その際、今日の教育問題が、産業社会のパラダイムシフトによってもたらされている側面を考慮し、教育の問題を教育の世界に限定し自己完結して考えるのではなく、複合的有機的な社会問題の解決という視点からアプローチした。
 今後の国、自治体の厳しい財政制約を考えると、教育投資は大幅に後退するだろう。しかし、望ましい未来社会を実現するためのもっとも効果的な投資が教育であるという事実は変わらない。英国のブレア首相が、あるとき、記者から、優先順位の高い政策を上から三つ挙げろと問われ、「教育、教育、教育」と答えたのは正解なのである。
 このような視点から、本プロジェクトでは、文科省を始めとする各省庁の縦割り行政を超える立体的でダイナミックなアプローチを採用している。







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