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第2章 外国人犯罪の動向とその問題点
第1節 外国人犯罪の現状
 統計上も生活実感からしても、外国人による犯罪の増加が著しいことは明白である。まずその実態から分析せねばなるまい。
 はじめに統計資料をみてみる。(平成15年度の犯罪白書はまだ公刊されていないため、平成14年度のそれによるが、警察白書は平成15年の発刊にかかるものによる。)
1. 新規入国者数の傾向
 近来新規入国者が増加している。平成13年9月11日のアメリカの同時多発テロの影響によるものか、若干減少したのを例外としては平成12年までは増え続けてきた。それにしても平成13年でも422万人余の流入である。(もっともここでいう外国人とは日本国籍を有しない者を指すが、更に定着永住者、在日米軍関係者に加えて在留資格不明の者を除いた外国人をいう。)平成14年、平成15年も資料に乏しいため推測の域を出ないが、更に増加しているであろうことはたやすく推認しうるところである。
2. 新規入国者の国別動向
 ちなみに、新規入国者を出身地別にみてみると、アジア地域出身者の占める割合が高くて6割を越える。次いで北米地域、ヨーロッパ地域となっている。
 これを国籍別にみると、韓国が約100万人(総数の23.8%)で最高であるが、以下台湾約77万人、アメリカ約62万人、中国(香港、台湾を除く)が約22万人(5.3%)となっている。ちなみにこれを検察庁の受理人員でみると中国から順に韓国、朝鮮、南アフリカ、ブラジル、フィリピン、イラン、タイが多い。中国は検挙件数で49.2%、検挙人員で全体の45%を占めている。もっともここではいわゆる暗数は含まれないが、その中にこそ問題点(不法入国、集団入国、偽装入国)が存することは明らかといえよう。それ自体が犯罪である場合が多いが、更に入国後犯罪に走り易い要因を抱えた者達である。
3. 入国者の在留資格
 以上の入国数を在留資格別に構成比でみるといわゆる観光等を目的とする「短期滞在」がその殆どを占め(約91%)、興業(2.8%)、定住者(0.7%)、日本人配偶者(0.6%)、就学留学(合わせて1.2%)となっている。で、その者達のその後を推測すると平成14年1月現在の不法残留者数はあくまでも推測値であるが、22万4千人程とされており、減少傾向にあるといわれている。だが、我々の社会生活上の体感、司法にかかわる者の一人として言えばかなりの暗数があるやに窺える。つまりは実数はそんな程度ではあるまいと言っても過言ではないであろう。
4. 刑法犯検挙件数
 外国人の国内における犯罪総動向をみてみよう。一言にしていえば、平成2年を底に増加に転じ、平成11年に過去最高の3万6382件となったが、12年、13年と若干減少している。平成14年以降は年間1万人を越える検挙数が続いているが、13年に至っては前年比8.5%増の930人の増加となり、1万8893人となっている。外国人の占める比率はわが国の刑法犯検挙人員数に占める割合のうち3.7%の由である。しかも来日外国人がその他の外国人よりも増加している。
5. 犯罪別状況
 犯罪別でみてみよう。来日外国人による犯罪のうち主要な窃盗、入管違反、覚せい剤、麻薬等の違法薬物関係の法令違反、売春防止法違反などをみてみると、一番多い泥棒は平成5年に急増、11年に最高を記録し、その後は減少に転じている模様であるが、14年、15年の統計値は定かではない。
 これを手口別でみてみると、8年から10年はいわゆる手物盗(スリ、置引等)の増加が目立ったが、11年からは非侵入盗(車上狙い、ひったくり等)でなく、侵入盗(いわゆるピッキング等)の増加が著しい。入管法違反は平成13年に増加に転じ、これを態様別にみると、いわゆるオーバーステイが最も多く、次いでパスポート不携帯・提示拒否、不法入国等が多いことに注目する要がある。このところいわゆる「蛇頭―スネークヘッド」等の密航請負組織が関与する集団密航事件が激増し、その検挙人員は急増している。薬物犯も急増し、売春防止法違反は減少傾向にあったが13年は前年比約52%増となっている。
6. 罪質別の状況
 次に検挙後の外国人犯罪者の処理状況であるが、起訴不起訴を決める検察庁レベルでみると、最近3年間の国籍等別新規受理人員は3年間を通じて挙げるならば、最も多いのは中国人であり、アジア地域の国籍等の者が8割以上と大部分を占めている。起訴人員の増加傾向は著しく、13年は前年比増で計1万5152人の起訴となっている。罪質別にみると刑法犯ではやはり窃盗が最も多く、次いで傷害、強盗、横領、文書偽造、殺人、有価証券偽造が多く、特別法犯では入管違反が最も多い。これはわが国と近隣諸国との賃金格差を背景として不法就労を目的とした外国人が不法に入国する、あるいは短期滞在のビザで入国してそのまま就労のため定着するということがある。更に覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反、麻薬取締法違反の順であへん法違反を加えた違法薬物事犯が約1割を占めている。起訴率でみてもほぼ同様となっている。
7. 犯罪要因
 犯罪の動機、原因等についてみてみる。統計資料はないが、裁判所における幾多の経験に基づく私見によると、貧困、言語、仕事、国民性、職場環境等主たる目的の挫折、短絡的な金儲け、が主たる近因のように思われる。遠因としては社会経済のグローバリゼーションが挙げられる。
 少しく例証を挙げて敷衍すると、日本語を習得して帰国すると高賃金が得られるとの考え、その勉強のため日本語学校に来て就学したが、出席日数が足らず就学ビザの更新をしてもらえず、帰国もならず不法滞在に至り所持金もなく窃盗に及んだという例。安直に、日本に行けば賃金が高く金を稼ぎ易いと思い来日したが、仕事が減ったあるいは無くなったことにより切羽詰ってひったくりをやった例。いわゆる3Kの仕事をみつけはしたが日本語がうまくできず職場の人間関係がはかばかしくなく勤務を辞めざるを得なかった例。違法薬物を持ち込んで売人として荒稼ぎをする例。働かずに日本の暴力団と組み、組織として行動する例。侵入盗をして根こそぎ物盗りをする例。不景気で建築業等勤め先が倒産し、次の仕事が見つからずに金銭に窮しひったくりから強盗までやる例。盗んだクレジットカード、キャッシュカードや預金通帳を用いてATMや銀行窓口、郵便局からこれら電磁的記録をスキミングにより不法に抜き取り現金を引き出して窃盗、詐欺を働く事例。日本に居て金儲けがしたいことから、結婚を偽装して在留資格を得ようとする例。パスポートを偽造し入国、仲間と共に特定の地域や職場で営利目的に覚せい剤麻薬等を売る例。など揚げれば枚挙にいとまがないほどである。総じてこれは働くよりも効率的に、つまり手っ取り早く利益を得る手段として犯行に加担するといった例が多い。このような考え方に立つのは例えば金儲けのためには手段を選ばない風潮がひろがり不正や犯罪が増加している社会から来ている人も少なからずいること忘れてはならない。幸い人種偏見等特定の感情から邦人に排斥されて職を失い、犯行に及んだという例をわれわれが特にみないのは、日本人のひとの良さ、おおらかさ勤務を尊ぶ思想を示す一例ともいえよう。
8. 犯行の手口、態様等
 犯行の手口、態様等からみると、例えば外国人の犯罪、非行は巧妙な或いは手の込んだ方法で、根こそぎ盗みをするという例。車を利用して通行中の婦女子から強引に現金入りのバッグなどをひったくり、被害者に大怪我をさせる事例。などを挙げることができる。問題は、国内で犯罪グループ(高級車窃盗団、薬物の不法持ち込み・販売組織など、国籍や出身地別で形成される例が多い。)を作り、わが国の暴力団や外国に本拠を有する国際犯罪組織と手を結び、一体となって高級車を国外に移送してさばくため連続犯行を行う事例がある。おおきくいえばこれらのことは国際的な関心の的となっており、問題の解決のためには各国の連携や協力が不可欠ものが多い。最近の国際会議等における重要なテーマの一つともなっていることはその端的な表れといってよかろう。







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