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東京財団研究報告書2004-2 日本人の安全保障に関する新構想

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


 東京財団研究推進部は、社会、経済、政治、国際関係等の分野における国や社会の根本に係る諸課題について問題の本質に迫り、その解決のための方策を提示するために研究プロジェクトを実施しています。
 
 「東京財団研究報告書」は、そうした研究活動の成果をとりまとめ周知・広報(ディセミネート)することにより、広く国民や政策担当者に問いかけ、政策論議を喚起して、日本の政策研究の深化・発展に寄与するために発表するものです。
 
 本報告書は、「日本人の安全保障に関する新構想」(2003年7月〜2004年1月)の研究成果をまとめたものです。ただし、報告書の内容や意見は、すべて執筆者個人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。報告書に対するご意見・ご質問は、執筆者までお寄せください。
 
2004年7月
東京財団 研究推進部
 
[プロローグ 「民営化された戦争」としてのイラク戦争]
 2003年3月にアメリカが開始したイラク戦争は、最先端のハイテクを駆使した21世紀型の新しい戦争として知られている。確実にターゲットを一撃する精密誘導兵器や最前線の状況をネットワークで瞬時に司令部に送るハイテク機器の数々が、テレビの映像を通じて全世界のお茶の間に届けられたのは記憶に新しい。
 しかしその一方でこの戦争は、「最初の民営化された戦争」として一部の専門家やメディアの関心を引いた。この戦争の準備や遂行段階ではおよそ20,000人の民間人が戦争遂行に不可欠な任務に加わっていたと言われ、それは連合軍の兵士たちの居住地の運営や食事の供給といったサービスにとどまらず、例えばB-2ステルス爆撃機やF-117ステルス戦闘機や無人探索機「グローバル・ホーク」を含む米軍兵器システムの30%近くのメンテナンス業務であったり、コンピューターや通信システムの操作といった前線での仕事も含まれていた。また元軍人の民間契約者たちがカタールの米軍基地の警備やクウェートのドーハ基地における米兵たちの訓練、それにイラクに侵攻する米軍の兵站部門も担っていたのである。米軍の後方業務にはこのような民間の業者が多数参加しており、今や民間企業なしに米軍は戦争を出来ないほどに「戦争の民営化」は進んでいる1
 またフセイン政権崩壊後のイラクにも、驚くほど多くの民間の契約者たちが治安維持やイラク新政府の組織造りに携わっている。例えば南アフリカのエリニーズ・インターナショナル社は連合軍暫定当局(CPA)から、イラクの140ヶ所の石油関連施設を警備する仕事を3,950万ドルで請け負い、6,500人のイラク人たちを石油パイプラインや精製施設、水道や電力施設の警備のために訓練している2。またイギリスのグローバル・リスク・ストラテジー社は、イラクの石油パイプランや要人警護、国連施設の警備のために500名近い平和維持活動の経験のあるフィジーの元軍人たちをイラクに送り込んでいるし3、2004年1月には、約500人の元インド陸軍の軍人たちが、米陸軍のために働くクウェートの企業にリクルートされ、治安要員としてイラクに派遣されることが明らかになった。米政府はインドのバジパイ政権に対して平和維持部隊をイラクに派遣するよう要請していたが、インド側は事実上この要請を断っていただけに、このインド元軍人たちのイラク入りは関係者の注目を集めた。
 復興事業に取り組む民間企業も自前で安全を確保しており、イラクの電力システムや水道供給などの基幹産業の復旧事業を請け負った米ベクテル社は、自社の社員や施設の警備、それに治安情報収集のためにイギリスのオリーブ・セキュリティ社と契約し、100名を超える英陸軍特殊部隊SAS(特別空挺連隊)の元隊員たちを雇っている4
 さらに新生イラク軍創設に向けて4,800万ドルの契約の下、イラク人たちに軍事訓練を施しているのは、アメリカのビネル社やMPRI社といった民間企業だし、イラク人警察官たちの訓練を請け負っているのはダイン・コープ社という別の米企業だ5
 こうして見てみると、正規軍人の増員を押さえたい米政府の思惑と各国からの増援が思うように進まないという状況の中で、そのギャップを埋めるために「民間人」が世界中から借り出されている構図がよくわかる。米軍としても、他国の軍隊に加えてそうした民間の元軍人たちに施設の警備やイラク人の訓練などを任せれば、自分たちは反米ゲリラ勢力の掃討作戦に専念できるため、こうした動きを歓迎しているように見える。
 このように民間セクターは今や戦争、占領や治安維持活動といった伝統的に国の軍隊だけが担当していた業務に深く参入している。「戦争の民営化」はわれわれの想像をはるかに上回るスピードで進められているのである。戦場におけるこうした民間契約者の割合は、1991年の湾岸戦争時には戦場にいる全軍人の100人に1人程度であったのが、今回のイラク戦争では実に10人に1人という割合にまで膨れ上がっている。現在イラクでは安全保障・警備要員だけでも民間契約者の数は10,000人とも20,000人とも言われており(正確な数は不明)、9,900人という米軍に次ぐ兵力をイラクに投入しているイギリスをも上回っているため、「ブッシュ政権にとってもっとも信頼できる有志連合は民間の軍事・安全保障企業だ」というジョークもあるほどである6
 このように世界の戦地、紛争地、危険地域には、プライベート・ミリタリー・カンパニー(PMC)と呼ばれる軍事・安全保障企業が、密かに「その道のプロたち」を送り込むビジネスを展開している。PMCとはつまり、戦争に関連するさまざまなサービスを提供するビジネス組織であり、通常、軍事的な特殊技能や戦闘技術、戦略的な計画能力、情報収集能力、リスク・マネージメントやアセスメント能力、危機管理能力、戦地・紛争地・危険地域における事業の様々な支援・訓練・技能を提供する企業組織のことである7
 世界でこのような「戦争の民営化」が進められている背景は何なのか。そしてこの民間の軍事・安全保障企業は、世界の安全保障環境にどのような影響を与えているのか。
 本稿の第1章では、古代から存在する傭兵から今日のPMCまでの歴史的系譜を辿り、第2章ではプライベート・ミリタリー・カンパニー(PMC)と呼ばれる民間の軍事・安全保障企業が誕生した構造的背景を分析し、PMCをいくつかのタイプに分類しながらこのユニークな業界を概観する。そして第3章ではPMCの活動を具体的なケーススタディを通じて紹介し、第4章ではPMCの問題点を指摘すると共に、今後の可能性についても展望してみたい。そして第5章以降では21世紀の新しい安全保障環境において、日本人が民間の力を活用しながら安全保障を向上させる道を探っていく。第5章では日本人が現在国内外で直面している危険や脅威を分析し、第6章では国際的なPMCの登場を踏まえて、日本人の安全保障を向上させるために民間でどんなことができるのか、いくつかの具体的な可能性を探ってみたい。
 

1 Marc von Boemcken, The Business of War, Peace & Conflict Monitor, 15 December 2003, (http://www.monitor.upeace.org/innerpg.cfm?id_article=121)
2 'Extra guards for Iraq oil sites', The Australian Brisbane Courier, 19 August 2003.
3 Malakai Veisamasama. 'Fijian ex-peacekeepers to boost security in Iraq', Reuters, 5 September 2003.
4 Joh Ashworth. 'Ex-SAS protect firms in Iraq'. The Times, 21 July 2003
5 Jim Vallette and Pratap Chatterjee. Guarding the Oil Underworld in Iraq, Corp Watch, 5 September 2003
6 Ian Traynor. The privatisation of war, The Guardian , 10 December 2003
7 P. W. Siger. Corporate Warriors, The Rise of the Privatized Military Industry. (Cornell University Press, New York, 2003) p.8







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