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第3章
大学における教員免許状取得希望大学生に対する教職科目への
障害児教育関連科目の設定状況
1. 目的
 各大学が教職科目の中に、障害児教育関連科目をいかなるかたちで設定しているのかについて把握することを目的とした。
 
2. 方法
(1)対象
 教職課程を有する4年生の大学全530大学であった。内訳は、国立79大学、公立43大学、私立大学408の計530大学であった。
(2)方法
 郵送法調査。
(3)内容(資料2参照
(1)教職科目における障害児教育関連科目の設定の有無
(2)授業科目名
(3)区分
(4)対象学年
(5)必修・選択の有無
(6)授業内容
(7)障害児教育関連科目の見直し状況
(8)障害児教育関連科目の設定状況に対する満足度
(4)実施時期
 平成15年9〜10月。
 
3. 結果及び考察
(1)回収率
 389大学より回答があり、回収率は73.4%であった。
(2)教職科目への障害児教育関連科目の設定状況
 教育職員免許法施行規則では、教職科目の「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程を含む)」(以下、「発達・学習」と略称する)の仲に障害に関する科目を設定し、必修化しなければならないとされている。この観点から分析した結果を示したのが表3-1である。なお、分析に際しては、国立教員養成系大学(以下、「教員養成大学」<44大学>)、小学校課程があるその他の国立私立大学(以下、「小有大学」<32大学>)、小学校課程が無いその他の国公私立大学「小無大学」<313大学>)に分けてみた。
 法令に従い、「発達・学習」に障害児教育関連科目を設定し、必修化しているのは全体の26.7%であり、約4分の3の大学が法令を遵守していないことが明らかとなった。特に、「教員養成大学」においても34.1%と約3分の1に留まっているのは大きな問題であろう。「発達・学習」以外で科目を設定し、必修化している大学を合わせてみても、「教員養成大学」では6割を越えてはいるものの、全体でみると4割に留まっていた。また、障害児教育に関する科目が全くないと回答した大学が、全体で4割近くあり、この傾向は小学校課程がない大学において顕著であった。以上の結果を総合すると、大学生の多くが、障害児教育についての講義を全く受けることなく教員免状を取得している可能性があるといえよう。
 
表3-1 法令義務遵守・違反の状況(%)
  教員養成 小有 小無
「発達・学習」に設定し、必修 15 (34.1) 10 (31.3) 79 (25.2) 104 (26.7)
「発達・学習」に設定し、選択 4 (9.1) 5 (15.6) 10 (3.2) 19 (4.9)
「発達・学習」以外で設定し、必修 12 (27.3) 3 (9.4) 41 (13.1) 56 (14.4)
「発達・学習」以外で設定し、選択 6 (13.6) 3 (9.4) 9 (2.9) 18 (4.6)
全く無し 6 (13.6) 5 (15.7) 143 (45.7) 154 (39.6)
不明・未記入等 1 (2.3) 6 (18.8) 31 (9.9) 38 (9.8)
44 (100) 32 (100) 313 (100) 389 (100)
 
(3)障害児教育関連科目の実態
 教職科目の中に障害児教育関連科目を設定していると回答した197大学で設けられていたのべ科目数は、338科目であった。以下、この338科目について、その実態を見ていくことにする。
 
(1)「単独・一部」と「必修・選択」からみた状況
 表3-2は、各科目が、「障害児心理学」のような名称で、障害児教育単独の科目として設定されている(以下「単独」と略称する)のか、「心理学総論」のような科目の一部で障害児教育の内容が扱われている(以下「一部」と略称する)のかという観点と、各科目が「必修」「選択」のいずれとして設定されているのかという観点からまとめたものである。
 「単独」の科目は79科目と23.4%に留まっており、「一部」の科目が4分の3以上を占めていた。「必修」「選択」別でみてみると218科目と64.5%が必修となっているが、その内訳は「一部」が199科目と9割以上を占めていた。「単独」で「必修」なのはわずか19科目に過ぎなかった。大学生は「必修」とされている科目を受講しても、一部でしか障害児教育関係が扱われていないため、障害児教育に関する十分な知識を得るまでには至っていない状況が推察された。
 
表3-2 障害児教育関連科目の単独・一部別と必修・選択別内訳
  必修 選択 不明
単独 19 48 12 79
一部 199 47 13 259
218 95 25 338
 
(2)各科目が設定されている分野
 教職科目については、教育職員免許法第5条別表第1において、分野が設定されている。表3-3は、障害児教育関連科目がどの分野で設定されているのかを、「単独」と「一部」別に示したものである。
 法令に従い、「発達・学習」に設定されている科目は全体で47.6%であり、半数に達していなかった。「単独」と「一部」による差異は見られなかった。障害児教育に関する内容を「発達・学習」に含めるという規定に従い、科目の設定分野を多くの大学が検討する必要があるといえよう。なお、「発達・学習」に次いで、「教育相談の理論及び方法」が多かったが、これは、後述する「不登校」を扱う科目がこの分野に設定される場合が多いことが反映されていると考えられる。
 
表3-3 各科目が設定されている分野
  単独 一部
幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程 38 (48.1) 123 (47.5) 161 (47.6)
教育相談の理論及び方法 0 38 (14.7) 38 (11.2)
教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想 15 (19.0) 15 (5.8) 30 (8.9)
教職の意義及び教員の役割 4 (5.1) 23 (8.9) 27 (8.0)
教育の方法及び技術 9 (11.4) 8 (3.1) 17 (5.0)
生徒指導の理論及び方法 0 13 (5.0) 13 (3.9)
教育に関する社会的、制度的又は経営的事項 0 7 (2.7) 7 (2.1)
教育課程の意義及び編成の方法 3 (3.8) 3 (1.2) 6 (1.8)
保育内容の指導法 3 (3.8) 2 (0.8) 5 (1.5)
総合演習 0 5 (1.9) 5 (1.5)
幼児理解の理論及び方法 2 (2.5) 2 (0.8) 4 (1.2)
道徳の指導法 0 2 (0.8) 2 (0.6)
特別活動の指導法 0 2 (0.8) 2 (0.6)
教員の職務内容 0 1 (0.4) 1 (0.3)
進路選択に資する各種の機会の提供 0 1 (0.4) 1 (0.3)
各教科の指導法 1 (1.3) 0 1 (0.3)
進路相談の理論及び方法不明 0 1 (0.4) 1 (0.3)
不明 4 (5.1) 13 (5.0) 17 (5.0)
79 (100) 259 (100) 338 (100)
 
(3)取り扱っている障害の種類
 表3-4は、各科目が取り扱っている障害の種類を、「単独」と「一部」別に示したものである。全体的にみると、ほとんどの障害種で、「単独」の方が「一部」よりも割合が高く、「一部」の科目では内容的に不十分にならざるをえない状況にあることが看取された。
 障害別にみると、知的障害が最も多く、全体では67.2%の科目で取り扱われており、「単独」の場合は100%となっていた。これは、障害児の内、知的障害が最も多いことを考えれば妥当であるといえよう。次いで、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)が57.1%となっており、近年、問題となっている軽度発達障害について扱う科目が多くなっていることが明らかとなった。
 さて、今回の調査では、近年、不登校の児童生徒が病弱養護学校に在籍するケースが増加していることを踏まえて不登校を選択枝として挙げたが、学校教育法等では明示されていない項目である。「単独」と「一部」を比較してみると、不登校のみが「一部」の方が「単独」より割合が高くなっていた。(2)で、「教育相談の理論及び方法」に設定される場合が2番目に多いと言及したが、そのほとんどが不登校しか扱っていない科目であった。それ故、こうした科目を、本来の意味での障害児教育関連科目とはいえない科目とみなした場合、大学生が障害児に関する講義を聴講する可能性は、先に述べた数値より低くなるとみなすことができる。
 
表3-4 取り扱っている障害の種類(複数回答)
  単独(N=79) 一部(N=259) 計(N=338)
知的障害 79 (100) 148 (57.1) 227 (67.2)
LD、ADHD 64 (81.0) 137 (52.9) 201 (59.5)
自閉症 67 (84.8) 126 (48.6) 193 (57.1)
情緒障害 63 (79.7) 105 (40.5) 168 (49.7)
聴覚障害 62 (78.5) 82 (31.7) 144 (42.6)
運動障害(肢体不自由) 65 (82.3) 79 (30.5) 144 (42.6)
視覚障害 63 (79.7) 78 (30.1) 141 (41.7)
不登校 12 (15.2) 124 (47.5) 136 (40.2)
言語障害 53 (67.1) 59 (22.8) 112 (33.1)
重度・重複障害 54 (68.4) 58 (22.4) 112 (33.1)
健康障害(病弱) 42 (53.2) 65 (25.1) 107 (31.7)
行動障害 29 (36.7) 58 (22.4) 87 (25.7)
その他 7 (8.9) 48 (18.5) 55 (16.3)
 
(4)対象学年
 表3-5は、各科目の対象学年を示したものである。対象とする学年は、「2、3年次」等とされる場合もあるので、実際の科目数よりも多くなっている。2年次が最も多く、全体の約6割を占め、次いで、3年次(39.6%)、1年次(35.5%)、4年次(23.4%)の順となっていた。4年次では遅すぎ、1年次では早すぎ、大学入学後1年が経過した2年次当たりに学習するのが適当であると考えている大学が多いことが察知された。
 
表3-5 対象学年
  単独(N=79) 一部(N=259) 計(N=338)
1年 22 (27.8) 98 (37.8) 120 (35.5)
2年 44 (55.7) 157 (60.6) 201 (59.5)
3年 33 (41.8) 101 (39.0) 134 (39.6)
4年 25 (31.6) 54 (20.8) 79 (23.4)







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