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4. 提言
(1)日台FTA交渉を直ちに開始せよ
 2003年10月のAPEC(アジア太平洋経済閣僚会議)で中川経済産業大臣は日本が香港、台湾とFTA交渉を行う意図を表明した。中国と台湾はほぼ同時期にWTOに加盟している。したがって、WTOの規約内で、加盟国・地域間のFTAは合法であり、可能である。中国は、日台交渉そのものを“中国の一部である台湾”の独立に手を貸す行為として猛烈に反対するだろう。しかし、日本政府は、気にすることはない。WTOの傘の下での合法的交渉であり、異議があれば、WTOに提訴せよ、と突っぱねるだけでよい。もし、中国が、非常識・違法な妨害行為に出た場合、逆に日本がWTOに提訴することができる。
 APECには中国、香港、台湾が対等な立場で加盟している。したがって、地域包括的な自由貿易協定が締結されるなら、そこに台湾が加わることは可能である。
 日台FTA交渉スタートのメリットは大きい。第一に、両国間にはアジアの他の国々とのような貿易自由化に伴う障壁が最も低い。日本の弱点である農業での競合も少ないし、工業面での相互依存関係は、すでに深化しており、自由化によって、不均衡が増大するという懸念は台湾側には少ない。FTA締結による日台経済関係の強化は双方に飛躍的な利益拡大をもたらす。交渉を始めれば、短期間で合意に達するだろう。台湾は日本と並んでアジアで最も民主化の進んだ国であり、契約の履行において、信頼度も高い。第二に、日台FTA交渉開始は日本と他の国々とのFTA交渉を促すきっかけとなり、日本にならってASEAN諸国が台湾との経済関係強化に道を開く可能性もある。
 
(2)「日台安全保障フォーラム」を設立せよ
 海洋国家である日本、台湾は安全保障の面で共通の課題を抱えている。中東からの石油輸送ルートの安全確保、マラッカ海峡やインド洋、東シナ海などの海賊対策、さらには海難事故対策など、日台両国は緊密に協力してこれらの難題にあたるべきである。そのための安全保障フォーラムの設置を提案したい。そこでは共同訓練も欠かせない。またそのフォーラムには、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国などの参加も歓迎する。
 2003年12月、海上保安庁はシンガポールと合同海賊対策訓練を実施した。こうした訓練にはぜひとも台湾を加えるべきである。なぜなら台湾を外した地域的に穴開きの海賊対策は海賊に抜け道を提供するようなものだからである。
 2002年から自衛隊高官OBと台湾国防省高官との間で、制服組交流対話が続けられている。その交流を二国間ではなく、日米と米台を連結させる形で、実質的に日米台会議として定例化することもできる。つまり日米の会議に台湾からオブザーバーが参加し、米台の会議に日本からオブザーバーが参加すればよいわけである。日米台三者間での情報交流密度の向上と、相互の人的接触は、アジア・太平洋地域における信頼醸成措置の一環と位置づけることができる。
 また、海難救助訓練や海賊対策など、いわゆる軍事には含まれない安全上の協力体制づくりでは具体的な協力体制の構築と訓練の実施が求められる。これらは両国にとって現実的な課題であって、すぐにでも取り組みを始めるべきことであろう。また、震災などの自然災害への対処についても、相互に支援できる体制を構築し、あるいは情報、技術上の交流が行われることは、両国国民の平和で安全な生活を維持する上で必要かつ有益なことである。
 阪神淡路大震災時には当時の陳水扁台北市長が訪日し、台湾大地震では石原都知事が支援を申し出たが、災害が発生してから可能な人道援助の実施を申し出るばかりでなく、平時に協力してより効果的な対処を検討しておくべき課題である。これらは人命尊重のための緊急活動であるからこそ、日ごろから必要な訓練があれば、双方協力して実施しておくことが望まれる。
 安全保障とはいっても、かならずしも力の行使を前提としたものに限らない。疫病の蔓延、環境汚染、台風情報の交換、原発事故による放射能拡散への共同対処といった国境を越えた、広い意味での地域協力体制も含まれるだろう。東大医科学研究所の新井賢一教授は、アジア太平洋バイオテクノロジー・ハイウェーを提案しているが、その構想には台湾を含む14ケ国・地域が入っている。
 
(3)政府・政治家交流のレベルアップを図れ
 2005年秋、日本企業の全面協力で、台湾新幹線が完成する。高速鉄道の売り込みには、仏独の経済閣僚も台湾詣でをしたが、日本は経済閣僚どころか、通産省課長すら訪台しなかった。それでも李登輝総統の尽力で日本が落札できたのである。日本政府の中国に対する遠慮は度を越していた。
 日本の国会議員の訪台交流は与野党を問わず、かなり行われている。昨年から政府も課長以上の訪台を許すようになったが、まだ局長クラスの訪台はない。また、台湾からの要人を政府庁舎に迎え入れることにも躊躇があるようだ。民間の経済協力はうまく機能しているが、政府がバックアップすることで、民間はより安心して、活動ができる。経済、文化交流を公的機関は堂々としてほしい。
 
(4)「日台文化交流センター」を設立せよ
 大陸問題研究協会は1973年以来、台湾の研究者らと中国大陸、アジア太平洋の政治経済、国際関係などについて、意見交換を行ってきた。同様に、両国の学校教師による教育交流も続けられている。日台囲碁愛好家による交流もある。そうした交流の範囲を広げ、それぞれの分野で交流と相互信頼を深め、永続させるために「日台文化交流センター」の設置を提案する。含まれる分野は、学術、教育、音楽、新聞・放送、出版、映画、スポーツ、囲碁将棋、観光その他。日本台湾双方にセンターを設立し、日本のそれは独立法人とする。民間団体自前の交流では息切れしかねないため、運営資金のおよそ半分を公的補助でまかなう手立てが望ましい。
 
(5)国際組織への台湾加盟を積極的に支援せよ
 SARS騒ぎが起きた2003年春、WHOに加盟していない台湾はWHO情報へのアクセスができず、そのことが台湾のSARS蔓延を許したばかりか、日本への伝播不安をかきたてた。台湾のWHOオブザーバー参加申請が毎年繰り返されているが、台湾を自国領と主張している中国の妨害にあって、却下され続けている。しかし、疫病は国境を越えて広がる。台湾の地位問題とは切り離して、台湾をWHOに加盟させるべきである。台湾のオブザーバー加盟申請は中国の影響力下にある総務委員会で却下され、総会の議題にすら載せられなかった。日本政府はまず総務委員会のメンバー国に働きかけて、議題とさせ、総会で可決されるよう、力を尽くしてほしい。台湾加盟を政治問題化させてはならない。それは台湾のための運動ばかりでなく、日本自身の問題であり、世界全体の問題でもあるからである。
 2003年初冬、東京で核・生物兵器などの大量破壊兵器を封じ込めるための「アジア不拡散協議」の初会合が開かれた。ASEAN10カ国と日本、米国、韓国、オーストラリアの14カ国の担当省庁局長級が参加している。しかし、かかる物資の輸送ルートを扼する台湾を除外したのでは効果のほどは疑わしい。日本政府は次回、台湾当局者を会議に招待すべきである。
 中台間の直接政治にかかわらない国際機関から台湾を除外することは国連憲章の精神に背く。日本はIAEA(国際原子力機関)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)などへの台湾参加を促す外交イニシアチブをとるべきだろう。中国の圧力に屈して、APECにおける台湾の差別的扱いも問題である。APECシアトル会議で初めて、首脳会議が行われ、そのときクリントン米大統領は中国に気兼ねして台湾の首脳を招かなかった。その慣例が続き、APEC首脳会議では台湾のみが格下の代表しか送れないという不自然さが続いている。
 
(6)外国人登録証に「台湾」を明記せよ
 在日台湾人はなぜか外国人登録証の「国籍等」の欄に一律に「中国」と記載されている。「中華人民共和国」でも「中華民国」でもない。台湾人には中国の主権が及んでいないのだから、即刻、「中華民国」か「台湾」と表記を改めるべきである。「一国二制度」下の香港人の国籍は中国であるにもかかわらず、国籍欄には「香港」と記載されているのである。
 最近激増している外国人による犯罪で、最も多いのが大陸から来た中国人、それも密入国、不法滞在者の犯行である。問題はその犯罪統計の中に、台湾出身者が「中国人」として含まれていることである。台湾からの不法入国者も台湾人犯罪者も極めて少ない。にもかかわらず、犯罪統計で、台湾人は中国人として数えられ、諸手続き、検問などで、ときに不愉快な思いをさせられている。
 
「アジア島国紐帯強化(日台編)」提言プロジェクト
澤 英武 プロジェクト・リーダー、外交評論家
高野邦彦 大陸問題研究協会会長・高千穂大学前学長
日暮高則 千葉商科大学非常勤講師
何 思慎 台湾・輔仁大学副教授
浅野和生 平成国際大学教授
 
協力 大陸問題研究協会
 
アジア諸国・地域の一人当たりの国内総生産
出典:世界年鑑2003年版







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