《中国軍事大国化の野望》
中国の2002年度の国防費は、翌年の全人代において、252億元(人民元)増加し、伸び率は17.6%増であると報告されたが、国防予算の総額は明示されなかった。国防予算は89年以来、14年連続で10%以上の伸びを示しているが、2002年度は、ここ数年で最高の伸び率となっている。このように軍事大国化の道をひた走る中国の現状は看過できない。中国政府はことあるごとに、「日本が右傾化し、軍事大国化の傾向を見せている」と指摘している。最近の事例でも、日本領海を侵犯した北朝鮮工作船を日本が引き揚げようとすると、中国は強硬な反対姿勢を見せた。そうした際には、日本の軍事大国化とか領土的野心に言及して対日牽制を繰り返している。
しかし、軍事大国化の野心に燃えているのは、実は中国に他ならないのではないか。たとえば、このところ中国とロシアの間では軍事面での協力が急ピッチで進んでいる。2002年2月に調印された「中ロ軍事協力15年計画」を皮切りに、共同演習や軍事代表団の相互訪問が増え、ロシアからは最新鋭のハイテク兵器の対中輸出が目白押しとなっている。両国は兵器の共同開発や製造にも合意し、ロシアが技術と素材を提供している。それに対して、中国は研究開発費の一部として20億ドルを拠出することを明らかにした。
《究極兵器開発の中国に、日本は6兆円の援助》
中国の軍事力強化の中でも世界の軍事専門家の間で注目を集めているのが、2002年に製造が始まったとみられる「電磁波ミサイル兵器」の開発である。すでに中国国内の北西部地域では、その実験が繰り返し行われている模様である。この種の兵器は、電気系統をすべて機能マヒに陥れることができる。つまり、コンピュータはもちろん、電気に依存するあらゆる機械を狂わせる「究極の武器」に他ならない。いったい中国はそのようなハイテク兵器を、どこに向けて使おうというのであろうか。中国の軍事文献を検討すると、その使用対象として想定されているのは、米国、日本、台湾であることが明白である。
米国防総省がまとめた「中国の未来戦争論争」(2000年1月)は、中国の内部資料約600件を精密に分析した報告書であるが、その結論は「中国は米国が2030年に国力のピークに達し、その直後から米国の影響力は急速に低下すると予測しており、米国と事を構えるチャンスはその時である、と中期的な対米戦争シナリオを準備している。緒戦は台湾海峡を巡って起こるだろうが、戦線はグローバルに拡大する可能性が高い。この戦争を勝利するためには相手のコンピュータ・ネットワークを破壊する電磁波攻撃が欠かせない」というものである。
そのような究極の破壊兵器の開発に本気で取り組んでいる中国に対し、日本はこれまで20年以上にわたって、ODA(政府開発援助)など総額6兆円もの対中援助を提供してきた。
《国交なき日台関係の拡大と協力》
「中国と国交を結べば、日本は台湾との貿易を途絶するのではないか、と思った」。台北の文化大学でジャーナリズム論の講座を持つ黄天才教授は、日本が中国と国交を回復し、台湾と断交した30年前を振り返って、そう語った。当時、黄氏は台湾の国民党機関紙「中央日報」の東京特派員として断交の瞬間を目撃し「日本に憤慨する気持ち」を抑えられぬまま何本もの記事を台北に送った。
30年前(1972年)の台湾は、生産設備や部品、原料の大半を日本から輸入し、加工した製品を欧米などに輸出して外貨を稼ぐという、対日依存度の高い貿易構造だった。こうした経済事情を前提に、黄氏は「台湾は貿易パートナーに別の国を探すことができるか」と悩んだという。
しかし、黄氏の懸念は杞憂に終わった。30年前、年間14億ドルだった日台貿易は、断交10年後の1982年には5倍の70億ドルになった。さらに10年後の1992年には350億ドルと21倍に膨らんだ。2001年は386億ドルと30倍近くに拡大している。台湾にとって、日本は輸入で第一位の貿易相手国である。台湾と日本との経済的な結びつき、台湾にとっての日本の存在感は、断交当時よりむしろ拡大している。
人的交流も同様である。30年前は年間40万人ほどだった日台の往来が、2001年は177万8千人と4倍以上に増えた。「今思えば国交なき日台交流の30年間は歴史の不思議だ」と黄氏は言う。
これに対して、日本にとっては、中国の方が貿易相手国として大きな存在である。2001年の貿易は香港経由を除いても891億ドルと、台湾との貿易額386億ドルの2.3倍に上っている。ただし、輸出入の収支は、日中貿易が日本側の270億ドルの赤字なのに対し、日台貿易は日本の100億ドルの黒字である。しかも台湾は、この対日貿易赤字の削減を求める行動に本気ででたことはない。「台湾全体としての貿易構造が重要なのであり、二国間収支を問題視する意味はない」(簡又新外交部長)との意識からである。
中国も台湾も、民族構成としては同じ「漢族」が住民の大多数を占めるが、その気質や対日感情は大いに異なる。小泉首相が靖国神社を参拝したとき、中国は抗議や非難を浴びせたが、台湾は正式な政府声明で、「寛容な精神、前向きな視野」をもってこれを直視すべきだと強調した。
《日台協力の安全保障テーマ》
以上の事情を総合的に考えれば、日台間の協力は、自由民主の価値の維持という目標からスタートし、安全保障を主軸とした具体的なテーマにおいて定着させていくべきだと考える。そのテーマには次のようなことが含まれる。
(1)争いを避け理解と信頼を強めるため、テロリズム対策や国際犯罪対策など両国間ないしは多国間の安全保障対話のシステムを確立する。
(2)台湾海峡においてスムーズな国際航路を確保するため、海賊対策、海上共同救助などの協力措置を推進する。
(3)台湾海峡の平和な現状を維持するため、情報交換や危機予防などの連絡体制を確立する。
(4)海洋資源を適切に利用するため、海洋環境保護などの国際経済水域開発管理行動計画を推進する。
安全保障の問題のほか、日台関係の協力はさらに全方位ですすめなければならない。なぜなら、両者の間では民主自由の価値が共有され、経済発展においても同じ経験を持っているからである。
未来を展望すれば、日米安保条約の伝統的な安全保障戦略が強化されるなか、我々は「自由、民主、平和、愛とハイテク」などのソフトな考え方を注ぎ入れ、太平洋のあらゆる民主国家と連携して、積極的にアジア太平洋地域の民主化と持続的な発展を推進して行くべきだろう。また、東アジア全域に、これまでの軍事対峙、強権競争とは異なる民主と持続的な発展の道を切り開いて、太平洋が再度戦火の広がる海にならないよう気をつけ、愛と平和に満ち溢れるソフトな海洋になるよう期待している。
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