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「アジア太平洋島国連携」研究プロジェクト 2003年度報告書

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


2章 国軍から分離した海上警備機関の重要性
 日本の海洋安全保障と海上治安の確保は、防衛庁と海上保安庁の機能分担により行なわれている。もちろん外交インフラが存在して安全保障は初めて成立するのであり、外務省が外交インフラを担うことを大前提にした議論であることは、言うまでもない。日本の場合は、国土防衛(ナショナル・ディフェンス)と沿岸警備(コーストガード)を分離し、防衛庁が前者の任務を担い、国土交通省の外局である海上保安庁が後者の役割を受け持つことで、理論上、明確な線引きがなされている。
 このため海上安全保障政策においても区分されている。防衛庁は、他国および他の勢力の日本への侵攻に備え大型の自衛艦を装備し、海上保安庁は、機動性を重視した小型から中型の巡視船を装備し、違法者の取締などの対応をおこなっている。
 海上保安庁は、日本の国内法の及ぶ海上を管轄域とし、警察権を持ち、治安の確保を中心に担当してきた。現在では、同庁の活動する範囲も国際化している。プルトニウム輸送船の護衛を担当し、欧州から日本までの航路において警備の任についた。また、日本関係船舶が数多く航行するマラッカ海峡を中心とする東南アジア海域に海賊が多発していることに対抗し、海賊対策活動をこの海域で行っている。具体的には、海賊対策専門家会合の開催、東南アジア海域への巡視船の派遣、沿岸国との共同連携訓練の実施などである。
 2001年12月に発生した九州南西沖海域北朝鮮工作船事件は、海上保安庁の業務に国民の注目が集めるきっかけとなった。
 この事件において海上保安庁は、国内法および国際条約に準拠した行動をとっている。違法者に対し法の遵守を求め、海上保安の維持を行うのは、海上保安庁の役割である。ただ本事件においては、威嚇射撃、正当防衛射撃と武力を行使する必要が生じ、実際に武器を使ったところが、以前と違っているところである。
 北朝鮮工作船事件においても、海上保安庁の国際化の進展が重要な役割を果たしている。海上保安庁では、韓国当局から事前に北朝鮮工作船の武装内容と行動様式の情報を得ており、また、中国当局は、日本の海上保安庁が中国の排他的経済水域内に入った後も継続追尾することを国連海洋法条約に基づき黙認している。これは、アジア諸国の海上警備機関相互の協力関係が進んでいる成果とも言えよう。
 アジア海域を取り巻く各国の海上警備体制は、日本とは異なり、伝統的には当該国の海軍を中心に構築されてきた。しかし、近年、一部の東南アジアの国々では、海上警備機関を海軍から分離し、独立した組織の創設を目指す方向にある。
 既にフィリピンは、海軍から分離独立した形でコーストガードを創設し、沿岸警備は、コーストガードの所掌としている。現在、フィリピン・コーストガードでは、人材育成に力を入れ、IMO(国際海事機関)の運営する世界海事大学へ積極的に留学生を派遣し次世代の指導者の育成を進めている。
 マレーシアの沿岸警備体制は、海軍、首相府国家安全保障局、海上警察、運輸省海事局、税関など多機関に役割分担され、機能が細分化している。また、その分担された職務が複雑に絡み合い、業務が重複しているところもあり、効率的な体制とは言えない。同国では、現在、海上警備機関の仕組みを見直す作業を進めている。沿岸3海里以内が海上警察、12海里から200海里が海軍、3海里から12海里の沿岸域を新設するコーストガードが所掌するプランが検討されている。2005年までには、沿岸警備機能を一元化したコーストガードを立ち上げる予定である。
 インドネシアではスハルト体制の崩壊後、海上警備を行っている国軍、海上航空警察、運輸省海運総局の三機関が共に機能不全に陥っていたが、沿岸域での海賊事件の多発、海上テロの脅威に備えるため、スシロバンバン・ユドヨノ前調整大臣を中心にコーストガードの新設が検討されてきた。
 密輸、密航、海賊、海上テロなどの海上犯罪は、複数国の領海および公海にまたがって発生する。犯罪組織も多国籍となっている。複雑化、国際化する海上犯罪に対処するためには、地域的な沿岸国間の協力が不可欠である。同じ国際法に基づき行動する必要がある。
 アジアの国々は、現在もなお幾つかの領土紛争や領海紛争を抱えている。マラッカ海峡内の中間線すら決まっていないのが実情である。隣接する国の軍同士の小競り合いが頻発している。歴史的に見ても数多くの軍事衝突が記録されている。例え海上犯罪の取り締まりといえども、複数国家の軍隊が同一の海域で行動することにはリスクがともなう。
 海上における国境紛争、民族・宗教衝突事件が多発しているマレーシア、インドネシア、フィリピン近海では、軍部の直接介入は軍事衝突に発展する恐れがあるため、警察権により、海上犯罪に対処しようとしているのである。また、軍部の腐敗が問題視され、新しい組織の創設を模索している国もある。
 このような状況の中、海上警備機関を軍部から切り離し、日本の海上保安庁をモデルとしたコーストガードの設立を望む国が増えている。
 海上犯罪に対し、海軍が関与すると軍事衝突を誘発し、国際摩擦をより先鋭化させる危険性を持つ。こうしたリスクを回避するためにも海上警備機関の強化が求められている。そして、各国の海上警備機関の連携強化は大きな役割を演じることが期待されている。
 日本の生命線とも呼べるアジアの海上輸送路の安全確保が、日本を中心的とした各国海上警備機関の連携により守られるならば、国益にかなうものであり、我が国としてもアジア各国のコーストガード創設の流れは支援すべきものであろう。
 
 東アジア海洋の安全保障が21世紀、ますます重要になるのは必至である。第1に、エネルギー需要増と通商の拡大に伴う輸送ルートの安全確保、第2は海賊およびテロに対する対策を強化するため、東アジア地域の各国が国際的な協力体制を強める必要がある。「アジア・コーストガード・アカデミー(アジア国際海上保安大学校)構想」の背景にはそうした問題意識がある。
 21世紀の東アジアの将来像を俯瞰するに当たって、最も大きな要因となるのは、中国とインドの大幅な経済成長ではないだろうか。歴代の米政権に近く、戦略的投資を行う投資銀行として知られるゴールドマン・サックス社はこのほど、2050年の経済大国は1位中国、2位米国、3位インド、4位日本、5位ブラジル、6位ロシアとの予測リポートを発表し、関係者の間で波紋を広げた。それに伴って世界的に、特にアジアで、エネルギー需要が拡大し、その輸送ルートの安全確保は、ますます大きな国際的課題となる。
 だが、問題は、東アジアの海洋安全保障を包括的に話し合い、具体的に前進を図れるような状況にないことだ。その機はいまだ熟してはいない。究極的に東アジア海洋安保の“レジーム”を目指すにしても、当面は段階的に成果を積み上げていくのが賢明と言えるだろう。
 その第一歩として、アジア・コーストガード・アカデミーの設置を提案したい。この構想は決して荒唐無稽な思いつきではない。
 当面、東アジア地域各国の海上警備機関の間で質的な格差が大きい。海洋の安全保障を確立するためには、段階的に協力体制の向上を図っていく必要がある。その第一段階として、アジア・コーストガード・アカデミーを発足させ、それを中核的な存在として、徐々に協力のレベルを高めていくことを志向すべきではないだろうか。
 当面のアジア・コーストガード・アカデミーの目的と意義、将来像として、以下の5点を挙げることができる。
 
(1)海上警備に当たる、国際的意識を持った人材を育成すること
(2)東アジア地域各国の海洋安保に関する問題意識を共有すること
(3)海賊、テロ組織に関する最新情報を共有すること
(4)海賊行為やテロを防止するための技術的手段の研究を深めること
(5)将来的に東アジア海域で海上警備の共同作戦を展開することを目指す
 
 東アジア諸国から、海上警備の向上に向けた有為な多数の人材を育成することによって、(2)、(3)、(4)、(5)へと段階を高めていくことが可能になるのではないだろうか。
 アジア・コースト・アカデミーの設置場所として、フィリピンが望ましいと考えられる。理由としては、以下の4点を指摘できよう。
 
(1)地理的な重要性
(2)海上警備機関の整備が遅れており、海洋安全保障への懸念が高まっている
(3)英語を公用語とし、外交関係上も各国の協力を得やすい
(4)すでに萌芽的なプロジェクトが実施されていて、これを発展させることが可能とみられる
 
 (1)については恐らく、全く異論はあるまい。フィリピンは西南太平洋の中央部にあり、地理的に国際貿易の“巨大な回廊”に位置している。中東から石油を輸送する超大型タンカー(VLCC)はここを通って、日本など東アジアの主要諸港に荷おろしされる。また、アメリカおよびカナダの西海岸から、コンテナ船がここをへて、シンガポールや香港などにも運ばれる。
 (2)に関しては、言うまでもなく、海賊、テロのほか、密輸や違法な漁業活動、密出入国などの違法行為が多々顕著になっている。フェリー事故や石油タンカー事故・石油漏れといった事故への懸念も強い。フィリピン・コーストガード(PCG)は、広い意味での海洋安全保障能力を向上させる必要性を痛感している。
 このような問題を背景に、日本の国際協力機構(JICA)と海上保安庁が連携して、2002年からフィリピンの首都マニラで、海上警備機関の人材育成のための技術援助をおこなっている。このプロジェクトは「PCG人材育成プロジェクト」と呼ばれており、アジア・コースト・アカデミー構想の萌芽的なプロジェクトと言える。
 JICAのチームリーダーは海上保安庁出身の田中耕蔵VADM(退役)で、すべての専門家は海上保安庁関係者。日本が蓄積した海上警備に関するノウハウを技術移転するとともに、PCGが必要とする人材育成のプログラム作成の任務を負っている。
 JICA派遣の海上保安庁専門家が、フィリピン運輸通信省のコーストガード・プロジェクト運営事務所、PCG本部、PCG教育訓練センターの3カ所にオフィスを置いて、緊密な関係を維持している。海洋安保をめぐる日本とフィリピンの協力と相互理解は高いレベルに達している。これまでも、こうした相互理解を基盤に、両国は海賊対策の合同演習を実施してきた。
 この萌芽的プロジェクトは二国間の人材育成のためのパイロット計画とも言えるが、将来的には、これをアジア・コースト・アカデミーに発展させることは十分可能である。そして、ここに東アジア諸国から留学生を受け入れて、多国間協力に発展させ、さらに、内容的にも、人材育成から、情報の共有、さらには東アジア海域で海上警備の共同作戦を展開できる体制を築き上げることも視野に入れるべきである。
 国際的な犯罪・テロ組織の活動が拡大し犯罪の態様が一層巧妙になっている。また、環境保護への各国の関心が高まっている。多国間の協力体制を構築し、しかも協力の内容を深化させていくことが求められていることは言うまでもない。







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