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「アジア太平洋島国連携」研究プロジェクト 2003年度報告書

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


はじめに
 本研究プロジェクトはアジア太平洋海域、とりわけ東アジア海域(西太平洋海域)における安全保障環境の整備・海上治安体制の確保を、日本や東南アジア諸国に代表される海洋国家や島国の協力・連携によって推進していくとの問題意識を有する。こうした問題意識を出発点に、本プロジェクトは東アジア諸国の海上警備機関(コーストガード)による協力・連携を深め、「アジア・コーストガード・アカデミー(アジア国際海上保安大学校)」の設立を提言するものである。
 しかもアジア・コーストガード・アカデミー構想の延長線上には、海洋の安全保障を沿岸(コースト)に限定するのではなく、海洋船舶の航路(コース)に注目して、「コース・ガード」の必要性があるのではないかとの将来展望も内包されている。「コース・ガード」構想は「コーストガード」構想をさらに深化させたものであり、今後は「コース・ガード」構想の実現可能に向けた十全なフィージィビリティー研究が、必要となる。将来において「コース・ガード」を構想するにしても、その大前提となるのは「アジア・コーストガード・アカデミー」の設立に他ならない。本アカデミーの設立と実績を基盤に、はじめて「コース・ガード」を具体的に構想することができるからである。
 アジア・コーストガード・アカデミー構想は、東アジア海域でのニーズを前提にしたものである。あくまで現実の海洋安全保障問題を反映した構想であり、決して机上の空論ではない。日本の構想力・資金力・指導力が三位一体となって、東アジア諸国との強力で実現できる可能性が高いため、国際商工会議所・国際海事局(ICC-IMB)、専門家、ロイズ・レジスターやビューロー・ベリタスなどの海洋安全保障エキスパート、アメリカ・イギリス・フランスなど安全保障の民間コンサルタント会社などから、高い関心を寄せられる可能性は十分ある。デッサン段階の本構想に対してでさえ、これらの専門化集団は一様に積極的な姿勢を示しているという現実がある。こうした反応を前にするとき、本プロジェクト構想は国際的にも優位性があり、高い関心を呼ぶことを予見させるものがある。
 本提言では、東アジア海域の安全保障や海洋安全保障という用語を使用している。日本における伝統的な用語法に従えば、防衛庁は「安全保障」を担当し、海上保安庁が「海上治安」を所管するという役割分担を踏まえた上で、これらの用語を区別しなければならない。しかし英語表記での区別は明確に存在せず、また近年では「人間の安全保障」という用語が注目を浴びるなど、安全保障概念は軍事的領域に限定されないようになっている。本提言では従来の用語法に囚われず、海上治安問題を広く安全保障問題として扱っている。
 
 日本列島から東シナ海、南シナ海を経てマラッカ海峡に連なる海域を、東アジア海域と呼ぶことにする。アメリカの視点からみた地理的呼称が、西太平洋海域である。島国である日本の安全保障にとって、広義のアジア太平洋海域は死活的な重要性をもつが、とりわけ東アジア海域はもっとも高い優先度が与えられてよい。東アジア海域は日本にとって石油、天然ガス、プルトニウムなどエネルギー資源の供給ルートであるばかりでなく、貿易立国である日本の生命線を形成する。
 日本では冷戦時代に、日本周辺における通商ルートの安全保障を確保する目的で、本土から沖縄方向とグアム方向に二本の航路帯(シーレーン)を設定し、海上自衛隊に1000海里程度のシーレーンを防衛させ、通商路を確保するという戦略を構想していた。また対ソ連戦略という視点では、三海峡(宗谷、津軽、対馬)を封鎖することも想定されていた。こうした日本のシーレーン防衛構想とアメリカの海軍戦略が重なって、リムパック(環太平洋共同海軍演習)が生まれることになる。
 日本は単独によるシーレーン防衛が困難であるとの前提から、日米同盟を活用したアメリカ海軍との共同作戦が不可避と考えていた。またアメリカ海軍はシーレーン防衛という観点からではなく、原子力潜水艦を中核勢力とするソ連の太平洋艦隊との戦闘作戦を前提に、海上自衛隊の活用を検討していたわけで、両者の思惑が見事に一致したのが、リムパックであったと解釈できよう。日本はあくまでリムパックをアメリカ海軍との二国間演習と位置づけ、日米同盟下の二国間演習と説明してきた。現実にはアメリカの同盟国である韓国、カナダ、オーストラリアなどが参加した多国間演習であり、日本は多国間演習フレームワークの中における二国間演習として、リムパック参加を説明してきた。
 こうした政府主導のシーレーン戦略を発展させて、原油の供給ルートを確保する「新たなシーレーン防衛論」が民間からも登場することになる。「新たなシーレーン防衛論」は、日本列島から原油供給拠点であるペルシャ湾までが、シーレーン防衛の対象となる。この長い防衛線には東シナ海、南シナ海、マラッカ海峡、アンダマン海、インド洋が展開しており、海上自衛隊で安全を担保できる物理的能力を遥かに越えていたため、必ずしも現実的ではなかった。
 新たなシーレーン防衛論を展開する上で最大の障害は、自衛隊の活用を前提にして、いかに周辺国から自衛隊活用の同意を取り付けることであった。しかし国内では憲法や自衛隊法をめぐる法解釈の問題が提起され、周辺諸国からは軍国主義復活への警戒感が惹起されるなど、新たなシーレーン防衛論は大きな進展を見ることがなかった。冷戦の終焉とともに、旧ソ連などを意識したシーレーン防衛論は歴史として語られるようになった。
 冷戦後の時代にあって、東アジア海域は新たな安全保障問題に直面するようになり、これに対応した新しい安全保障政策が求められるようになった。新たな安全保障問題とは、マラッカ海峡や南シナ海における海賊問題の発生であり、国際テロリズムによる海洋安全保障への脅威である。さらに民族・宗教紛争の激化による不安定化、小型兵器の密輸が常態化することによる安全保障環境の悪化で、東アジア海域は新たな不安定要因を抱えるようになった。
 もちろん上記の問題群は決して一国では解決できるものではなく、多国間レベルによる政策調整が不可欠である。これらの安全保障問題はその大半が沿岸付近や海峡で発生しており、遠洋で発生する件数は少ない。つまり沿岸警備の枠組みで、これらの安全保障問題を解決することになる。英語で「コーストガード」と呼ばれる海上警備機関は、冷戦後の東アジア海域で発生する安全保障問題に大きな役割を演じる立場にある。
 このように新たな安全保障問題で、極めて重要な役割を期待されているにもかかわらず、各国の海上警備機関における質的格差は甚だ大きい。各国とも海軍には大きな予算を配分しておきながら、海上警備機関に対しては抑制した予算しか配分せず、また人的資源も限られたものであった。例えばASEAN諸国(東南アジア諸国連合)を見る限り、優秀な人材は海軍に採られ、海上警備機関は限られた人材しか確保できなかった、というのが実情であろう。
 日本のようにレベルの高い海上保安官を、東アジアの海域国家に求めることは困難である。ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に限定してみると、シンガポールのように人材育成で高い成果を上げている国もあるが、大半のASEAN諸国は人材育成で困難を抱えているのが現状だ。各国の海上警備機関に見られる質的格差を縮め、東アジア海域で共同作戦が出来るような海上警備機関を各国で制度化し、人材を育成することが何より求められるのである。「アジア・コーストガード・アカデミー」は、こうしたニーズに応える構想として提起されたものである。







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