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「桃栗三年、橋一年」と地元も言っていた
 根本的な失敗は、計画と見込みが過大だったことです。こんな話をすると何時間でもあるのですが、有名なのはアクアライン。四国にかけた橋もそうです。計画したとき心の底から一日三万台通ると思っていたはずはありません。けれども、そういうことにしてやってしまったんですね。だかちけっきょく一日一万台です。
 そういうレポートを書いた学者もシンクタンクもだいたい顔見知りですが、私が深くはとがめないのは、日本中がそういうことで浮き足立っていたからです。
 例えば、四国に橋をかけたときは、地元の新聞社がはしゃいでシンポジウムを開く。この橋が完成したら観光客がどっと来て、お金が何百億円か落ちる。四国には工場が建ってたちまち橋はいっぱいになる。だから、建設費は三〇年で返せるとか、そういうことを言う人を集めてシンポジウムをやる。
 なんの間違いか私を呼んだ新聞社があって、こんな話をしたことがあります。「予言しておきましょう、橋ができても、お客が来るのは最初の一年間だけ。その後続けて来るリピート客は少ないし、工場も来ない。この橋はペンキの塗りかえ代も出なくなる」。そう話したら、すっかり総スカンをくらってしまいました。しかし、その後そうなった。
 付け足しておけば、地元の人はそのことは実は知っていたのです。なにしろ「桃栗三年、橋一年」と言っていましたから。
 観光客は一年間だけ来て、後はだれも来ない。それで二年目に県庁から私に依頼が来る。「どうすれば観光客が来てくださいますか、教えてください」と(笑)。それでこんなアイデアを話しました。たとえば香川県、徳島県、高知県から大阪へ行っている人はたくさんいる。そういう人がふるさとに帰りたいというとき、優遇措置を講じたらどうか。どうせ橋はあるのですから。大阪ナンバー、神戸ナンバーで、夏八月に来る人は半値にしたらどうだと言った。ふるさと訪問歓迎制度です。それをやるのは本四公団ですが、県庁が補助金を出せばいい。つまり地元負担を申し出ろ。多分一〇億円ぐらいなものです。
 計算をしてみて、なるほどそうだと思ってもやらない。私のアイデアに限らず、他のアイデアもやらない。何もしないのだから、利用する客は増えない。別にこれは香川県や徳島県や愛媛県の悪口を言っているのではないのです。
 日本中そうだから、困ったものです。
 橋は国家的なものだとか、国家事業だとか、地方の悲願だとかいろいろ言ったが、結局はぶら下がるだけです。香川県や徳島県や愛媛県の人は、国民としても地元民としても恥を知るべきです。同様に国会も官庁も納税者に謝罪すべきです。
 時間になってしまいましたので、駆け足で藤井さんへの反論をやりましょう。まず、やったことはすべて手続上、合法である。たまたま藤井という判こが押してあるが、別に私と関係ない。そのとき、そのポジションにいた人である、というのはお役所としてはまことにそうでしょう。
 しかし先ほど言ったように、税金のむだ遣いをしたという反省がない。そこは国民と大きくずれている。それから赤字と言わないのは、道路族の責任逃れのためではなく、小泉さんの民営化路線に協力するためだと思っているのでしょう。民間に売却するための粉飾です。
 それから、「波及効果があるぞ」と言ったが、それがなかったことは明白です。次に思い出すのは、技術温存説というのがありました。もう言わなくなりましたけれども、日本には海上架橋に関する世界最高の技術がある。これは、仕事を絶えずしていないと技術者の腕がなまる。「だから絶えず仕事を与える必要がある」と言うので、「では四国に三本かけ終わったら、どうするのか」と聞いたら、「韓国へかけよう」とか無茶苦茶を言っていました。その金は誰が出すのかと聞くと、「日本国は金持ちだから」。「アメリカからも二〇〇兆円ぐらい内需拡大せよと言われているではないか」と。
 その後、新しい懇談会に呼ばれました。「二〇〇兆円の財源はどこにあるかという研究会を今から始める」と言うのですから、呆れたものです。
 私は「簡単だ」と話しました。固定資産税から入ってくる。新財源の研究はいらない。公共事業をすれば、必ずその周辺の土地の値段は上がる。上がった地価の一・三%は自然に毎年入ってくるのである。そういう地元負担で取ればいいと言ったら、これは誰も取り上げてくれない(笑)。公共事業はするが土地の値段はきっと上がらない、と思っているからです。上がらないようなところにするのが、代議士のありがたみですからね。それから、道路予算を税の自然増収から分捕るのが狙いでした。
 こういう経済合理的な意見は通らない時代が二〇年も続いた。
 これに対して、小泉首相がいきなり「国費の投入はもうしない」と言ったのは、高く評価すべきです。これはもう行われているのです。
 国費の投入がないなら、もう新しい道路はつくれない。つまり、料金収入だけではつくれないということは、道路族の人はみんな一瞬にしてわかったことです。あとは、手品で道路収入の返済を遅らせるとかの、細かな話しかできません。
 民営化委員会では猪瀬直樹さんが一生懸命頑張っている。ああいう人が出てきたというのは、時代が変わったんですね。本当にそう思います。石原大臣は、目的は何なのかを自己決定して、それからよく説明すべきだった。それから最後に「藤井総裁、長い間ご苦労さまでした。しかし、もう時代は変わったのですから」と言って、花道をつくってやめてもらえば良かったのです。それを、首をとろうという態度で始めたのは不適切だった。そう思います。
 時間が超過して済みませんでした。道路にはもう一〇〇兆円ぐらいムダなことをしています。もちろん税金です。しかし、一〇〇兆円単位で日本国家がムダ遣いをしているのは、道路に限らない。農業も、福祉も、あるいは銀行救済だってそうなのですが、そういった話はあまり新聞、雑誌、テレビで言われておりませんから、次回話しましょう。







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