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インチキ道路ほど感謝される
 道路の使用目的はどんどん変わっていくものです。産業道路から観光道路とか、レジャー道路とか、情報道路とか、いろいろ呼び方も変わるが、それはさておき、東京、大阪、名古屋につくる道路は儲かる。儲かることをやりなさい、それには渋滞しているところだけ選びなさいという私の説に対して、誰も返事をしないのは、政治家は行動原理が違うんです。儲からないのをつくりたい(笑)。
 誰も通らない道路を、先生の力でつくってくださったと地元に感謝されたいのです。だから、インチキ道路ほど感謝される。そこに政治家の力があるわけです。
 普通なら来るはずがない、しかし先生の力で道路が来た、新幹線が来た、何とかが来たと、それで当選するわけですからね。
 これは行政官庁が抵抗しなければいけないのです。「先生、むだなことはやめてください」と言わなければいけない。言った人もいるのです、しかし言った人は局長になれません。
 その意味では、私は公務員の身分保証は大事だと思っています。藤井さんが「変な理由で首を切るのなら裁判にかける」と言っているのは、その意味では拍手すべき点もないわけではない。国家公務員の身分保証は、大正以来約一〇〇年かけて闘い取ったものですから。どこの国であっても、大統領が代わると公務員は全部入れかえということになれば、公務員は自分の信念にしたがった正しいことができなくなる。
 そうなれば、良心的な人は公務員にならなくなる。欲の皮の突っ張っているゴマスリばかりが公務員になる。それでは国民全体が、日本国家に愛想を尽かすようになります。すると、子供はアメリカに留学させよう、財産はカナダヘ移そう、こんな日本国家はいつでも逃げ出そう。・・・じつは、世界中そんな国だらけです。いくら国際化の時代とはいえ、日本にはそうなって欲しくありません。
 日本人が日本国家を愛している理由の一つは、公務員がきちんとしていると思っていることがある。そこへの信頼です。少しは乱れましたが、まだ根本的にはそうだと思います。その根拠はと言えば、皆さんが小学校、中学校、高校で周りを見渡して、あいつはできる、あいつは大したやつだというのが東京や京都の大学へ行って、何とか省に入っているという経験があるからですね。
 官庁に対する尊敬があるのは大事なことです。それを政治家が悪用するのがよくない。田中角栄さんは深夜、赤鉛筆で地図に道路や新幹線を書く。考えていることは政治的効果が第一ですが、それを官僚が全国民的利益だと正当化する仕事をする。その結果、官僚の信用は地に落ちた。それでも税の自然増収がある間はまだよかった。
 だが、これだけ不景気になって、税金は入らないのだから不採算道路はやめればいいわけで、その反対に渋滞しているところは一目瞭然ですから、そこだけ道路をつくればいい。
 しかし、そもそもなるべく安上がりにしようという発想が国交省にない。道路局道路審議会に集まっている人は学者も含めて、安く上げようという精神がない。なるべくむだ遣いをして金を使おうという議論ばかりなのです(笑)。
 安く上げようとするなら、新たに道路をつくらなくても今ある道路をもっと使う方法がある。例えば私が言ったのは、切符を多様化せよ、料金を多様化せよ。夜間割引とか、今から一時間だけ安くするとか、車種別、用途別、シーズン別、あるいは何とか別。いくらでも料金を上げたり下げたりせよ。民間の商売であれば、すぐにやることです。それによって需要調節をせよ、と、これは私が言って五、六年してから採用になりました。
 しかし、その五、六年間、私に対して「まことに正しい意見である、さっそく努力する」と言った人は一人もいないんです(笑)。むしろこう言われたのです。「いや、できません。道路公団のコンピュータが旧式でできません」。「では、取りかえればいいじゃないか」と言うと「それがそう簡単にいかないのが役所でございます。近くご説明にあがります」。その説明を聞くと、一番早くて三年先とか言っている。コンピュータの取りかえぐらいで、なんで三年先になるのか、民間企業ならその間に潰れている、というやり取りの思い出があります。
 さて、「結局こういうことは、民営化すると全部片づくのではないか」というのが今行われている議論です。民営化は何のためにするかというと、無駄な道路をつくらないためである。すなわちブレーキのための民営化です。
 しかし私が言いたいのは、ブレーキは民営化でなくたって、役所みずからブレーキをかければすむことです。役所みずから、「無駄なことはしない、判こは押さない」とやれば、国民は民営化などとは言いません。「引き続き役所にお願いします」と言う。
 つまり、みずから自分の信用を壊したのであって、その信用を立て直すにはどうすればいいかということをまず考えなさいと言いたいが、それに答える人がいない。
 運輸省の委員を長くしていたとき、あの人は航空族、あれは海運族、あれはトラック族、あれは鉄道族と学者がきれいに分かれていました。国会議員ではなく学者です。何を言うかは、言う前に想像がつく(苦笑)。やがて彼らは大学教授をやめ、名誉教授になったら事務所を開きました。住所を見たら、道路公団ビルの×階とか書いてある。そういうところに事務所を開くとは悲しい話ですね。全部自腹で払っているとは思えませんからね。
 そういうことがずっと続きました。それに対して、とにかく税金のむだ遣いをなくしてくれればいいんだというのが今の改革ですね。その実現へのアプローチとして、まずは財務諸表が赤字になっているじゃないか。そこから攻めようというのが今回の始まりで、そのドタバタ劇が続いているのです。







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