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吟剣詩舞の若人に聞く 第60回
 
長坂理絵さん
 
長坂理絵さん(十六歳)●愛知県岡崎市在住
(平成十五年度全国吟詠コンクール決勝大会少年の部並びに同年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞少年の部優勝)
姉:長坂紗織さん
祖母:長坂ハナエさん
師(吟詠):和田彩楓さん
指導:長谷川昭楓さん
師(剣舞):杉浦英容さん
家元:杉浦容楓さん(北辰神明流分家剣詩舞)
 
日頃の成果が花開く。
 
快挙、吟詠と剣舞の同時優勝
平成十五年度の吟詠と剣舞の全国決勝大会少年の部において同時優勝を果たした長坂理絵さん。杉浦先生門下というと、どうしても剣詩舞のイメージが強いのですが、今回は吟詠についても、その練習方法や取り組みなどを、ご家族、師匠、家元を交え、いろいろなお話をおうかがいいたしました。
 
――長坂理絵さん、まずは優勝おめでとうございます。今回は吟詠と剣舞の同時優勝。今のお気持ちはいかがですか?
理絵「ありがとうございます。本当に、ビックリしています」
――まず剣舞のほうからお聞きします。ご自分としてはどのような感じでしたか?
理絵「剣舞のほうは刀が苦手ですので、よろけないように気をつけました。練習の時もよくよろけていたので、そこに注意しました」(笑)
――吟詠はいつ頃から始められたのですか?
理絵「小学校の低学年ぐらいの頃からです」
――剣舞はいつ頃からはじめたのですか。吟詠と同じくらいに始めたのですか?
理絵「いいえ。剣舞は幼児の頃からです」
容楓先生にお聞きしますが、以前こちらの流派で吟詠の優勝はございましたか?
容楓「同じ流統で、少年の部に一人おります」
英容「お姉ちゃん(紗織)も少年の部で二位をとったんだよね」
――でも、理絵さんは優勝だものね(笑)。で、その少年の部の優勝の方からずいぶん経っているのですか?
容楓「はい、その子はもう青年の部です。野島志保といって、結婚して子供もおります」
――吟詠と剣舞の両方をやっていて、自分としてはどちらの方が得意ですか?
理絵「踊りの方が得意です。吟詠はよく絶句をしてしまいます。緊張してしまうと、唾がでてきて」(笑)
――それじゃ吟詠コンクールで、名前を呼ばれたときにはビックリしたでしょう?
理絵「はい」
――昭楓先生がご指導なさっていて、理絵さんの吟詠はいかがですか?
昭楓「実際、すごく声量がありまして、私が教えるなんて、とんでもないのですけど、何とか粗(あら)を探して注意しようかと思うくらいよく出来上がっています(笑)。本当に感心してしまいます」
――いつ頃から教えられているのですか?
昭楓「あの容楓先生、何年頃になりますかね?」
容楓「実は理絵は吟詠については、以前から和田彩楓先生に吟詠講師をお願いしているのですが、近頃先生がお体の具合を悪くなさいまして、ここ二年前から入退院を繰り返しておられるものですから、昭楓先生に指導をお願いしました。それまでも和田先生が用事でお出かけになったりする時は、代稽古をお願いしていただいておりました。話は前後しますが、昭楓先生をご指導なさったのが和田彩楓先生で、昭楓先生は和田先生のお弟子さんに当たるわけなのです。そして、昭楓先生は平成十三年度全国吟詠コンクール決勝大会一般二部で優勝されているのですよ。うちとも、もう長いおつき合いをさせていただいています」
――それじゃ、昭楓先生は理絵さんのいいところも悪いところも、もうよくご存知ですね?
昭楓「いい面は、少年らしい吟ということです。嫌みのない素直な吟ですね」
理絵さんの吟の特徴というと、どういうところがありますか?
昭楓「やはり、高いピーンとした張りのある声ですね。声量があります。それからフリが細かいです。カラオケで言うと、こぶしに当たるのですが、そのフリが綺麗です。急に入るようになりました。やはり、彩楓先生に注意されると、意識するようになります。やれてもやれなくても言われていると、意識につながって声に入るようになるのです」
理絵「小さい頃に彩楓先生に、フリが入らないからダメとよく注意されで。それで自然と入るようになりました」
昭楓「自然と入るところがこわいわね(笑)。なかなか手取り足取りして教えても入らない子は入らないですし、大人でもそうです。やはり、素質があるのですね」(笑)
――どう、九本も出せるというけど、高い声も楽に出せるのですか?
理絵「はい」
 
前列(左)より吟詠指導の長谷川昭楓さん、長坂理絵さん、剣舞の師、杉浦英容さん、後列(左)より祖母の長坂ハナエさん、姉の長坂沙織さん、杉浦容楓分家家元
 
――今回の吟題、これを選ばれたのは何かわけがあるのでしょうか?
昭楓「この吟題を選んだのは理絵ちゃんです」
――理絵さん、何かわけがあるの?
理絵「全体的に詠ってみて、詠いやすかったからです」
――昭楓先生、いま、具体的にはどんなお稽古をしているのですか?
昭楓「あまり時間を取れませんので、一吟やっていただいて、二、三気づいた点があれば、それを注意するというやり方です」
――理絵さん、詩吟をやっていると剣舞に役立つことや、剣舞をやっていると吟詠に役立つということはありますか?
理絵「詩吟をやっていると、剣舞のときに大きな声がだせますし、剣舞をやったあとに吟詠をしますと、体を動かした後なので、声の調子がいいです」
――それでは剣舞についてお聞きします。まず自分が好きだという剣舞で優勝した感じはいかがですか?
理絵「すごく嬉しかったです」
――特に何か注意された点というのはありましたか?お姉さん(平成十二年度全国剣詩舞コンクール決勝大会青年の部優勝)からアドバイスがあったと聞きましたが、役に立ちましたか?
理絵「はい。食事に関して、喉に悪いものは食べさせてもらえませんでした」(笑)
紗織「私が最初に食べて、良いものだけを食べさせるようにしました」(笑)
理絵「焼きナスは喉に良くないと言われて、コンクールが終わるまで食べることができませんでしたね」(大笑)
――ナスが喉に良くないって、本当ですか?
理絵「どうなんでしょう?」(一同大笑い)
――英容先生、今回は指導するにあたって何か注意なさったことがありますか?
英容「剣舞は前の年もいい線までいき、惜しかったなというレベルにまでいっていましたから、本人もペースをつかんでいるみたいだったので、もうこのまま調子を崩さないようにと考えていました」
――本人にまかせているのですか。手取り足取り指導するという感じではないと?
英容「そうですね。まず本人に自分なりに演技、表現をしてもらって、もし、これはあわないんじゃないか、という点は指摘しますが、はじめから細々(こまごま)と表情づけであるとか間の取り方を教えるのではなく、あらすじは教えますが、表現を自分で考えて踊るように指導しています」
――今回のテーマ「剛勇義経」を選んだわけは何かございますか?
英容「正直言いますとこの『剛勇義経』をやらせるかどうかは迷いました。題名に義経という人物があり、しかも剛勇ということで、理絵ちゃんの外観から判断してギャップがあるかなと思ったのですが、詩文をよく読んでみると色々なエピソードがあり、表現力のある理絵ちゃんには向いていると判断し、やらせることにしました」
――本人としてはどうでした?
理絵「最初は振りがすごく難しいな、と思いました。これは自分にできるのかなと不安に思いながら練習に入っていきました。練習していくうちに段々かたちとかが分かってきたので不安はなくなりました」
――お姉さんは練習を見ていらしたのですか。その辺についてはどうお感じになりました?
紗織「できるかな、と正直思いました。私にはできない踊りです」(笑)
――英容先生、よくそこまでやらせましたね?
英容「さきほど理絵本人も申しておりましたが、理絵の場合は、ちょっととっかかりに時間がかかりますが、コツコツと稽古をして積み上げていくというのは、得意ですので、時間をかけてさえやれば、自分のものにしてくれると思いました」
――いかがですか、容楓先生はご覧になっていて?
容楓「理絵ちゃんの剣舞については、今回はほとんどノータッチなんです。確かに英容が、理絵ちゃんに『剛勇義経』をやらせるかどうか悩んでいました。私は上杉鷹山の方法を取りまして、為せば成る、為さねば成らぬ何事も、為さぬは人の為さぬなりけり、です。やらせればいいじゃない、と楽観していました」
――お祖母さまは、どうですか。お姉さんに続いて理絵さんが優勝したことには?
祖母「嬉しいだけの一言につきますね」
容楓「このお祖母さまも私と同じで、為せば成るという考え方でお二人のお孫さんを育ててきました。今日は少し遠慮しているのです」(笑)
――最後の質問になります。今後の抱負を一言のべてください?
理絵「今年一年はコンクールに出られないので、その間できるだけ力を磨いて、再来年青年の部に上がれば、青年の部でも頑張っていきたいと思います」
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。今後のさらなるご活躍を期待しております。
 
杉浦英容、長谷川昭楓両氏より指導を受け、ポーズをとる長坂理絵さん







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